第303話 生徒会への加入
やれやれ。手伝うとは言ったが、まさかこんな事態になるとは思わなかったな。僕はあまり人の上に立つような人間ではないだけに、どうしたものだろうか。
困り果てながら、書類に目を通してみると、各役職には補佐を選任出来ると記載があるのを見つけた。
「……ねえ、エステア。この補佐を選任できるというのは、僕が決めてもいいのかな?」
「もちろんよ」
ああ、それなら僕にも生徒会副会長が務まるかもしれない。このカナルフォード学園をまとめるのが生徒会会長であるとすれば、彼女を支える副会長は僕一人では到底足りない。
「それなら引き受けるよ。……ということでヴァナベル、生徒会副会長補佐を頼めるかい?」
「はぁ!? なんでオレなんだよ! 委員長だって一人じゃ出来ねぇんだぞ?」
自分に話が振られると思ってはいなかったのか、ヴァナベルが目をぱちぱちとさせながら僕に問いかけてくる。
「それは過去の君だろう? 事実総選挙の準備期間、一人で全部やってくれたじゃないか」
「そーだよねぇ~」
ヌメリンがうんうんと頷く隣で、ヴァナベルは低く唸りながら、手にした飲み物を飲み干している。
「確かにヴァナベルは亜人生徒とのコミュニケーションが抜群ですわぁ」
マリーの補足を聞いて、どうしてヴァナベルを選んだのかを伝えておいた方がいいことに気がついた。僕を補佐するなら、ホムかアルフェが適任だと言われる前に、僕の真意を伝えておく必要があるだろう。
「そう。これからの橋渡し役に最適だと思うんだ。君は素直だし、人の心を掴むことに長けているからね」
「ん~、まあ、お前にそこまで言われると断れねぇよなぁ。やっぱ、オレの力が必要だって言われるのは嬉しいもんだし」
僕の言葉がきちんと届いたらしく、ヴァナベルが満更でもない様子で態度を軟化させる。
「なにかしたいって、ずーっといってたもんね、ベル~」
「バラすんじゃねぇよ、ヌメ!」
「仲がいいんですわね」
ヴァナベルとヌメリンのやりとりを興味深く眺めていたマリーが呟くと、ヴァナベルは照れ隠しなのか後頭部をがりがりと掻いた。
「まあ、ヌメとは小さい頃からずっと一緒だもんな」
「あ、でも窓口役がF組生徒だけだと貴族寮の人たちって来づらいみたいなことにならないかな? イグニスさん側の人とか」
話を聞いていたアルフェが、ふと思い出したように訊ねる。確かに全員参加を考えるなら、貴族寮側との連携も考える必要があるのは間違いない。
「だったらアイツを誘えばいいじゃねぇか!」
「あいつって?」
ヴァナベルに心当たりがあるようなので、聞いてみる。
「リゼルだよ、リゼル! なんか地位的なもの欲しがってたし、イグニスとはちょっと距離を置いてるだろ。ライルでもいいけど、爵位が高い方が貴族ってやつはやりやすいんだよな?」
「それはいいかもね。リゼルが望むならグーテンブルク坊やをさらに補佐に選んでもいいかもしれない」
この前の合同演習でも感じたことだが、あの二人の連携は見ていて安心出来る。グーテンブルク坊やなら、平民への理解もあるし、上手くやってくれるだろう。
「……なあ、リーフ?」
僕の提案に少し考えてから、ヴァナベルが疑問の眼差しを向けてきた。
「ん? なんだい?」
「なんでグーテンブルク坊やなんだ? ライルのことだよな?」
「昔からなんだぁ。ライルくんとは、小さいころから同じ学校だったの」
僕より先にアルフェが応える。ああ、そういえばこの呼び名は昔からだが、貴族の生徒とあまり交流がなかったので、誰からも突っ込まれたことはなかったな。
「へぇ~、なんかあだ名みたいなもんか。面白ぇな。自分も子供なのに、相手を『坊や』だなんて」
「……言われてみればそうだね……」
少なくとも当時、前世の僕から見れば坊やには違いなかったのだが、まさかそんなふうに突っ込まれるとは思ってもみなかった。これからは気をつけた方がいいんだろうけれど、それはそれで面倒だから、一旦アルフェの解釈に甘えることにしよう。
「でも、ライルくん、ちょっと子供っぽいところあったから……」
「ぶはははっ、男子のやろーってのは、そういうところあるらしいよな。まあ、ギードとかアイザックとかロメオを見てると人によるんだろうけど」
「そういうことに気づけるのが、みなさんの素晴らしいところですね」
大笑いするヴァナベルを見つめて、エステアが柔らかに微笑んだ。
「ん? オレ、なんか言ったか?」
「人を安易に分類せず、個性を尊重しているところです」
「そんな大したもんじゃねぇよ」
ヴァナベルはエステアの褒め言葉を一旦否定すると、照れくさそうに僕の方を見た。
「……ただ、リーフと接して、なんかオレも視野が狭かったなって反省してさ。大人ぶってる時って、自分が思ってるよりずっと子供なんだよな。って、なに言ってんのかわかんねぇけど」
「わかるよ~、ベル~」
「お前はまた別だろ、ヌメ」
幼馴染みであるヌメリンは、ヴァナベルがどんなに言葉足らずでもちゃんと理解出来ているのが凄いな。ヴァナベルもそれに甘えないところが、彼女の成長を物語っている気もする。そうして誰かを観察するだけでなく、成長を把握出来るようになった僕も、人付き合いという意味では成長しているのだろう。少なくとも、前世よりは遙かに。
「……そういえば、ヌメさん、あなたってもしかしてヌメリン・ペロニアではなくって?」
「そ~だよ~」
「
「ひゃ~~!?」
マリーが突然ヌメリンの手を取り、熱烈にアピールを始めたので、ヌメリンが素っ頓狂な声を上げた。
「な、なんでヌメなんだ!? マリー先輩の方が桁違いのお金持ちじゃん!」
口をぱくぱくと動かすだけになってしまったヌメリンの動揺が伝わったのか、ヴァナベルが代弁するように問いかける。
「
「マジか!? どんな地獄耳なんだよ!」
普段は地獄耳と言われる側のヴァナベルが本当に驚いた様子で目を丸くしている。マリーはそれににっこりと笑って、ヌメリンの手をしっかりと握り直した。
「今まで
「たしかに~数字も計算も得意だしぃ~……」
「では、やりましょう!
有無を言わさぬ勢いで、マリーがヌメリンの手をぶんぶんと上下に振る。どうやらこの勢いで、生徒会の編成が進んで行くようだ。でも、これもエステアらしいというか、彼女が望んでいる生徒の自治という意味では最適なのかもしれないな。
そうして、生徒会長エステアをはじめとして、副会長は僕、副会長補佐がヴァナベル、リゼルとグーテンブルク坊や、会計がマリーと会計補佐ヌメリン、書記と技術相談役にメルア、魔法相談役にアルフェ、武術相談役にホムとファラが指命され、パーティーはお開きになった。
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