第11話


「うっま!」

「せやろー」


 テーブルの上にはたこ焼き器。

 次から次へと天平先輩が焼いてくれるたこ焼きを平らげていくおれ。

 たこ焼きだけどタコだけではなくチーズ入りだったりソーセージ入りだったりでバリエーションが豊富だ。

 綺麗に丸まっていて作り慣れていることがわかる。


 どれも美味しい!

 ハズレがない!

 オーサカ来てよかった!


 というか、何時間ぶりの食事だよ。

 トウキョーでコーヒーを飲んだのが最後?

 ぼくに任せていたら餓死するかもしれない……。


「おれ、この身体になるまで外でメシ食べたことなくて……」


 転生前を思い出してしまった。

 目頭が熱くなる。


 他人の目が怖くて、基本は家にこもって店屋物ばっかり頼んでいた。

 受け取るだけだから。

 外に置いてもらえたらそれでいい。


 買い物へ行くと幻聴が聞こえるんだ。

 みんながおれを嘲笑っている。

 みんながおれを指差して馬鹿にする。


 なーにあの顔!

 変なのー!


 うるさい!

 うるさいうるさいうるさい!

 うるさい!


 ……そんな人生はおしまい!

 おしまいなんだ!

 死んでからのほうが人生楽しい!


 こうやって可愛い先輩の家で美味しいものを食べさせてもらえるなんて、昔なら考えられなかった。

 おれは死んでもいい人間だったってことだよ。


(それは違う。

 死んでもいい人間なんていない)

「お前は! イケメンだからそういうことが言えんの!」


 つい声に出してしまった。


 ……。


 ぼく。

 うまいことなんかよろしく。


「えっ……?」


 ほら、ぼく!

 天平先輩がびっくりしてるでしょ!

 なんか言ってやって!


(このタイミングでの交代は卑怯では?)


 卑怯じゃないもん。

 おれは悪くないし。

 ほら、たこ焼き焦げちゃうから!

 もったいないでしょ!


「あの、天平先輩。信じられないかもしれませんが、ぼくの中には“もう1人”ぼくがいまして」


 懇切丁寧な導入部、いいぞ。

 説明よろしく。

 天平先輩も「お、おう。そうなん?」ってわかってくれているっぽいし。


「もう1人のほうはどうもこの世界のヒストリーを知っていて、このままではぼくたち能力者が死ぬそうなのでそれを阻止すべく活動しています」


 簡潔でいいね。

 この世界が本の中の世界だっていうのは人によっては混乱させそうな要素だしな。

 能力者が死ぬんじゃなくてアンゴルモアが攻めてくるんだけど。

 今は省いておこう。


「それで、未来を知っとるから? つっきーにあんなこと言うたん?」


 そうです。

 言い方は悪かったんですが。

 もっと言い方はあったと思います。

 ええ。

 親密度急降下でしたよねあれ。

 シーンとなりましたもん。


「すまん、ちょっと電話してきてええ? たこ焼きはテキトーにひっくり返してもろて」

「オーケー、了解した」




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