第232話 決勝戦開幕


「レディイイイイイイースエーーーーーーンド、ジェントルメェエエエエエエーーーーーーーン! 皆様、大変ぇえええええええええんッッ!!! 長らく!!! お待たせ致しましたぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 超満員の大闘技場コロッセオの観客に負けじと、拡声魔導器でマイクの精度を上げた司会のジョニーが真っ白なスーツに身を包み、闘技場中央へと悠々と歩を進めていく。


「待ってたぞ! ジョニー!!」

「スパロウさん、こっち向いてーーー!!」


 いよいよ決勝戦ということもあり、観客席からはジョニーに向かって惜しみない拍手が送られる。ジョニーはいつものように大きく左手を上手に向かって広げて頭を垂れ、同じように右手を下手に、最後に両手を広げて正面に向かって深々と頭を垂れた。ジョニーの礼に合わせて客席全体から拍手が起こり、最後の一礼が終わると割れんばかりの拍手と歓声となって大闘技場コロッセオを包み込んだ。


「皆様! ありがとう!! ありがとうございますッッッ!!! しかーーーーし! 皆様の本当のお楽しみはこれからだぁああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

「エステア! エステア!」

「イグニス! イグニス!」

「アルタード! アルタード!」


 ジョニーの口上に刺激されたように、観客席から応援の声が沸き起こる。意外なことに、エステアとイグニスを応援する声に次いで多いのは、ホムのアルタードへの応援の声だった。


「マスター、聞こえますか?」

「聞こえてるよ、ホム。とても誇らしい気持ちだ」


 緊張か、あるいは感動で少し震えた調子のホムの声に反応し、アーケシウスの首をアルタードに向けて動かす。ホムの顔が見えるわけではないけれど、そこに凜々しく佇むアルタードからホムの様子が想像できた。


「メルアさんとレムレスを応援する声も聞こえるね」


 声の様子から、嬉しそうに耳を澄ませているアルフェの表情が見えるような気がした。僕のアーケシウスを讃える声は聞こえないけれど、注目されていないということは、少なくともイグニスに対して有利に働くだろう。


 初戦の様子からエステアとメルアの話をイグニスが聞かないことはわかっている。二人がどれだけ僕を警戒しても、機体性能の差が大き過ぎることもあり、イグニスの目には取るに足らないものとしか映らないはずだ。


「それではぁあああああっ! 早速入場してもらいましょう!!! カナルフォード生徒会チームよりぃいいいいいいいいいいッ! イグニスゥウウウウウウウ・デュラァアアアアアアアアンッ!!!!!!」

「イグニス! イグニス!」

「イグニス! イグニス!」


 どういう仕掛けか、観客席の一部が赤い光で照らされ、イグニスを讃える声が大きく聞こえてくる。人数に対してかなり大きな声に聞こえるので、この入場に合わせて限定的に拡声魔法を使ったのだろう。


 試合中の禁止行為ではあるが、入場は試合ではないという判断なのか、あるいは事前に申請でもしているのかマチルダ先生たちの反応はないようだ。


「皆様ご覧くださぁああああああい! デュオスのぉおおおお、赤輪刃レッドソーがぁあああああああっ! 早くも真っ赤に燃えているぅうううううううっ!!!!!」


 入場口に控えている僕たちに見せつけるように、イグニスが赤輪刃レッドソーに禍々しいまでの炎を纏わせて挑発している。


 燃えさかる炎に合わせて、イグニスを讃える声は高まるばかりだ。だが、それに負けじとエステアとメルアを讃える声が次第に高まり出した。


「エステア! エステア!」

「エステア! エステア!」

「メルア! メルア!」


 イグニスを応援している派閥の拡声魔法が途切れたのか、エステアとメルアの登場を待ちわびる声が勢いを増していく。


「続いてはぁあああああっ!!!! 去年度の武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯の優勝チーム『シルフィード』の絶対的エェエエエーーーーーース! エステア・シドラァアアアアアアァ!!!!! そしてぇえええええええっ! メルア・ガーネルゥウウウウウウウ!!!!」


 エステアとメルアの機兵が揃って大闘技場コロッセオに姿を見せると、アーケシウスに乗っていてもわかるほど、空気が揺れた。


「今年はぁああああああっ!!! 生徒会代表としての参加ァアアアアアアアッ!!! 果たしてぇえええええっ!!! 生徒代表としてその強さを見せつけられるのかぁああああああ!?」

「エステア! エステア!」

「エステア! エステア!」


 やはりエステアは圧倒的な人気だ。最早空気だけではない、大闘技場コロッセオ全体が大きく揺れている。いや、その興奮の余波は大闘技場コロッセオの外、街全体に及んでいるのではないだろうか。


 観客たちが身を乗り出し、興奮に拳を突き上げてエステアとメルアの名を叫び、割れんばかりの拍手と歓声が起こっている。


「そしてぇええええええええっ!!!!! 初参加ながらぁああああああっ、素晴らしい戦いを見せてくれたぁああああああああっ、リインフォーーーーーーーーーーースゥウウウウウウウウウウウウウウウゥゥウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!」


 大歓声に負けじと声を張り上げたジョニーの紹介を合図に、僕たちは三人揃って入場口から大闘技場コロッセオの中心に向けて機体を進めた。


 エステア一色になりつつあった声援に、アルタードを応援する声が混じるのが心地良い。


 ホムのアルタードを先頭にアルフェのレムレス、そして僕のアーケシウスが続く。


 六機が揃うと、再び大歓声と割れんばかりの拍手が起こり、それから試合開始を促すように静かになった。


「えーーーー、それではぁあああああああっ、これよりぃいいいいいいいいいッ! 武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯のぉおおおおおおおおおっ、決ッ勝ッ戦ぇええええええええんをぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 始めます!! ――試合開始ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」


 司会のジョニーの姿が実況席に吸い込まれるようにして消え、戦いの火蓋が切られた。


「それじゃ、まずはお手並み拝見といきますかぁ~!」


 イグニスの牽制を兼ねているのか、メルアが無詠唱でストーンランスを発動し、石の槍を降らせる。


「任せて!」


 アルフェが声を上げると同時に、無数のウォーターランスで石槍ストーンランスを迎撃する。かなりの質量を伴うため瞬発力に欠けるストーンランスに対して、無数に生み出されるウォーターランスの迎撃は圧巻だ。


「出たぁあああああっ!!! 開幕と同時に魔装兵同士の魔法対決ぅううううううっ!!!」


 だが、メルアは怯むことなく次の一手を繰り出すべく愛機アルケーミアの魔導杖を勢いよく振るった。


「そう来なくっちゃ!」

「灼熱の炎よ――」

「風よ――」


 メルアの爆炎魔法イクスプロージョンの詠唱とほぼ同時にアルフェの風魔法エアロ・ブラストの詠唱が重なる。


「灰燼と化せ――イクスプロージョン!」

「幾重にも重ね束ね、破鎚となれ――エアロ・ブラスト!」


 両者一歩も譲らず、ストーンランスとウォーターランスの応酬を重ねながら中位魔法をぶつけ合う。


 メルアが発動させた巨大な爆炎球に対し、アルフェは更に巨大な空気の塊で迎撃する。

 二つの魔法は空中でぶつかり合い、爆風を伴いながら威力を相殺する。


「なぁああああんとぉおおおおおおおおお!!! ここで魔装兵同士の多層術式マルチビジョン対決が始まったぁああああああっ!!!!!」


 爆煙と爆風による土煙に包まれ、大闘技場コロッセオの視界は著しく悪くなる。


「俺様より目立つんじゃねぇ!!」


 視界不良となったこの瞬間を好機と見たイグニスが、敵陣から一気に突出する。

 だが、それは想定していたとおりの動きだ。


「ホム!」

「マスター!」


 連携を乱したイグニスが、真っ先に突っ込んでくる。それこそが本当の好機だ。


「雷光よ、迸れ――スパークショット!」


 僕が真なる叡智の書アルス・マグナ雷魔法を繰り出すと同時に、ホムが挟み撃ちで頭部への蹴りを試みる。


「おらぁああああああっ!!」


 イグニスは赤輪刃レッドソーに纏わせた炎で強引にそれを突き破る。だが、それも想定済みだ。軌道を逸らされたスパークショットは、ホムの右腕にまとわりつき、打撃に雷魔法の威力を上乗せする。


「喰らいなさい!」

「ハッ! うるせぇハエだなぁ!」


 ホムの右腕から繰り出された打撃を赤輪刃レッドソーでいなそうとするが、その威力にイグニスのデュオスが大きく仰け反る。


「バカな!?」

「はぁああああああっ!!」


 油断から体勢を大きく崩したイグニスに、ホムが追撃の連打を放つ。


「加勢します、イグニス!」

「いらねぇ!」


「弐ノ太刀にのたち飛燕ひえん!」


 エステアはイグニスの罵声を無視し、風の斬撃をホムへと放つ。牽制を兼ねていたこともあり、ホムはそれを難なく避けたが、イグニスに体勢を立て直す隙を与えてしまった。


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