第201話 ブラッドグレイルの追試実験
追試実験のブラッドグレイルは、あめ玉ほどのごく小さなものを錬成することにした。面倒なのは、簡易術式を組み合わせた錬成陣だが、先日エーテルの流れを見ながら描いたことによって、ある程度簡略化や最適化出来る場所を見つけることが出来ていた。
アルビオンの簡易術式は、旧字を使って描かれているが、僕はそれを最適化し、さらに強化すべく彼の時代にはなかった新字を組み合わせて新たな錬成陣を生み出すことを思いついたのだ。
かなり複雑化されている錬成陣だが、一度読み解いてしまえば、僕にとってはそう難解なものではない。光属性を増幅させる効果を持つ新字を組み合わせ、僕の血から効率良くエーテルを吸収し、魔獣の血を光属性に変換出来るように描き加えてやる。
簡易術式が正しく機能するかどうかは、先日の錬成で確かめたとおり、僕の血が錬成陣に反応して金色の輝きを見せていることから随時確認出来るのが便利だ。
「うわぁ……。ここで、新字変換しちゃうとか、うちのししょー、本気でヤバ過ぎる。しかもこれ、一発描き!?」
「まあ、そうなるね。ああ、写しがないとレポートに書き起こすときに面倒かな?」
「じゃあ、それうちが投影魔法に記録しとく。後で紙に写せばいいっしょ」
メルアが素早く投影魔法を発動させ、僕が描いた錬成陣を写し取っていく。優れた魔法の能力を持つメルアならではの機転のおかげで、レポートをまとめる作業はかなり順調に進められそうだ。
「属性関係ないってのは、この新字の簡易術式のお陰って感じだよね。これならししょーの血がなくても、まあまあの効果が得られそうだし」
「どのみち比較するつもりはないし、こんなのを何回も作ろうなんて人もそうそういないだろうしね」
「いないいない! うち、見てるだけでも頭がくらくらするもん。こんな細かい錬成陣なんて国宝行きでしょ~!」
僕としてはかなり楽しい作業だが、メルアはいやいやと首を横に振っている。
「ししょーってさ、昔からこうなの?」
「こうって?」
「こーんな頭が痛くなるくらい複雑で、誰も改変しようとしなかったブラッドグレイルの錬成陣を一発で変えちゃうみたいな発想とかさ!」
まあ、今ぶっつけ本番でやっているわけではなく、頭の中に常に構想はあるわけなのだけれど。まあ、僕としては前世から一人で黙々と簡易術式を描いたり、錬成陣を構想するのが好きなので、それが大きく作用しているのだろうな。
「……まあ、母が錬金術師だったし、小さい頃から興味があって色々試せたからね」
「それでこれだけのものがさらっと作れるのって、天才だよ!」
軽く流そうと思ったが、メルアが思いの外食いついてきた。
「だってさ、うちも天才だって言われたけど、上には上がいるのはよーくわかってるし、ししょーに至っては、もう嫉妬とかそういうレベルじゃない雲の上の人みたいだもん。案外前世も錬金術師だったりして」
「……そうかもしれないね」
浄眼で見えるのはエーテルだけのはずだけれど、いやに鋭い突っ込みをされたので、さすがに驚いた。まあ、変に否定するのもなんなので、苦笑を浮かべておく。
そうこうしているうちに錬成陣を描き終えたので、僕は錬成筆を置いて姿勢を正した。
「あとはこの錬成液の上の錬成陣にエーテルを流せばおしまい?」
「そうだよ」
このブラッドグレイルでまあまあの性能を出せれば、レポートの問題は片付きそうだ。
「じゃあ、ししょー、お願いします!」
大袈裟に手を合わせて頼み込むメルアに頷いて、錬成陣に手を翳す。
「術式起動」
僕のエーテルに反応した錬成液は宙に浮かび上がると、すぐに凝固して紫色の丸い宝石が現れた。
「素晴らしい! 素晴らしい錬成ですね!」
突然拍手の音とともに響いてきた声は、プロフェッサーのものだった。
「こんなに早く追試実験をしてもらえるとは思っていませんでした」
興奮気味のプロフェッサーが、急ぎ足でこちらに近づいてくる。
「プロフェッサー……、どうしてここに?」
「ヤバっ! エステアにメンテ頼まれてたのにまだやってない~!」
驚く僕の隣で、メルアが悲鳴を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます