第7話 真相

 私たちは浅沼医師がいる病院に戻ってきた。

 この事件を裏で糸を操るのは彼だというのが私と学の共通した意見だった。

 すでに時刻は夜となり、街灯もない道は暗く、歩きにくかった。

 夜目がきく学は私の手をとり、道を歩いた。

 彼の固い手をにぎっているとどこか安心感がみなぎった。



 浅沼医師がいるであろう病室にはいると彼は椅子に深く腰掛け、私たちをじっと見ていた。

「やあ、お早いおもどりだね」

 にやりと憎たらしい笑みを浮かべ、浅沼医師は私たちをでむかえた。

虫の王ベルゼバブの呪い事件を画策したのはあなたですね」

 私は言う。

「ふっふっふっ……」

 それは承諾の笑みだったのだろうか。

「なぜだ?」

 学は訊いた。

「それは私の研究成果を証明するためだよ。私は大陸から持ち帰ったあの虫たちの効果を証明したかったのだよ。バカな帝国陸軍は私の策をもちいなかったからね。だから無様な敗北をきっしたたのだよ」

 浅沼医師は言った。

「あなたはその成果とやらを見たいがためにあの娘をつかい吸精虫を将校三人に寄生させたのか?」

 私は訊く。

「そうだよ。私は彼女たちをみていたからね。恨みをはらしたいという彼女と私の利害が一致したのだよ」

 浅沼医師は立ち上がる。

 白衣のポケットに手を入れた。

「あの娘も恨みをはたせて本望だろう」

 ぎろりと浅沼は濁った目で私たちを見る。

「貴様の自己満足のためにあの娘は犠牲になったというのか」

 私は言う。

 心のなかに怒りがこみあげてくる。

 あの若い女性はこの狂気の科学者の自己顕示欲の犠牲になったというのだ。

「それがどうしたというのだ。それはあの娘も望んだことだ。さて黒桜の渡辺学、君も私の研究成果の証明するために材料になってくれたまえ」

 浅沼はポケットから黄色の球体を取り出すとそれを一息に飲みこんだ。

 ごくりと飲み込まれる。

「まずいぞ、あれは竜鱗虫の卵だ」

 学は腰の鬼切丸に手をかける。

 彼は臨戦体勢をとる。



 バリバリと衣服が破れる音がする。

 細身の浅沼医師の体がみるみる変化する。

 両手にナイフのような爪が生え、体中に黒い鱗が生える。筋肉がふくれあがり、こぶのような山となる。二メートル近い巨人となった。

 瞳だけがあの濁ったままであった。

 見るだけで恐ろしい怪物へと変化してしまった。

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