第44話 僕のアーケシウス
倉庫内に父が用意してくれた簡易作業場で、アーケシウスの修理改造計画を練る。父と格納庫の見学に行ったあと、当初考えていた計画を全面的に見直し、譲ってもらった部品と追加の部品を揃えることにこの数週間を費やした。
アーケシウスを改造する上での一番大きな作業は、燃料搭載型への変更だ。これはすなわち、アーケシウスを液体エーテルで動かすように改造し、かつそのためのエーテルタンクを搭載することなのだが、タンクの場所を検討したり、その容量とのバランスを考えたりと、実作業でもかなり気を使うことになりそうだ。
それとは別に、カルキノスの見学で見せてもらった魔力収縮筋の配置が見事だったので、アーケシウスの脚部にもそれを反映してみることにした。僕がまだ子供ということもあり、遠征で行ける場所には恐らく日帰りが可能な場所であるという制約がつくはずだ。その制約の中でも行動範囲を広げられるように、足を速くしようと思いついたのだ。
その他、腕部から掘削用のドリルが出てくるようにしたり、腕部に伸縮機能を取りつけて高所に機体の腕が届くように仕様を変更したりした。
水中でも動けるように胴体の
ある程度試行錯誤が必要なこともあるだろうが、子供らしく大人の知恵を借りた方がいいだろう。あの整備士たちもことあるごとに僕の進捗を聞いてくるようだし。
「まあ、こんなところか」
一通りの計画を立てたところで一息ついていると、アルフェが倉庫にやってきた。
「リーフと『あーけしうす』に会いにきたよ」
「まだ修理もなにもできてないよ、アルフェ」
苦笑する僕の前で立ち止まり、アルフェが倉庫に置かれたアーケシウスを見上げる。無意識に爪先立ちになっているのは、それだけアーケシウスが巨大だからなんだろうな。他の人から見た僕とアーケシウスもこんな感じなのだと思うと、参考になるな。
「……でも、かなりきれいになったね」
「あのままじゃ、気の毒だからね」
掃除と錆取りだけは、アーケシウスを倉庫に運び入れた翌日には終わっていたし、今でも母が試薬を調合して根強い汚れを取る手助けをしてくれている。そのせいか、アーケシウスは見違えるように綺麗になってきていた。それでもまだ骨董品の域は出ないけれど。
「リーフのお友達だねぇ」
「……嫌じゃないの、アルフェ?」
アーケシウスを仰ぎながら呟くアルフェの意外な一言に、思わず聞き返してしまった。
「なんで?」
アルフェが不思議そうに目を瞬いて、僕を振り返る。
「その……前に、そういう話、してなかった?」
参ったな、これじゃあ僕が自意識過剰みたいじゃないか。
「あ、うん。人間のお友達は嫌だけど、あーけしうすなら、アルフェも一緒にお友達になれるかなって」
「……ああ、そういうことか。修理と改造ができたら、アルフェも乗れるようにしないとね」
お友達という表現をしていたけれど、アルフェにとってもアーケシウスはちゃんと『モノ』なんだな。それなら余計な心配はせずに、アーケシウスの修理に集中できそうだ。でも、アルフェとの時間が減るのは、彼女的にはどうなんだろうか……?
「ワタシもお手伝いしたい!」
「アルフェが?」
僕の心配を知ってか知らずか、アルフェが無邪気に手伝いを申し出た。
「うん。魔法、使えるし、リーフの役に立ちたいなって。ダメ?」
確かにアルフェの魔法があれば、修理も改造もかなり便利だな。新たな魔導器を用意する必要がないのは助かりそうだ。
「むしろ大歓迎だよ、アルフェ」
「やったぁ!」
「アルフェちゃんの協力があれば、百人力だな」
喜ぶアルフェの声に、父の声が重なる。いつの間に倉庫にきていたのか、全く気配を感じなかった。
「おはようございます、父上」
「朝早くから感心だな、リーフ。では、パパは仕事に行くが、なにか必要なものがあれば、連絡するんだよ。職場の人も楽しみにしているようだからね」
有り難いことには変わりはないんだが、自分で思っているよりもかなり注目されてしまっているようだな。
「はい、頼りにしています。父上」
苦笑を浮かべながら父を見送ると、入れ替わりに母がやってきた。
「私も手伝うわよ、リーフ。こんな楽しそうなこと、参加しない手はないわよね」
「リーフのママ!」
アルフェがすかさず反応し、僕の代わりに喜んでくれる。
父だけではなく、母もアーケシウスにかなり興味を示しているのは意外だな。元々こういうことが好きなのか、それとも僕が積極的になにかをしようとしているのを応援したいのかのどちらかはわからないけれど。
その後は母とアルフェ、父と軍の整備士の人たちの力を借りてアーケシウスの改造と修理は順調に進んだ。アルフェには主に溶接や魔導器の調整を頼んだのだが、想像以上に活躍してくれて本当に助けられた。
◇◇◇
半年ほどかけて根気強く修理と改造を続けた僕のアーケシウスは、概ね予定どおりの機能を搭載し、完成した。
本当はアルフェと二人で乗れるように胴部の操縦槽を改造したかったのだが、アーケシウスが小型の従機であることと、搭載するエーテルタンクとの兼ね合いでどうしても難しかった。そのため、頭部を平たく調整して、アルフェが上に座れるように工夫した。
アルフェが落下防止対策として
試運転を兼ねて完成したばかりのアーケシウスで街の壁伝いに高台へと移動した僕たちは、共にアーケシウスの頭部に腰かけ、暮れゆく街の夕陽を眺めている。
「風が抜けて、とっても気持ちが良いね、リーフ」
「怖くないの、アルフェ?」
落下防止策として
「リーフと一緒だから、とっても楽しいよ」
キラキラと輝く瞳のアルフェは、本当のことだけを言っているという直感がある。
「リーフは?」
「……アルフェのお陰でアーケシウスをこうして直せて、嬉しいよ」
ああ、もしかしてこういうことを幸せというのかな。僕にはまだそれがなにか分かっていないけれど、でも、友達――アルフェと一緒にいられる時間というのは、やっぱりいいものだな。
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