隠れステータス【性格】

鬼頭星之衛

第一部 地上の星々

第0話 プロローグ【自己紹介】

 黒檀こくたん製と思われる両開きの扉がある。その扉のドアノブは回さずとも独りでに勝手に開いた。扉の奥に進むとそこには部屋とは到底呼べない程の広大な空間が広がっていた。


 床と思わしき物は乳白色にゅうはくしょくに輝いており平坦に見えない。遥か先には地平線が見え、そこからドーム状に満点の星空が広がっている。この異質の一言ではとても言い表せない空間の真ん中に一人の人物が静かに佇んでいる。その人物のおかげで、乳白色の光が辛うじて床であるだろうと予想できる。


 その人物は白を基調にした赤い刺繍が入ったローブを着ており、フードを目深まぶかに被り、足元まで覆い隠している。ゆえに、男性なのか、女性なのか判断が出来ない。


 そして、その人物はおもむろにフードの影から微かに見える口を開いた。


「ようこそ、いらっしゃいました。『イル・サンサーナ』の世界へ。まずは、自己紹介させて頂きます。私はこの世界を作った創造神で御座います」


 その人物は『イル・サンサーナ』という世界を作った創造神だと名乗った。つまり、神である。人が決して知覚することがない存在である。


「私には名や、性別は御座いません。今のこの姿形も仮の物で御座います。ですが、便宜上べんぎじょう、創造したこの世界の名前から取りまして、『イル』と名乗りましょう」


 実際の所、目の前の存在は知覚出来ているようであって、出来ていないに等しい。イルが話を続ける。


「この度貴方達にお越しいただきましたのは他でもありません。私と一緒にこの『イル・サンサーナ』の世界を見物して頂こうと思ったからです」


「その為、事前にある程度『イル・サンサーナ』の世界の常識や知識を共有したいと思います」


 イルが説明する。


 この『イル・サンサーナ』という世界は複数の大陸があり、それぞれの大陸には大小様々な人間がおこした国があり、そのそれぞれの領土内に無数の街や村があり、人間達はそこで生活をしている。


 しかし、人間以外にも人外の生物が街や村の外に生息している。そして、その人外の多くの生物は『魔物』と呼ばれ、人間と敵対関係にある。人間は魔物と比べひ弱で簡単に滅ぼされてしまう。


「そこで私は人間に職業という加護を与える事に致しました」


 イルが説明を続ける。


 人間がある一定の年齢に達した時、地上にあるいくつかのイル・サンサーナ神殿にて、加護の儀式をり行ってもらえる。それには大した費用は要らず、ほぼ無償に近い。その為、ほとんどの人間がこれを授かる。職業には千差万別有り、一言では語れない。


「しかし、主に4つの職業が重要視されています。それが、『戦士』、『魔法使い』、『スカウト』、そして、『治癒師ちゆし』です。この4つの職業は主に魔物に対抗しうる存在で、半数ぐらいの者達がこれに当てはまると思って頂いて結構です。その他の職業については追々おいおい説明させて頂きます」


 イルは人間に脅威である魔物に対抗する為に加護を授けたのだから、戦闘職が重要視されるのは当然であった。


「全てを説明すると時間が足りませんので、最後に1つだけ重要な事を申し上げます。それは隠れステータス【性格】です」


 イルはさらに説明を続ける。


 先ほどの職業の加護を人々が受けると同時に隠れステータス【性格】なるモノも一緒に付与される。イル・サンサーナ神殿の神父もしくは聖女には加護を受けた人達の職業を判別することが出来る。故に、人々は自身の職業が何であるかを知ることが出来る。しかし、隠れステータス【性格】は存在自体人々には知られておらず、そこにいるイル以外知る者はいない。


「人々には実に面白い個性、所謂いわゆる【性格】が御座います。私はそれに大変興味が御座います。故に、職業の加護と同時に【性格】の加護を授ける事を思いついたのです。しかし、自身の正確な【性格】を知ってしまったら、それにとらわれて本来の行動が出来ないのではないかと危惧きぐした次第です。そこで、それを隠してしまい、教えずにおこうと思った訳です」



 人々が自身の正確な【性格】に左右されず自由に生きてほしいとイルが望んだからこのような方法になった。それに、もし正確な【性格】を知ってしまったら、それに囚われて生きてしまうであろう人々にイルは興味が沸かなかった。


 そして、この隠れステータス【性格】は簡単には分類化も出来ない。例えば同じ職業加護、同じ隠れステータス【性格】の者達が居たとしよう。果たして彼らは同じ運命を辿るかと言えばそうではない。生まれ育った環境、性別の差、身体的特徴の差、生まれ持った時の元の【性格】の差。様々な要素が加味され、その人が形成される。故に、隠れステータス【性格】もその一味に過ぎない。ただ、創造神の加護なので人々に与える影響力はそれなりに大きい。


「その為、私も人々がどういった行動を取るのか楽しみなのです。1つの小さな違いから、その後の運命を大きく変えることも御座います。まぁ、そんな人ばかりではないでしょうけど‥‥‥‥」


 イルから少し落胆した雰囲気がうかがえる。しかし、創造神が気に入らないからと言って、『イル・サンサーナ』の世界に直接干渉したら、今までの話の流れから考えて、まったく意味の無いモノになってしまう。あくまでも、人々自身に委ねるのだ。


「話が少し長くなってしまったかもしれませんね。私の話は理解出来ましたか?全て理解出来ずとも、私と一緒に『イル・サンサーナ』の世界を見学すればすぐに理解を深めることが出来るでしょう。では早速、見ていきましょう。人々の物語を」


 イルが静かに、しかし、力強く言葉を述べ終えると、乳白色にゅうはくしょくの光が床から天井の満天の星空へと伸び、世界は眩い光に包まれた。


 一体『イル・サンサーナ』という世界はどういった所なのか? どのような人々が暮しているのか? 敵対している魔物とはどういった存在なのか? 見た目は? 匂いは? さらに、職業の加護を受けた影響は? そして、隠れステータス【性格】が世界へ与える影響とは? 


 様々な疑問が流星の如く、流れては消え、流れては消えを繰り返す。ならば、百聞は一見にかず。その目で確かめて下さい。いいお話も、よくないお話もあると思います。まずは、冒険者家業をしている1組の男女を見ていきましょう。

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