神崎さんは覇者のオーラを隠しきれない

綿野 明

神崎さんという人



 彼女は教室の隅で、いつもひとり読書をしている。授業が終わるなり机から文庫本を取り出して、読みかけのところを開いて、俯きがちに読み始める。空いた指に挟まれているのは、本屋に行くと無料でもらえるような栞だ。


 真っ黒な髪は後ろで一つにまとめられていて、黒っぽい細縁の眼鏡をかけている。スカートは長めで爪は短い。口数は少なく、声は小さい。


 こう書くといかにも地味で、ともすればいじめられっ子なのかなと思うかもしれない。けれど彼女はクラスの目立つグループの子達に、ちょっと意地悪い笑顔でからかわれたりなんて絶対しない。それどころか、彼女達の尊敬を一身に集めている。


 その理由を、明確に言葉にできる人は誰もいない。


 彼女は、神崎こうさきさんは、なぜかみんなに尊敬される。陰ではひそかに「覇者」って呼ばれている。校則通りの地味な格好で大人しく本を読んでいる彼女がそう呼ばれることに、誰も疑問を抱かない。





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