第四話【赤爵の少年】
赤髪の少年はにやけた顔のまま言い放つと、最後は周りの二人の方に大げさに話を振った。
それに呼応するように周りの二人も次々と言葉を放つ。
「きっと家でも穀潰しを置く気などないと言われて、いられなくなったんですよ。リチャード様」
「そりゃあそうでしょう。ろくな魔法も使えない貴族など、存在価値がありませんからね」
どうやら俺、もといフィリオに向かって言っているのだとはわかるが、リチャードと呼ばれたリーダー格の少年のことも、言われる内容についてもさっぱり理解できない。
とりあえず侍女を学園内に帯同できるってことはそれなりの格の高い貴族の家に生まれたのだろう。
俺はできるだけ穏便に済ませようと、言葉を選んで返事をした。
「やぁ。久しぶり……なのかな? 申し訳ないけど、今までの記憶を全て失ってしまっていてね。正直、君たちのことも何も覚えてないんだ。授業に遅れてしまうから、そこを通してくれないかな?」
俺がそう言った瞬間、リチャードは顔を真っ赤にして俺に向かって指をさして怒鳴った。
「ふざけるな! このリチャードを忘れてしまっただと!? どこでそんな猿知恵吹き込まれたか知らないが、思い出せないならその身体をもって思い知らせてやる!」
何故か『忘れた』という言葉がリチャードの逆鱗に触れてしまったようだ。
俺に指をさしたまま口の中で小さく詠唱をしているのが見える。
出会い頭に測ってみていたが、リチャードの潜在魔力量はフィリオよりも格段に上。
しかし俺は慌てることなくリチャードの魔法が打ち出されるのを待っていた。
「火よ!」
リチャードの指から黄色い小さな火の玉が飛び出し、走るくらいの速さで俺に向かってくる。
俺は悪い意味で予想を裏切られ、苦笑する。
聞こえてきた詠唱から、第一原理すらまともに扱えていないことがわかっていたが、まさかここまでひどいとは。
しかしリチャードが放った魔法は、俺に向けて放たれたのは間違いない。
どうやらこのリチャードもフィリオを自死へと向かわせた原因の一人だと見て間違いなさそうだ。
周りでは、すでに人垣ができていて、俺たちの動向を野次馬のように見守っている。
避ければ後ろの誰かに当たるだろうし、消してしまっては面白くない。
かといって俺が何かしたとわかれば、それはそれで面倒なことになりそうだ。
ならば……
「浮遊」
俺は素早く空中に印を刻むと、飛んでくる火の玉にその印を貼り付ける。
すると途端に火の玉は加速し上空へと急上昇し始めた。
「破裂」
俺が次の魔法を唱えた時、上空で火の玉は強い光と音が発生しながら消滅した。
突然の出来事に魔法を使ったリチャードも周囲の野次馬も驚いて声すら出せずにいるようだ。
当然だが、俺は一連の魔法を周囲にばれないようにやっていた。
俺はこれ見よがしに驚きのあまり間抜けな顔をしているリチャードに向かって嫌味を言ってやった。
「リチャード。君のことは
「な……なぁ……?」
未だに驚きでロクな言葉を発することができずにいるリチャードたちを横切り、俺は当初の目的である教室へ向かおうとした。
ところが、厄介事というのは次々からやってくるらしい。
今の祝砲を聞いたのか、一人の少女がすごい剣幕で俺の方に駆け寄って来たのだ。
彼女の動きに合わせて前の大きな膨らみが弾む。
その女性の存在に気づいた野次馬たちは蜘蛛の子を散らすようにこの場から離れていく。
どうやらそれなりに恐れられている存在らしい。
「なんだ今の爆発は!? 学園内での私的な魔法の使用に制限があることを知らんのか!」
目の前まで来た長い金髪を持つ少女は、自身の豊かな胸を支えるように腕組みをしながら、俺とリチャードたちの前で仁王立ちをした。
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