無生物なら何でもテイム【+擬人化】~無能テイマーと言われパーティー追放された僕のテイム対象は、まさかの『無生物』!Sランクダンジョンも伝説の聖剣も、物なら何でもテイム【+擬人化】する!~

青空あかな

「第一章:テイム対象は無生物! 編」

第1話:追放と置き去り

「おい、無能<テイマー>のアイト・メニエン。お前はたった今、俺たちのパーティーから追放だからな。早く消えろ」


それは無事クエストを終えて、ギルドへ帰ろうという時だった。突然、リーダーで<勇者>のボーランに言われた。


「ちょ、ちょっと待ってよ。いきなりそんな……追放だなんて」


僕たちはエスペランサ王国で、冒険者をやっている。そして、ここはメトロポリの街にある、Aランクダンジョンの最下層だ。もちろん、僕は追放されるようなことをした覚えはない。パーティーのため、とにかく必死に頑張ってきた。


「あぁ? 文句があんなら、何か言い返してみろ。“スライム一匹すら”テイムできない、無能<テイマー>のアイト君よぉ」


「そ、それは……」


“スライム一匹すら”テイムできない。その言葉を言われた途端、僕は下を向いてしまった。何か言い返したかったが、反論の余地もない。紛れもない事実だからだ。


「というか、お前本当に<テイマー>なのか? 何もテイムできない<テイマー>なんて、俺は初めて見たぜ」


「ぐっ……」


この世界では、誰しもスキルを授けられる。僕は<テイマー>だったのに、“スライム一匹すら”テイムできなかった。ボーランの言う通りだ。いや、スライムどころじゃない、鳥一匹テイムできたことがない。いくらやっても、全く言う事を聞いてくれないのだ。


「俺たちは、全員Aランクだってのに。お前はずっと、Eランクじゃねえかよ。役立たずは、さっさと消えてくれ。無能がうつるだろ」


「で……でも、今までパーティーのために貢献してきたじゃないか」


僕はテイムできない代わりに、ありとあらゆる雑用をこなしてきた。それは全て、こんな僕を雇ってくれたパーティーのためだ。回復薬や解毒薬の準備、諸々の支出入の管理、手に入れたアイテムの運搬……数え上げればきりがない。しかも雑用とは名ばかりに、どれもクエストを達成するのに大切なことだった。


「あのなぁ、そんなことは誰でもできるんだよ」


ボーランは、ため息交じりに言ってきた。心底うんざりした顔をしている。しかし彼がそんなことをしているところは、これまでに一度も見たことがなかった。


「だ、だけど、ずっと僕が……」


「うっさいわねえ。足手まといを追放して、何が悪いっての。リーダーがそう言ってんだから、素直に従えよ。このクズ<テイマー>」


ボーランの隣にいる女の人が言ってきた。この人は、魔法使いのタキンだ。水系の魔法が得意で、“激流の魔女”と呼ばれている。気に入らないことがあるとすぐに怒るので、僕は苦手だった。


「前から思っていたけど、アンタのオドオドした態度、とっても気持ち悪い」


たたみかけるように、他のメンバーも罵倒してくる。この女の人は、弓使いのルイジワ。一撃で相手の急所を狙い撃ちすることから、“精緻の狙撃手”との呼び声が高い。腕は立つが、いちいち心が傷つくことを言ってくる人だった。


「男の子なのに、恥ずかしいとは思わないのですかね」


この人は、女僧侶のタシカビヤ。回復魔法の才能に恵まれ、“神秘の女神”などと言う人もいる。しかし才能に恵まれたためか、いつも僕を見下してくるのが嫌だった。見ての通り、ボーランのパーティーは皆女性だ。そろって僕のことを、汚物のように見ている。まるで、ずっと自分たちの足を引っ張っていた邪魔者かのように。


「じゃ……じゃあ、何で僕をパーティーに入れたの?」


僕は泣きそうになるのを、懸命に我慢して聞く。僕がテイムできないことは、彼らも知っていたはずだ。ギルドでは有名な噂になっていたからだ。誰のパーティーにも入れてもらえず困っていた時に、ボーランたちから声をかけてきた。その恩に報いるため、今までずっと無理難題に答えてきた。


「あ? そんなのストレス解消に決まってんだろ。ただのおもちゃだよ」


「……え?」


僕はボーランの言っている意味がよくわからなかった。


「ス、ストレス解消? おも……ちゃ?」


「そ、お前は俺たちのストレス解消要員だったってわけ。ただ日々の鬱憤をぶつけられる奴だったら、誰でも良かったんだよ。なぁ、お前ら?」


ボーランが女性陣に尋ねる。全員、あっさりとうなずいた。


「ほら、文句あるなら言ってみろよ。言えないよなぁ? だって、<テイマー>のくせに、スライム一匹テイムできないんだもんなぁ。え? もしかして、アイト君なにか勘違いしちゃってた? 俺たちは、お前に期待なんかしてなかったの。それなのに、何だか頑張っちゃって。お疲れさ~ん」


「そ……んな……」


その言葉を聞いて、僕は絶望していく。日頃からボーランたちに、無能だのゴミだの足手まといだの、散々罵倒されてきた。彼らは僕を、単なるストレスのはけ口として雇ったのだ。<テイマー>なのにスライム一匹テイムできなければ、反抗することなどできない。僕が抵抗できない人間だとわかっていて、わざとパーティーに入れたのだ。僕は唇を噛みしめて悔しさを堪える。ボーランがヘラヘラ笑いながら、僕の顔を覗き込んできた。


「アイトく~ん? 聞こえてまちゅかあ?」


僕はボーランの顔を、思いっきり殴りたかった。でも生まれてこの方、僕は人どころか、モンスターさえ殴ったことが無かった。僕は拳を固く握って、怒りを押し殺していた。


「そろそろやめたげな。ほんとにアイト泣くよ? こいつの泣き声で、またモンスターが寄ってきたら面倒なんだから」


タキンがバカにした口調で言う。僕は泣いたことなんかない! そう言おうとした時、モンスターの叫び声が聞こえてきた。


『ピイイイイ!!』


「おっと、ほらアイト君。お前がメソメソしているせいで、モンスターが来ちゃったじゃん」


奥の方から、スライムが何体か出てきた。ランクは最低のEランク、ザコ中のザコモンスターだ。だが、今まで戦闘をしてこなかった僕では、倒せるかどうかさえわからない。


「ギャハハハハハ! 何かと思ったらスライムかよ! ちょうどいいじゃん! ほらほらアイト君、さっさとテイムしろよ!」


「早くしろ、クズ<テイマー>」


「アンタよりスライムの方が役に立つかもね」


「あなたが呼んだのだから、あなたが倒すべきですよ」


ボーランたちは僕の背中を小突いて、スライムの方へ押しやろうとする。


「や、やめっ、うわっ」


僕はスライムの目の前に、放り出されてしまった。


「じゃあな、無能<テイマー>のアイト君。俺たちはギルドに帰るからよ。お前はもうパーティーのメンバーじゃないから、後をついてきたりするなよ」


ボーランたちは、さっさと出口に向かっていく。皆、僕のことなんか見向きもしなかった。


「ちょ、ちょっと待ってよ。僕一人じゃ勝てるわけな……」


その直後ボーランに、これでもかと言うほど腹を蹴られた。それを合図に、取り巻きの女たちも続けざまに蹴ってくる。


「っ……がはっ、ゲホッゲホッ」


あまりの痛さに、僕は地面にうずくまった。


「ギャハハハ! みっともねえなぁ、アイト君!」


「弱すぎじゃん、ホントに男か、こいつ?」


「情けない」


「よく冒険者になろうと思いましたね」


ボーランたちの笑い声が聞こえる。しかし強烈な痛みで、少しも身動きが取れない。


「あぁ、そうだ。お前はこのまま、ダンジョンに置いていくぞ。安心しろ、手に入れたアイテムは俺たちが持って帰るから。というか、それで別にいいよな?」


「かっ……なん……で……置いていく……なんて」


ボーランに冷たい声で言われ、頭の中が真っ白になった。


(このまま、置いていくだって!?)


こんなところに一人で置き去りにされたら、それこそ死んでしまう。僕は慌てて立とうとしたが、苦しくて動けない。


「は? 何か問題あんの? お前の役目はもう終わったんだよ。いい加減飽きてきたからな。いらないゴミは捨てる。お母さんに教えてもらわなかったのか? あ、そうそう。お前の装備と荷物は、全て回収するからな。お前はどうでもいいけど、アイテムはこの先使いようがあるからな」


「ま、待って……」


ボーランたちは僕の体からアイテムを奪うと、そのまま歩いていってしまった。僕の心は、辛さや悔しさ怒りなどで壊れてしまいそうだ。しかし、今は何とかこの場をしのがないといけない。スライムは完全に、僕を敵とみなしている。


「くっ……うっ……」


僕は痛みを堪えて、何とか立ち上がった。ふと周りを見ると、小石がいくつか転がっていた。


「こ、このっ! あっち行け!」


僕は手当たり次第に、落ちている石を投げる。しかし、スライムは石が直撃してもビクともしない。相手は最低のEランクモンスターとはいえ、いっぱしのモンスターだ。素人の石投げごときでは倒せない。


『ピギイイイイ!!』


スライムたちは、ゆっくりと近づいてくる。心なしか、ニヤニヤと笑っているように見えた。僕のことをバカにしているようだ。まともな戦闘力がないと認識したんだろう。


「く、くそっ。どうすれば……。そうだ、魔力を込めたら威力が上がるかもしれない」


僕は手の平サイズの石を拾った。


(倒せなくてもいい。この場を逃げ切れるだけのダメージが与えられれば)


僕は小石に思いっきり魔力を込める。そして、全力でスライムに投げつけた。


「このおおおおおおお!」


ボウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


と、スライムに向かって投げた石が爆発した。


「うわああああああああ! な、何だあ!?」


モクモクと、白い煙が広がる。僕は驚いて、尻餅をついてしまった。


〔私に命を与えてくださり、誠にありがとうございます。マスター〕


どこからか、女の子の声が聞こえてきた。よく見てみると、煙の中にぼんやりと人影が浮かんでいる。しかしここには僕以外、誰もいないはずだ。


「だ、誰? マスターって、僕のこと?」


徐々に煙が消えていった。人影があらわになる。


〔はい、あなた様でございますよ。アイト・メニエン様〕


僕の目の前に、石でできた少女が立っていた。

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