第235話 炎の強襲
---リーフ視点----
イグニスのデュオスの頭部の装甲を粉砕したことで、観客席にどよめきが広がっている。
デュラン家の長男たる彼を応援しようと学内外から多くの観客が詰めかけていることを考えると、まあ当然の反応だろう。
「先制したのは、リインフォース!! 果たしてぇええええええっ! ここから巻き返せるのかぁあああああああ!!!!??」
ジョニーはあくまで司会者として
何故ならイグニスは、頭部を破壊された後、すっかり動きを止めてしまっているからだ。
「頭部の
頭部を狙ったのは、そこにある
恐らくイグニスは、機兵の視覚情報を失ってかなり不利な状況だろう。氷魔法で
「……降参するとは思えないけれど、その気があるのなら待つよ」
どう戦うべきか思案しているであろうイグニスに問う。もう一箇所有効部位を破壊すれば僕の勝ちだが、焦る必要はない。
「……くくく、一撃入れたくらいで勝ったつもりか!?」
僕の問いかけにイグニスが耳障りな笑い声を立て、苛立ったように地面に
床が罅割れ、大きく亀裂が入る。だが、それだけだった。
「……これは……どういうことでしょうか……? イグニス・デュラン、自ら
本当に困惑しているのだろう、ジョニーの声にはっきりと戸惑いが現れている。一応防御の体勢を取るが、イグニスは機体の両腕を交差させて胸の高さに上げ、自らの装甲に機兵の指を立てた。
「え……?」
「こっ、これはぁあああああああっ!!!!??? 信じられない!! なんという勇気!! 暴挙とも取れる勇気がイグニスを突き動かしているぅうううううっ!!!
イグニスがしていることをいち早く理解したジョニーが叫ぶ中、イグニスは自らの手で操縦槽を守っていた装甲を毟り取るように引き剥がした。
「ははははははははっ!!! どうだ!! 見たか!!」
装甲が失われれば、当然操縦槽が露出する。その操縦槽のガラス盤を自らの剣で突き破り、イグニスは狂ったような笑い声を上げている。
「さあ、これで風通しがよくなったぜ!」
正気の沙汰とは思えない。操縦槽への攻撃は禁止されているとはいえ、僕のアーケシウスは従機ではあるけれど、機兵と従機の戦いの中、剥き出しの操縦槽で戦うなんてどう考えても狂っている。
「そっ……操縦槽が剥き出し!! 剥き出しです!! こっ、これは……アリ!? アリなのでしょうかぁあああああああああっ!! 機兵戦でどんな魔法や破片が飛ぶかは予想外だがぁああああああっ!!!!?」
「問題ねぇからやってるんだ!! うだうだ言わずに司会は試合を続行しろ!!」
「……し、審判の判断は……――。ぞ、続行! 試合続行でぇえええす!! 誤って操縦槽に攻撃を加えた場合は即失格とみなします!! さあ、どうなる!? この戦い!!??」
「ヒトモドキ相手に少々お遊びが過ぎたな。不快な虫は全力で叩き潰す」
デュオスの背中の巨大な
「なんだこれは……」
デュオスの背後でうねりをあげた炎が禍々しく渦巻いている。
「風魔法と炎魔法……。いつの間に……?」
呟きながら、それもあり得ないと僕は唇を噛んだ。そもそも無詠唱の
――でも、なんか変……
アルフェはことある毎にイグニスの炎を見るたび呟いていた。そのことが急に思い出された。
「ぼやぼやしてると、あっという間にズタズタだぞ! よっぽど俺様の
今や
「覚悟しろよ、クソガキ!!
デュオスの背部の爆炎が牙を剥き、アーケシウスを呑み込まんという勢いで突っ込んでくる。デュオスの加速は、ヴァナベルの致命の一刺に匹敵する。アーケシウスでは回避することは出来ない。
全速力で後退させながら
「土よ、我が命により隆起せよ。クレイウォール」
魔法で土の壁を生成し、デュオスの動きを止めようとしたが、無駄だった。
「凄まじい炎を
土壁は瞬く間にデュオスの
咄嗟に氷魔法をアーケシウスに施し、その余波を相殺したが、あの炎の直撃を受ければ命はないと本能で悟った。
どういうカラクリかはわからないが、イグニスの
「オラオラ! どうしたぁ!? あと一撃入れてみろよォ!」
イグニスが
「逆巻く風よ、疾風の加護を。ウィンド・フロー」
次の瞬間、氷の破片が激しく散る音が響いた。
「ちっちぇネズミがちょこまか動きやがってぇええええっ!!」
怒り任せに
「……そのネズミ一匹仕留められないのは、どこの誰だい?」
イグニスの行動は比較的わかりやすい。プライドが高く、それを傷つけられるとムキになって襲ってくる。
「貴様ぁあああああああっ!!!!」
剥き出しの操縦槽に座しながら、この炎の中にいるのは驚異的だ。
「凄まじい炎を繰り出すデュオス!! この威力にはぁああああああっ!! メルアも嫉妬するぅうううううううっ!!!」
氷の壁の向こうで何が起きているのか知る余地もないが、ジョニーの実況が聞こえてくる。その言葉でふと気がついた。
そもそも魔装兵でもないデュオスで、なぜこれだけの炎魔法を操ることが出来るのだろう。
――違うの。あの炎、エーテルを使ってない。
アルフェの言葉がまた一つ思い出された。あれは確か、初めてイグニスの炎魔法を見た時のアルフェの反応だ。あの時は深く考えていなかったが、あれは一体どういう意味だったのだろう。アルフェは
「さっきの言葉、後悔するんだな。今度は逃げられねぇように、とっておきのをお見舞いしてやるよ」
デュオスは最早
「凄まじい炎だぁああああああっ!!!!! 防護結界を三段階上げておりますがぁああああああああっ!!!
ジョニーの声が絶望的な状況を知らせてくる。この炎に対抗する術はあるだろうか。あとどれくらい時間が稼げるだろうか。僕は、一体僕は、今ここで――
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