24.1話

「――カナは、そこの将軍殿と一緒についておいで。申し訳ないけど手は縛っておいてくれ。捕虜だということを他の奴らに視覚でわからせておかないとね」

「ふっ、任せたまえ。見事に私を縛ってやろうとも」


 何故か自信満々に先に行くジョルジュ将軍とは対照的に、カナは意外そうな顔で自身を指さした。


「あれ、僕もいくのですか?」


「戦いは終わっても、決着をつけるための話し合いが残ってるのさね。そのためには重要人物である将軍を連れて行かなきゃならんだろ。つまりは連行と護衛の仕事さ。妹とごろごろだらけるのはもう少しあとにしな」


「なぜごろごろしたいとバレて……」

「アンタの妹がすでにだらけてるからだよ」


 納得の理由であった。

 ロロならば仕事を終えてごろごろしているに違いない。


「セミナリアやフレンツは撤収作業や部隊管理で忙しくてね。暇そうなのはアンタぐらいなのさ」


 オーリエールがちらりと横に立つクリストハルトに目を向ける。


「……ああ、そちらの聖騎士さんはそこで待機だよ。用事があるんだろうけど、もうすぐフレンツの奴が来るからひとまず指示に従っておくれ」


 そう言われて、クリストハルトも無言で頷いた。




 城門前に向かう間に、傭兵団が忙しそうに撤収作業を進める様子が風景のように流れていく。

 ほとんど被害がなかったようで、明るい雰囲気なのが象徴的だ。


 途中、先頭を進むオーリエールが、後ろを歩くカナにぽつりと声をかけた。


「……ありがとうよ、子供たちを守ってくれて。本当によくやってくれた。アンタのおかげで大分死人が減ったよ。いい仕事をしてくれたね」


「それはなにより。少しはお役に立てましたか」

「ああ、とても良かったよ。使いどころに悩むぐらいさ」


 そういわれて、カナも少し嬉し気に微笑んだ。

 ほとんど人の世に出ていなかったカナにとって、自分が選んだ行動によって人の役に立てたのは珍しいことであった。

 兄の役に立とうと頑張った時は、大抵迷惑をかけてきたという実績もある。

 こうして喜ばれているというのは、やはり嬉しいものなのだ。



 城門前は周囲の兵が後方に下がり、ひらけた状態になっている。

 その中心に、グイエン侯爵とカライス伯爵が、用意させたであろう椅子に座って待っていた。

 此度の戦争における敵味方の最高責任者たちだ。

 敗者であるカライス伯爵も、法に則った紳士的な扱いを受けており、拘束などはされていない。


「お偉いさん方、待たせたね。将軍殿のご到着だよ」

「おおー、待ったとも待ちくたびれたとも。カライス伯と見つめ合っているだけとは吐き気がしそうだったぞ! これだけ待たされては報酬は半額でも……」


「ぶち殺すよ」

「貴様に言われとうない! 吐き気がするのはこちらも同じだ!」


 グイエン侯爵が笑いながら吐いた言葉に、オーリエールもカライス伯爵も怒り気味に返す。

 その様子にまったく動じることなく、グイエン侯爵はやはり笑いながら身振り手振りで珍妙な動きとともに答えた。


「いやいや、冗談だとも! ジョークジョーク、エスプリの効いた小粋なトークというやつさ!」

「ほんとにふざけた領主サマだね。くだらないこと言ってないで話を進めな」


「よかろう。それでは戦後処理といこうかね、諸君。カライス伯や指揮官のジョルジュ将軍、その軍への処遇だが……」


 オーリエールに言われて、突然キリっとした表情で神妙な声色を出すグイエン侯爵。


 カライス伯爵は何気なく横を向き、傭兵団の代表者とジョルジュ将軍のあたりを視野に入れる。

 自分がどのような者に負けたのか、興味本位で見ただけだ。

 しかし、そこへ思いもよらない者がいることに気付いた。


「――ん?」

「はて」


 カナと目が合ったカライス伯爵は一瞬固まり、そして驚きの表情でうろたえだす。

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