第316話 僕たちの衣装

「ねえ! リーフ、どうかな!?」


 メルアが透明ローブを使って簡易的に作ってくれた試着室から、アルフェが飛び出すと、出来上がったばかりのスカートの裾が弾むように揺れた。


「めちゃめちゃ可愛い! ちゅーか、もう、ししょーのアイディア、やば過ぎでしょ!!」


 僕よりも早く驚嘆と喜びの声を上げたメルアが、立ち上がって惜しみない拍手を贈っている。アルフェはメルアの感想に上気した頬に手を当て、僕に視線を戻した。


「良く似合ってるよ、アルフェ。あのデザインそのものだ」

「ありがとう、リーフ」


 僕の感想を受けたアルフェがはにかむような笑みを見せ、その感情を受けたスカートがさざめくように揺れている。誰よりも豊かなアルフェの感情をどのくらい反映出来るかが第一の課題だったが、これはもう成功と言って差し支えないだろう。


「こんなに早く出来ちゃうとは、いや~、早くエステアたちに見せたいよね!」

「そうだね」


 僕が作った感情に合わせて揺れる布地を使ったRe:bertyリバティの衣装第一号が早くも完成したことに感慨深く頷く。このスピード感は僕も想定外だ。これもマリーが手配してくれた業務用の縫製魔導器ミシン磁力操作魔法マグネトロンの自動化と高速化が叶ったおかげだ。


「じゃあ、次はししょーかホムちゃんの衣装だね! どっちにする!?」


 勢いづいたメルアが、僕が透明化する魔墨で簡易術式を描き込んだ布地を広げながら訊ねる。


 僕かホムを選んだのは、僕たちがRe:bertyリバティのメンバーの中で比較的感情が読み取りにくいからだ。その自覚もあるので、僕はその提案に頷いた。僕は布地の量とデザインを見比べ、ホムのデザイン画の方をアルフェに見せた。


「僕の衣装だと布をかなり使うから、先にホムの衣装にしよう。ホムは内面の感情は豊かだけれど、表出するのが苦手だから、この布がどう受容するかも気になるからね」

「うん、ホムちゃんもきっと喜んでくれるよね」


 アルフェが頷きながら、出来上がった型紙を布地に宛がう。


「じゃ、風魔法でぱぱぱーっと切っちゃおう♪」

「お願いします! ワタシは帽子の方を手作業でやっちゃいます!」


 アルフェの承諾を待ち、メルアが両手の人差し指と中指を立てて鋏のように動かしながら、風魔法を発動する。布地は一瞬で型紙通りに切り抜かれ、ふわふわと宙を舞うと縫製魔導器ミシンの前へと移動した。


 布地の裁断が終わったことに気づいたアルフェが、縫製魔導器ミシンの方に移動して、三台を同時に稼働させる。すぐに自動縫製の音が響き始め、ホムの衣装の縫製が始まった。


「これが終わるまでに、帽子も仮縫いまで出来るといいんだけど……」


 そう呟きながら帽子の制作にとりかかるアルフェには、少し疲れの色が見える。着たままにしている衣装を見れば、アルフェが楽しんでいることは良くわかるが、ここで根を詰めすぎるのも良くないな。


 こういうのは、出来るときに一気にやってしまった方がいいとは思うけれど、流石に液体エーテルで消費するエーテルは代用出来ているとはいえ、磁力操作魔法マグネトロンを自動化させる手前まではアルフェの精神力と想像力に頼っているので、かなり負担は大きいはずだ。


「……アルフェ、帽子の方は普通の布地で作るし、後でもいいんじゃないかな?」


 僕が問いかけると、アルフェは笑顔で首を横に振った。


「ホムちゃん、リーフと同じ帽子を凄く楽しみにしてたから、だから出来るだけ完成に近づけて喜ばせてあげたいの。そうすれば、ホムちゃんの感情も高まって、リーフが気にしてること、全部解消出来るでしょ?」

「そうだね。そういうことなら……。だったら僕にも手伝わせてほしい」


 ああ、アルフェが気遣っていたのは、ホム自身のことというよりも、僕のことだったんだな。ホムの衣装で僕の錬金術の仕掛けが上手く実証出来たなら、もう後の心配はなにも要らない。僕としても、これ以上の試行錯誤が不要だとわかって一安心なのだとアルフェは誰よりも理解していたのだ。


「じゃあ、リーフの帽子を見せて。ちょっと想像だと補いきれないところがあるから、魔法で型紙に模写出来たらいいなって」

「もちろん」


 アルフェのお願いに笑顔で頷き、母からもらった帽子を脱いでそっと作業台の上に置く。アルフェはそれを真剣な眼差しで見つめると、自動書記魔法を使って作りかけの型紙の補正を始めた。


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