カジバノチカラ -鉱石少女がエクスカリバーになるまで-
上田文字禍
第1部 新たなる奇石
プロローグ 「鍛冶師のカジバ」
「石像ぶっ壊すのはさぁ〜〜、まあスッキリするんだなぁ」
俺は
赤い月は少し欠けていた。
俺の作った落とし穴には”動く石像”が数体埋まっている。
男か女か分からん、叫んでいるような歪んだ造形の顔がこちらを見た。
俺はそれを躊躇なくぶっ壊す!!
動く石像を初めて見たのは3年前のこと。
どうやら、この現象は魔王復活の予兆らしい。
最近、石像の数が増えている。
夜になると石の塊が人並みに動き、生物に対し敵意を見せる。
あんなものに殴られたら、一発で致命傷だぜ……。
動く石像はこの森に住む全ての生き物の脅威となっている。
だけど、落とし穴で動きを封じれば良し!!
動かぬ石像は、ただの石像。
なんつって。
俺は砕け散った石像の頭部の中から、手の中に収まるほどの紫の鉱石を回収した。
闇の中で怪しく、艶かしく光る石。
俺はニヤリと笑うと、それを巾着の中へと突っ込んだ。
「作った武器の強度を試しながら、次の素材も手に入る。それで武器作ってぇ〜〜また壊す。無限にできんじゃん。頭よすぎぃ、俺〜〜」
背後の気配に気づき、俺は勢いよくしゃがむ。
頭上には背後から組みつこうとした石像の両腕が見えた。
「げぇ、まだいた!!」
身体をくねらせ、背後の石像の腹部を戦鎚で叩く。
そして、体制が崩れた石像の脳天に一撃。
華麗に決める俺。
「あぶね〜〜」
息を吐き、数歩後退する。
気を緩めたその瞬間、俺は足を滑らせた。
後ろが崖だ。迂闊だった――
死んだかもしれん。
自業自得だ。
そもそも「夜に出歩くな」と仲間にも散々言われている。
それは石像のこともあるが、そもそも夜の森自体が危険なんだ。
そんな場所で歌いながら徘徊。
愚か〜〜〜〜。
少し……いや、俺はかなり気が緩んでいたらしい。
居場所があって、飯もあって、仕事もあって。
なのに、なんで俺はこんな危険なことしてんだっけ……。
そうだ、俺は飢えていたんだ。
強さに。
思い出せ、孤独だった日々を……。
洞窟の工房に引きこもり、外に怯えながらひたすら剣を作り続けていた幼少期を――
俺の名前はカジバ。12歳。
今はドワーフの里で鍛冶師をしている。
ドワーフのおっさん達みたいにイケてる髭が生えないことが悩みの、ただの人間だ。
ここ”ホッドミーミル森”で生まれ、6歳までは人間の両親と暮らしていた。
父の名はヴィーラント、母の名はアルヴィト。
両親とも腕のある鍛冶師で、近くの村の人々の依頼を受け、様々な道具を作っていた。
だけど――
俺が6歳の誕生日に、両親が殺された。
”職人殺し”に殺された。
職人殺しについては、小さい頃からしつこいほど聞かされていた――
その昔、”岩石王”という悪党がいた。
最近復活の兆候があるという魔王のことだ。
岩石王はあらゆる石を作り出す魔術を使い、動く石像や銅像の軍隊を率いて世界征服寸前まで迫ったという。
だが、そこに伝説の勇者が現れた。
岩石王は勇者の作った”聖剣エクスカリバー”によって粉々にされ、滅びた。
それが100年前。
勇者の名前はハルマ。元々鍛冶師だったらしい。
だから、生き延びた魔王軍残党は鍛冶師という生き物を心底恐れている。
またエクスカリバーを作られては困るからだ。
そんな魔王軍残党の中で、人間の鍛冶師を殺しまわっている奴がいる。
そいつが職人殺しだ。
職人殺しは音もなく忍び寄るという。
数多くの鍛冶師が殺されたらしい。
奴のせいで熟練の職人が減り、技術が途絶え、職人になろうとする者が減った。
でも、鍛冶師がいなければ皆の生活は成り立たない。
だから生き残った鍛冶師は身を隠しながら仕事を続けた。
俺の両親もこの森で身を隠しながら鍛冶師をしていた。王様に仕えて城壁に守ってもらうことも出来たそうだが、職人のいない村のために両親は危険を犯すことを選んだ。
そして結局、職人殺しに見つかって殺された。
運命ってのは、残酷だよなぁ……。
両親が殺されて、俺が生き延びてから半年間は父親の秘密の仕事場に引きこもって生きていた。
蓄えが尽き、空腹が限界で外に出た時に俺はドワーフの一行に拾われた。
ああ……そうだ。
俺は”最強の武器”を作りたいんだ。
鍛冶師が殺されなくて済むように……。
普通の幸せってやつを普通に得られるように……。
俺は最強の武器を作るんだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本作に登場する武器と種族をかんたん解説!
■
アーサー王伝説に登場する架空の剣。
本作では魔王を滅ぼした最強の剣として登場。
■
中世ヨーロッパの打撃武器。槌の反対には尖ったスパイクがついているよ。
本作では勇者が考案した”対石像用”の武器として登場。
■ドワーフ
北欧の伝承に登場する、高度な鍛冶技能を持つ小人妖精。
またみてね!
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