19.3話
「――カ、カナ?」
「まさか、……聖女、殿?」
銀髪の少女――カナの姿に、戦っていたふたりが同時に声をあげた。
カナは錫杖をふわりと戻してマルキアスに手を振るう。
戦いの場に似つかわしくない、どこかのんびりと落ち着いた様子で微笑みながら。
「……聖、女? いや、なぜここに、カナが? ……助けて、くれたのか」
「離れていく姿をみたので。少し遅れてしまいましたが」
「……それ、だけで?」
「ええ。それがお役目ですから」
どこか要領を得ない答えに、マルキアスは困惑した。
離れていったから。
それだけの理由でマルキアスを追うというのは理解しがたい行動である。
危機にある味方を助けることがカナの部隊の役目というのは聞いていたが、聞けば戦場から離れていっただけで追ってきたのだという。
何故、離れたかもわからないはずなのに、何故、危機に陥るなどと考えたのか。
直前に行動指針を伝えたデクラン隊からの指示だと言われれば納得はできたが、それならば今この場に現れることは時間的に難しいだろうとマルキアスが考えを巡らせる。
だが現状はそのようなことを気にしている場合ではないと、すぐに頭を切り替えた。
「……感謝する。……だが、逃げろ。知らせるんだ、本陣に。……この男は、危険だ!」
「はい。少々お待ちくださいね、マルキアス。安全にしてからその辺の皆さんと一緒に連れて帰りますので」
「おい、話を、……グハッ! ……はぁ、はぁっ」
「無理せずそのまま寝ていてください」
血反吐を吐くマルキアスに、困ったような表情でカナが答える。
そのまま、カナは対面のジョルジュ将軍の方を向き、その後方に控えるふたりの聖騎士の姿へと視線を動かす。
ふたりの聖騎士は静かにたたずんだまま、何の反応も示さない。
一方、ジョルジュ将軍が考え込んだ表情でじっとカナをみつめ、やがて二度頷いた。
「うーむ、やはり。貴殿は聖女殿だ。そうだろう? 見間違いかとも思ったが、思わぬ遭遇だな」
「はて、僕をご存じなのです? これでも記憶力は良い方なのですが、会った覚えがございませんよ?」
「当然だろう。カライス伯に呼ばれて城に来ていた貴殿を、一方的に二階から見ていたというだけだからな」
そう聞いてカナは納得した。
カナの方からは見てもいないのだから覚えているはずもない。
「改めて。私は将軍のジョルジュ・ビヨンド。それもただの将軍ではなく、先ほど惨敗をきっした無能な将軍だ」
「それはそれは。どうも、カナと申します。すでに聖女ではありませんので、お間違えなきよう」
カナの口からでた妙な言葉に、ジョルジュ将軍が眉を傾けた。
「……不勉強ですまないが、聖女とは辞められるものなのか?」
「まぁ追放されておりますし。多分そういうことなのでは?」
「……そういうものなのか」
聖女とは職ではなく尊称や異名といった類の、呼ばれ方の呼称ではないのだろうか、とジョルジュ将軍は不思議に思ったが、彼自身も宗教組織に詳しいわけではない。
「さて、……どうやら先に行くには、あなたを倒さねばならんようだな」
ランスを構え、ジョルジュ将軍が強烈な闘気を放つ。
「ええ。なかなか、楽しそうなお方ですね。――されば」
そしてカナは、涼しげで神秘的な表情を浮かべ、雅に錫杖を地につけた。
「あなたの生き様を――、あなたの輝きを――。さあ、見せてください」
シャラン、と澄んだ音色が鳴る。
雅に、ゆったりとした動作で、カナが美しい笑みを浮かべた。
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