第268話 マリーの人柄
ライブが一段落し、ライブハウスを出ると、ひんやりとした冬の空気に迎えられた。興奮と熱気の渦巻くライブハウスの中では暑いくらいだったのに、外に出ると今が冬であることを改めて実感した。
「すごい体験だったね! ライブのあの白熱した空気、ワタシ、好きかも!」
「そうだね。たまにはこういうのも悪くない」
僕に遠慮してか最初は後方でリズムに合わせて身体を揺らしながら見ているだけだったアルフェも、後半になってからはエステアたちと同じく最前列でライブを楽しんだ。リズムに合わせて手を高く掲げ、小刻みに跳ぶ様子は、まるで興奮の波のようで見ている僕も楽しかった。
「あっ、いたいた! ししょ~!」
「待たせたわね、リーフ」
「あー、久々にエキサイトいたしましたわ~!」
僕たちより少し遅れて、エステアとマリー、メルアがライブハウスから出てくる。入れ替わりにチケットを持った大人たちがライブハウスへの階段を下っていった。19時を回ったこともあり、客層も学生から大人たちへとシフトするようだ。
「はー、楽しかった! ドリンク一気飲みしたけど、まだ喉からっから!」
「
メルアの呟きにマリーが即座に提案する。
「さんせーい! インペーロなら近いし、値段も手頃でいいよね!」
「そんなの気にしなくても、
「さすがにそれは――」
話がどんどん進んでいくので、慌てて口を挟もうとしたが、マリーに視線だけで圧をかけられてしまった。
「
マリーがあまりにも包み隠さず本音と思しき言葉をぶつけてくるので、僕たちは思わず顔を見合わせてしまった。
「にゃははっ。それはあたしたちも願ったり叶ったりだよな。じゃあ、遠慮なくいこうぜ」
「ありがとうございます!」
ファラが吹っ切れたように笑い、アルフェもファラに合わせる。ルームメイトとして過ごしてそろそろ一年、二人の息もかなり合うようになってきた印象だ。だが、マリーは喜ぶどころか片眉を持ち上げ、芝居がかった仕草で腰に手を当てると僕たちを真っ直ぐに見据えた。
「んもう、堅苦しいのはなしですわ!
「そーそー! 気にしないでいいよ! うちとの初対面もこんな感じだったし」
「メルアが言ってもあまり説得力がないんじゃないかしら」
見かねたエステアが間に入ると、マリーはそれに頷き、更に続けた。
「メルアはそもそも同学年ですし、当然ですわ。
貴族というと、イグニスやリゼルのイメージが強いが、マリーのように頓着しない場合もあるのだろうか。少しだけ気になったので、訊ねてみることにした。
「……階級をあまり気にしないと公言するのも珍しいね。なにか理由があるのかい?」
「別にありませんわ。ただ、
マリーの率直な物言いは素直に好感が持てた。エステアの親友とのことだし、信頼してもいいのだろうな。ただ、今日一緒に過ごしただけでも金銭感覚がかなりズレているようだ。まあ、本人が気にしないでいいというなら、それに従うのが良いのだろうけれど。
「……あっ。ししょー、今さ、奢られてばっかりで申し訳ないとか考えてた?」
「ん? まあ、当たらずしも遠からずだけど」
「心配しなくてもあとですっごい対価を求めてくるから、だいじょーぶだよ! マリーはどっちが上とか下とかなくて、基本的に『持っている者』がお金なり、知識なり、才能や能力なりを出すべきって考えなんだよね」
「その通りですわ~!」
メルアが僕に小声でそう教えてくれたのを、マリーは聞き逃さなかった。
「
目立たないようにと努めていたつもりだったが、
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