第二話
待てよ。
オーサカ支部がないのだとしたら、この“呼び出し”の意図はなんだ?
ここで『オーサカ支部への異動』を寝耳に水されるんだよな?
これまでの流れだと。
おれは男子トイレで顔を洗って、お借りしたタオルハンカチではなく首に巻いてある黒いストールで拭きながら考える。
貸してくれた天平先輩には悪いけどなんか不衛生だし。
だからってストールで拭くのも違うかもしれない。
拭くものなかったんだから見なかったことにして。
作倉さんの能力は【予見】だ。
このイレギュラーな事象も感知できているはず。
たぶん……?
霜降先輩や天平先輩と接した感じを見ているとやっぱりまだ記憶リセットパワー効きまくってるっぽいし。
作倉さんにも記憶リセットパワーが?
いや。
ちょっと待て。
あの人に記憶リセットパワーって効いてんの?
作倉さんが過去を視たとき、前回の世界の出来事って視えるんだろうか。
だって、一応ほら、世界の時間軸的には1年前の“過去”じゃん?
前回の話って。
聞いてみよう。
これで“正しい歴史”から外れるんだとしたらまた白菊美華が駆けつけてくるんだろうな。
まあ、その時はその時で。
よし。
行くか。
「あなたが妙な因果を持ち込んだから、こんなことになってしまっているんですよ」
おれがゆっくりと扉を開けて部屋に入りながら「失礼します」と言おうとしたのに早速なんか言われてんな?
えーっと?
おれのせいになってる?
おれなんかやっちゃいました?
「早く元の世界に帰ってください」
「あの、作倉さん」
「何が目的ですか?」
めちゃくちゃ喧嘩腰じゃん!?
こわ!
デカい机に両肘をつけて指で顎を支えたポーズの作倉さんと向かい合う丸腰のおれ。
なるほどなるほど。
この人には記憶リセットパワー通じてないんだ?
まあ、リセットしたところで【予見】で修復されちゃうもんな。
「お察しの通り、おれはこの偽“アカシックレコード”の世界の外の真の世界からこの世界に転生してきました」
わかってるだろうけど正直に話そう。
隠すもんでもないし。
隠してもバレるから。
「おれの目的っていうか、クリスさんに頼まれたのは『ハッピーエンドにしてきてくれ』ですね、はい」
それで、1度目はあまりにも急ぎすぎた。
2度目はなんかうまくいきそうだったのに中断されている。
これが3度目。
もういいでしょ。
ここでなんとかできなかったら諦める。
「作倉さんもわかってると思うんでもう話しちゃうんですけど、この14回目の世界、13回目とは違うところがあっておれも戸惑ってます。おれの存在のせいでこうなっているっていうのは逆になんでそう思ったんですか?」
おれのせいにされるのはつらい。
100%おれじゃないとも言い切れないけどさ。
おれがなんかしたわけでもないし。
というか、おれの影響なら1度目や2度目でもなんか起こってるはずじゃん?
ん?
起こってはいたのか?
途中で退場したからその後どうなったのかわからん。
どっちかっていうと白菊美華のほうが怪しくない?
いや怪しくはないか……。
どっちかっていうと白菊美華は“正しい歴史”を守らないといけない立場だ。
今の状況は冒頭から“正しい歴史”と違う出来事が連発している。
「……て」
「?」
聞き取れなかった。
言葉は聞き取れなかったけど、顔色が悪くなっていくのはわかる。
作倉さんは机の引き出しを開けると中から何種類もの錠剤を取り出す。
大丈夫かこれ。
え、この人こんなキャラだったっけ?
おれが知らなかっただけ?
まあ、そうか、おれずっと引きこもってたわ……。
「宗治くん、わたしを許して」
宗治くん?
なんで今?
今、風車宗治が?
もしかしておれの後ろに幽霊でもいるのかと思って振り向く。
特に何の気配も感じない。
「あなたが死んだのは、わたしのせい」
「いや、作倉さんのせいではないんじゃ……?」
この“あなた”はおれではないという仮定でいこう。
おれだとしてもおかしいけどさ。
クリスさんが殺しにきたのはおれが持っていたアカシックレコードを回収したかったからで。
作倉さんのせいではない。
風車宗治の死因は『風呂場でコケて頭を打った』からなので、自業自得というか。
ただの事故というか。
それが当時秘書だった作倉さんのせいだっていうのは考えすぎだ。
どうしよう。
両目から赤い血を涙のように流しつつ「わたしは許されない。わたしだけ生き残るなんて許されない。わたしは死ななければならない。わたしには救いなんてものはない」と、ブツブツと呟き始めてしまった。
このまま放っておくのは精神的にまずい気がする!
まずい気がするけど何したらいいかわかんね!
「目が痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い……」
「わかりました! 救急車呼びます!」
【out loud】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます