第23話 使えるものは鬼でも使え

「いたたたた……、まいったまいった。腕がもげるかと思ったぞ。カウンターというやつかね、あれは」


 さして痛そうにも見えない調子で、吹き飛ばされたジョルジュ将軍が戻った。

 その様子に、カナも少し驚いている。


「……あれで良くご無事でしたね、むしろ」


 カナの突きと合わせて、ジョルジュ将軍自身の猛烈な勢いがそのまま返ってきたカウンターの一撃だ。

 痛いで済むような威力ではなかったのだが、ジョルジュ将軍は何事もなかったように歩み寄ってきたではないか。


「頑丈な身体が幸いしたなぁ! それでも、ちと右腕が動かしづらいがね」


 そう言って、左の親指で右腕の方を指さしてアピールした。

 そこで付近にいたクリストハルトが近づいて、ジョルジュ将軍の怪我の様子を診察する。


「ああ、これは恐らく右肩の骨が折れておりますね。あまり動かさない方がよろしいでしょう」


「そうか。幸いにして、ひとまずは動かす必要がなさそうだ。しかし、聖騎士殿も生きていたか。私との戦いを見て、よく聖女殿に挑む気になったものだ」


「自殺行為であったと今になって震えておりますよ。私の上司は自殺することなってしまいましたから」


 クリストハルトは視線を肉片へと向けた。

 その肉片を見て、ジョルジュ将軍が感情を込めずに言葉を返す。


「ふむ、もう一人の無口な中年の方がこれか。……なんというか、よくない感じだな?」

「ええ。実は我々の敵、邪神崇拝者であると判明しまして。文字通り自殺して果て、このように呪いをまき散らす肉片と化しております」


「環境に悪そうだ」


 冷たいようだが、ジョルジュ将軍にとって熟年の聖騎士――ガリアスは無口で陰気な男、という印象でしかなかった。

 なにしろジョルジュ将軍とやり取りしていたのはクリストハルトの方であり、肉片と化した男とは一言も言葉を交わしていないのだから感心がないのも無理からぬことだ。

 あいさつすらなかった上に、ガリウスの態度はどこかあざけりすら感じていたほどである。


「――ところで。クリストハルトさん、でしたか。よろしければ、そこの散らばった聖騎士のおじさんの記憶、僕が調べましょうか? 多少は知りたがっていることがわかるかもしれませんよ」


 突然のカナの言葉に、クリストハルトは驚きの感情を隠せなかった。


「……そのようなことが、できるのですか?」

「先代より受け継いだ力。――憶想を呼び覚ます秘術を用いれば、あるいは」


 そう言われて、クリストハルトは視線を外し、考え込むように顎に手をかける。


「そのようなものが……? もしかして悪魔の力、というやつですか?」


「あー、よく間違えられるんですけど、僕は悪魔じゃなくて鬼なんですよ? 魔族だからってなんでも悪魔扱いはいかがなものかと。……それにこれは魔族がどうこうというものではなく、一子相伝の術みたいなものですね。魔術にも、その人にしか扱えない術などがあるでしょう?」


「……鬼、ですか。つまりは、オーガのようなものだと? ……確かに我々ゼナー教徒は魔族のことを悪魔として認識しがちですね。ええ、失礼致しました。……可能ならばその術、やっていただけますか?」


「いいですよー。……あ、でも、今は戦争中ですし、先に怪我人であるマルキアスたちを連れていかなければなりませんね。とりあえず魂を確保しておきますよ」


 おだやかではない単語がカナの口からでたときに、クリストハルトが虚を突かれたような顔つきになった。

 すでに、カナは空間から“マカ”を放ち、ガリアスの死骸を喰らっている。

 飛び散った死肉も残さず綺麗に消えていた。

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