27.2話

「……うす。肝に銘じておきます」

「もっともな忠告ありがたい。傭兵としての前提を見失っていたかもしれない。デクラン殿の忠告忘れずにおきたい」


 ライラックに続きサルバドールも謝罪で答える。

 先ほどからの癖のある喋り方をしているサルバドールはエルフのライラックと並んでも遜色ない美形の男性だ。

 もしかしたらミルド語に不慣れなのか、訛りの強い地方の出身なのかもしれない。

 ミルド語は大陸公用語として広く用いられているが、地方によって訛りがあったり別の言語となっていたりすることも少なくない。


 アリエーナ伯爵領でもこうした訛りがあって、他に比べると古めかしい言い方が多いのだとか。

 といってもカナのような若い世代は他所と遜色ないぐらいになっているのだが、古い世代にそうした傾向が強いのは種族的に長生きする者が多いからだろう。


「……ふぅー、すまなかったな。こいつは俺が間違えていた。根本的な確認すらしていなかった。……鬼だか魔族だか知らないが、協調して仲間としてやっていけるってことでいいか?」

「ええ。うまくいかないのでしたら、僕らが出ていけば済むことです」


 ライラックの確認に、カナがにこりと笑って軽快に返した。

 それをみて、小さく頷いたあと、ライラックが両腕を広げてニヤリと笑う。


「オーケー。――歓迎するよ、ようこそ新たな仲間たち。お前らが裏切らない限りはな。そういえば、お前のことはまだ傭兵団全体には紹介はしてなかったな。ついでに全部ぶちまけてやるといい。仲良くするには互いを知ることが必要だ。ずっと隠しておくよりはパンひとつ分ぐらいはマシだろう。これが肉ひとつ分とならないことを祈っているよ」


 ライラックでなくとも魔族というものに反感を抱く者がいてもおかしくない。

 それでも全員に真実を伝えておけ、というのが妥協点なのだろう。

 信頼するものは信頼し、警戒するものは警戒すればいい、どう判断するかは個々人の気持ち次第。

 そう考えているカナに異論はなかった。


「よろしくですよー。僕は楽しく過ごせればそれでいいのです」


 ひとしきりの話し合いが終わったところで、臨時の会議は解散となった。

 皆がテントから退出しようとする中、イブはニヤニヤした顔でライラックに声をかけた。


「うっひょー、悪役演じちゃってー。役者っすねぇー。劇団で働けるんじゃないっすかぁ?」


 このこの、などと言いながら肘でつつく仕草をみせる。

 その後ろでマイが早く出ろよと言わんばかりの目つきになっているが。


「馬鹿野郎、演じてねえよ。本心そのままだよ。どこにお目玉つけてんだテメエ。すげえ叱られてたろうが。大体、コロコロと口調が変わるお前に言われたくはないね。さっきのがはじめて見せた素の姿か? ……それに、オーリエール傭兵団は来るもの拒まずがルールだ。グランマが拒まなければな」


 ライラックがジト目で振り向いてそれを否定した。

 その後ろから、「早く出ろよ」とセミナリアが声にだして言った、……というかライラックを蹴り倒して出ていった。

 強制的に外に出されたライラックが、「なにすんだ、いてえな!」などと怒りながらセミナリアのあとを追い離れていく。


「……そうだ。俺たちはお前を信用できない。魔族に滅ぼされた故郷の記憶がそれを許さない。どれだけ綺麗ごとを積み重ねても俺たちの恨みは消えない。……ただ、入団おめでとう、という祝いだけは言っておきたい」


 と、後ろからさっと退出したサルバドールが、通りすがりに言葉を置いていく。


「はい、ありがとうございますー。今後ともよろしくおねがいします」


 カナは小さく手を振って、それに答えた。


「……なんなんすか、あの人ら? ツンとかデレとか合体せず分離しちゃってる人格?」


 と、イブが言葉を漏らすと、ギリアンが横から苦笑して答えた。


「気を悪くするな。あいつらは同じ村の出身で、共に魔族を恨んでいるからな。それでも新人の入団は祝うとは律儀なことだ」

「魔族が故郷を滅ぼした仇、でありましたか。怨恨あってのことなれば致し方なし。納得です」


 人それぞれ何かしらの事情はあるものだ。

 むしろその感情をこそ、カナは好ましく思った。

 人はかくも面白い、と。


「さ、戻ろうか、ロロ。……って、いつの間にか寝てる?」


 いつの間にか、ロロは目を閉じて眠りについていた。

 思えば、セタからの通達を伝えるためだけにここに来ていたのだろう。

 カナはロロを背負って城の寝室へと戻っていった。

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