(十二)桜香妃
しかし、宮中は慌ただしく婚礼の儀の準備ではなく寝間を用意していた。
「姫様には長旅は厳し過ぎやしなかったか」
「ああ、やはりもう少し休み休み来るべきだった」
とお付の者らが心配をしていた。
到着し、すぐに部屋で休む姫を夕貴と
「こちらからご挨拶に参るべきですのに……無礼をお許しください。夕貴殿下」
「いや、顔を見ておかねばと思うただけ。また日を改めてゆっくり。さ、休むとよい」
姫は、幼い頃より病弱だといい、しばらくは宮中で療養したいと申し出た。
夕貴の母、
「姫君の婚礼の儀と夜伽を設け次第、側室選びをしてはどうかと。あの具合では……」
「では女官から候補を、または
「いえ、今はどこから命を狙われるや分かりません故、素性の知れたものでなければ」
◇
控えめに広間で宮中の神主が婚礼の儀を執り行なった数日後
「なっ、夕貴殿下の正室の桜香妃様?本当はこの世にいないおばけだって噂知ってるか?婚礼の儀もひっそりと行われたとか行われなかったとか……」
「私はお顔を拝見した」
「マノスケ!?いつの間に。どんな方だった?」
「美しいお方だ。」
「そうか!なら良かった。
「こらっ
「そうだな。最近見ないな……。夕貴殿下はいつ夜伽なんだろうな。 あ、誰が見張る?!」
「え?」
護衛の為、侍従武官が見張りを務めるのであった。
美桜は一点を見つめたまま考え込む。
(よ……夜伽?!侍従武官は男、だから男が務めるべき。夕貴殿下は私が女と知ってるわけで、だから……え。もし刺客が来たら?扇で大丈夫かな、夕貴殿下は刀は……ああ)
「どうした?マノスケ」
「いや、何でもない。夕貴殿下が決めるだろう」
「ああ そうだな。いつの事やら分からんしな」
しかしその夕刻 女官がやって来る。
「今朝から桜香妃様は体調が宜しいので、桔梗妃様も今宵にと仰せでございます。」
「ではマノスケ、見張りを頼んだぞ」
「「............」」
「聞いておるのか」
「あっはい。承知しました」
(……耳に何か入れるか……豆?目は屏風で仕切られてる。いや耳塞いじゃ護衛にならないし、ああ。なんで私)
扇もまた、ほっとしつつも複雑な心境である。
扇が夕貴の身支度を手伝い。美桜は扇と共に夕貴の後をついて後宮へと向かう。
「失礼いたします。夕貴殿下がお見えです」
女官が夕貴の羽織を受け取り衣紋掛けにかける。
屏風越しに見える二人の影を横目に確認しながら、正座し刀を横に置く美桜。
(あ 足が痺れちゃ咄嗟に動けない)
やはり片足を立てて崩しておくことにしたようだ。
「桔梗妃様が、夜伽をお急ぎで」
「ああ母上が」
「早く側室をともお考えのようで」
「それは、そなたには不快な思いを。体調が優れないようだ。私は何も急いでおらぬ。今宵はただ静かに話を。女官は外だ。夜伽は無事終えたとしよう。な、マノスケ聞こえたか?」
「え?は、はあ。」
と、夕貴は羽織を取ろうと立ち上がる。
背後に座ったままの桜香妃を屏風越しに見たまま美桜はじっとしていた。
その時、影でたしかに小さな刀が桜香妃の手元に見えたのだ。
その間僅か一瞬の瞬きをするかしないかの間、
美桜の刀は桜香妃の首へ静かに当てられた。
振り返った夕貴は言葉も出ない様子で驚いている。
「何者だ」
と言った美桜をちらりと睨み小刀を自分の腹へと向けた桜香妃。
「刺客だな ならば死ぬな」
「……取り押さえ尋問しますか」と桜香は呟く。
「どうせ吐かぬ。ひとつだけ良いか?こんな危険な役目、望んでか?仕方なくか?」
奴隷を多く見てきた夕貴には、何か引っかかったのだ。
「ここで死なずとも、戻れば命もありません、戻らずとも命はありません」
誰かの差し金で送り込まれた、姫を装った刺客であった。が、本人は奴隷あがりか訳あっての様子。
刺客の手に触れた美桜は、何かを確信する。
「逃がす」
「…………?」
「
それを聞き頷いた女は縁側を抜け飛び出ていった。
刀を鞘に納めた美桜に夕貴が問う。
「高台寺 丸とは?」
「私が育った場所です。丸は刺客の頭です。」
「……そうか」
「さて、騒ぐとするか」
「はい」
「刺客だー!!刺客だー!!」
飛び入ってきた扇と女官
「な な な 刺客!!?」
「どこですかーっ!?」
「逃げた」「のがした」
「あれ 桜香妃様は?」
「それが刺客だ」
「えーーー!!!!」
「では、本当の姫様は……?」
「初めから存在しないのか」
「…………?」
宮中は騒然とし、夕貴の叔父、
その後、刺客の女は暗闇を走り抜け山へ登り美桜の育った高台寺へ行き、丸を訪ねる。
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