第10話
「ここは?」
天平先輩の後ろについていって到着したのはどこをどう見てもマンションだ。
普通に人が住むタイプのマンション。
なんか想像してたのと違う。
居酒屋にでも連れていかれるのかと。
わかった。
雑誌でたまに特集されている“隠れ家的”みたいな?
隠し扉がどこかにあるとか?
パスワードを答えるとドアが開くとか?
「うちやけど?」
正面玄関からオートロックを解除して、エレベーターホールへ向かう。
後ろをついていく。
エレベーターはちょうどよく1階にいたので、2人で乗り込むと天平先輩は5階のボタンを押した。
うちってなんだ?
そういえば天平先輩の能力ならオーサカ支部からドアトゥドアのはずなのに、わざわざ歩いてここまで来たのは何故だろう。
ぼくが試されている?
あるいはぼくの前で能力を使わないようにしているとか?
「そういや篠原くん、苦手な食べもんある? アレルギーとか」
「特には」
「そか。なら全部入れたるか」
5階についた。
ここまでに奇妙な仕掛けはなし。
共用の廊下を歩いて突き当たりの角部屋の前で、天平先輩はカギをハンドバッグから取り出す。
「天平先輩の家ですか?」
「さっき“うち”って言うたやん」
??????????
どゆこと?
なあ。
おれ。
どういう流れなんだこれ?
(もう1人のぼくにもわからないことがあるのか)
このルートは知らない!
オーサカ支部の異動の初日から天平先輩の家に来るなんて!
いや、初日じゃない場合にしても天平先輩のほうから誘ってきて家に連れ込まれる流れは聞いてない!
いやこの場合は“読んでない”……?
わからない。
わからないけどこれはどういうことなんだ?
親密度低そうだったじゃん?
なんか親密度上がりそうなシーンあった?
なかったよな?
え、これ何?
何?
なんかバグってる?
バグって親密度上限突破してる?
「入らんの?」
玄関で突っ立って混乱しているおれを手招きする天平先輩。
もしかしていきなり襲われるとか?
親密度高いんじゃなくて低すぎて殺されるルートとか?
まあ、なんか攻撃してきそうなモーションがあったら【疾走】で華麗に回避しよう。
「お邪魔します」
ミリタリーブーツを脱いで揃えてから上がる。
天平先輩はトコトコと台所へ向かってしまったようだ。
ところでぼくは女性の家に上がるのが初めてだ。
もう1人のぼくよ、マナーについて詳しく教えていただけないか?
手は洗ったほうがいいか?
(嘘つけ。
その顔で“24年間彼女がいなかった”なんて言っても信憑性に欠けるからな)
ぼくのメモリーに刻まれている最も美しかったガールは文ちゃんだが、文ちゃんはガールフレンドではない。
いわゆるガールフレンドのような存在の女性はいない。
文ちゃんを上回る見目麗しいガールがいなかったからだ。
(は? マジで言ってる?)
そちらの世界では文ちゃんと出会っていないのか。
細かいところで歩んできた人生に違いがありそうだ。
いいだろう。
文ちゃんの美しさについて語ろうではないか。
(いいよそういうのは……文ちゃんって香春隆文だろ? 男じゃん……)
【Treasure】
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