第4話 抗えない心

 彼が目覚めたとき、文字どおり私は飛びあがって喜んだ。「ホイミー」を呪いだと訝った私は、彼の目覚めが「呪い」からの解放を意味するようでうれしかったのだ。

 彼はあくびをつくと伸びをついた。ずいぶん寝たなぁとまたあくびをつくと、私を微笑みながら見つめて、なんか脳みそが入れ替わったみたいにすっきり爽やかだよ、じぶんじゃないみたいだな、と話したのだ。

 私は微笑みかえしたけど、彼のその言葉にひっかかりを感じた。ただの比喩だけど、でも脳みそは感覚をつかさどる唯一無二の器官だ。入れ替わりはその人の死を意味するのと同じだ。

 冗談を言う人ではないから感じたことを率直に話しているだけなのだろう。それを証拠に彼の瞳はいつもの優しさをたたえている。私は一抹の不安を覚えながらも彼のむねに身をよせると、彼は、またあの「ホイミー」とか言うのやってみて、そう囁いた。

 封印すると決めていた。使うまいと決めたのだ。

 ただのおふざけだよと言うと、おふざけならいいじゃん、なんかすごく幸せな気持ちだったよ、サヨコに近づくことができたみたいで、彼はそうこたえた。

 私もだった。とても幸せで、気持ち良かった。初めて味わう感覚だった。たくさんセックスしたけど、私と彼がねばねばと交じり合って一つになる感覚は初めてだった。おとといの夜を想うと、私はじぶんがねっとり湿って汁っぽくなるのがわかった。そしてあることに気づいた。

 私は彼に「ホイミー」を使ったつもりでいた。彼の感覚の暴走はまちがいない。「ホイミー」は確実に彼に効いていた。でもその暴走は術者にも跳ね返るのではないか。

 彼は性に淡白なほうだった。嫌いではないけど、私は積極的というほどではなかった。色っぽい声をもらさないし、色っぽい顔つきもしない。乳房は小ぶりだし、腰のくびれにいたってないに等しい。男には物足りないのではないかと思う。

 でもあの夜、のけ反っては喘いで涎を垂らして、私は滴るほどに濡らしていた。思い出すと恥ずかしいけど、あのときは必死だった。私は彼のすべてを吸いとろうとしていたような気がした。

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