文化祭準備は深夜まで

@eijiro2011

第1話 文化祭ステージリハーサル

「照明、台本通りきちんとやれよ。」池田先生の怒鳴り声が響いた。三友中学校文化祭前日、生徒会執行部の生徒たちと生徒会担当の先生たちで最終リハーサルを体育館で行っている。放課後4時から始める予定がオープニングのテーマアピールで使うビデオの編集に手間取り、スタートできたのは6時を過ぎてしまった。中学生なので最終下校時刻の7:30を守ることは絶対だ。9月の7時は真っ暗である。

「地球環境保全の映像とナレーションを合わせるぞ」池田先生の神経質そうな声が体育館に響いた。ナレーションは生徒会長の吉田くん。吉田くんは失敗したら叱られそうな雰囲気の中で頑張って原稿を読んでいる。ステージ中央のスクリーンには地球温暖化で氷が少なくなったホッキョクグマが住処を失い小さな氷の上で流されている映像や海水面の上昇で国土が失われていく太平洋の島々の写真などが映し出されている。しかし、その時池田先生のストップの声が響いた。

「吉田くん、映像を見ながらナレーションしないとホッキョクグマがまだ映っている状態で太平洋の島の話になっているよ。谷崎くんもナレーションを聞きながら映像を変えていってくれよ。」時間がないのに全然完成してないリハーサルに池田先生のイライラはピークに達していた。

 副会長の谷崎くんは画像を制御するコンピュータ係をしていたが、なんでそんなに怒るのかと思いながら体育館後方を見て納得がいった。校長先生が心配して見に来たのである。しかも生徒指導の西先生と何かひそひそ話している。完全下校時刻の7:30に間に合いそうもないという事を話していることは明らかだった。しかも執行部のメンバー8人は自主ステージに出るバンドメンバーの人もいて、準備が整っていない。池田先生はとにかくリハーサルで一通り流しておきたいと考え焦っているのだ。

 今度はオープニングビデオの後の執行部の寸劇で今年のテーマである地球環境問題をアピールするのだが、みんなセリフが入っていない。劇はこま切れになり、セリフを忘れた書記の西村さんは泣き出してしまった。吉田会長も谷崎副会長も池田先生もお手上げ状態である。会場は静まり返り、時間だけが過ぎていった。

 池田先生は意を決して校長先生のところへ歩み寄った。「校長先生、7時30分は守れそうにありません。全員、自宅まで送りますので、家に電話を掛けさせ簡単な食事をとらせて、9時ごろまでやらせてもらえませんか。」とお願いした。池田先生の横には吉田会長と谷崎副会長が一緒に立って頭を下げている。彼らにとっても絶対に成功させなくてはいけない大イベントなのだ。

「それじゃ、15分休憩、その間に出演者は完全にセリフを覚えるために集まって読み合わせだ。」と言って池田先生は走って出て行ってしまった。走りながら学年主任の長谷川先生に何か話しかけている。吉田会長と谷崎副会長は執行部のメンバーを集めて「みんな、ここで輪になって読み合わせするから絶対覚えるぞ。わかったかい。絶対に成功させるんだ。」と吉田会長が全員に声をかけて鼓舞した。みんなの目も何とかしなくてはと言う意気込みが目に輝きに現れていた。

 それから15分近く大声でセリフを叫びながら頭に叩き込んでいると、体育館の入口に大きな紙袋を抱えた池田先生と沸かしたお湯を入れたポットを両手に持った学年主任の長谷川先生が走ってきた。池田先生は「みんな、腹ごしらえだ。赤いきつねと緑のたぬき、どっちか好きな方を選べ。」と言って袋からカップ麺を8つ出した。全員がお腹がすいていたので、ようやくほっとした表情になった。しかし、その時、吉田会長と谷崎副会長は気づいてしまった。先生が8個しか買ってこなかったことが大問題であることに。

 

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