第54話

「グーシュヴァンドはどこだ……?」


 外に出て探し歩いてみるがグーシュヴァンドもおっさんもいない。


 もう手遅れか?

 そう思った時だ。


「どうしたのさ?そんな怖い顔で」


「……グーシュヴァンド」


 その手にはおっさん、微動だにしない。


「お前、まさか」


「死んではいないから大丈夫だよ。ちょっと2人きりになりたくてね……予想通りついて来てくれてよかったよ」


 おっさんを投げ捨てるとグーシュヴァンドは路地裏に歩き出す。


「どう言うことか説明してくれるよな?ノーフィに近づいて何をするつもりか」


「ノーフィは偶然会っただけだよ」


「その言葉を信用しろって?」


「うーん、どうすればショウはボクのことを信用してくれるのかな?」


「そんなもん簡単だろ、物扱いして一人一人を殺さなければいい」


「ああ、ヴァルカルのこと?」


「それ以外に誰がいる?」


「いやー、色々心当たりがあるからさ……あ!なら取引しようよ、ショウだけに特別だよ?そっちが飲んでくれるならボクはヴァルカルも殺さないし


「何でそれを知ってる?」


「ノーフィから聞いた訳じゃないよ?ボクは何でも知ってるからね……で、取引の内容だけど、もうわかってるかな?」


 グーシュヴァンドは俺を跪かせると、抱きつき耳元で囁く。


「ボクだけのものになってよ、本気でボクは君を気に入ってる。ボクとずっと一緒にいて欲しい、君の全てが欲しいんだ……君だけは他の人と違って殺したりなんか絶対にしない。君が王でいい、シアは王妃でいい。でも……1


 言う通りにすればヴァルカルは殺されず、俺は首席卒業、新たな国王となれる。


 だが、俺の傍らにいるのはシアではなくグーシュヴァンド。


 ……本気で俺が好きとでも言うのか?

 

 そんな急に好かれる訳はない。

 スキルをいつの間にか使ったか?


 ……確かめるしかない。

 グーシュヴァンドの手を握り、意を決してスキルを使う。


「ひゃっ!?」


 電撃の様な何かによって俺とグーシュヴァンドは弾き飛ばされる。


「ひどいなー、そんなにボクの事が……嫌い?」


 グーシュヴァンドの瞳が変わる。

 スキルが通用しない……つまり、これはグーシュヴァンドの本心。

 

「すまん、嫌いだから突き放した訳じゃ無い」


「……本当かい?」


「ああ、本当だ」


「ならいいかな!そろそろ戻らないとノーフィに怒られそうだし……みんな頑張ってるならボクも頑張らないとだね!」


 また人が変わったように表情が変わる。

 今のグーシュヴァンドもといリャナは演技では無く本当に楽しんでいるようにしか見えない。


「なぁ、ノーフィ達と一緒にこうして学園生活を送るって言うのは出来ないのか?」


「ノーフィはボクの友人だよ、それは本当さ、楽しいのもね」


「なら……」


「でも、ショウと2人でいる時の方がずうっと楽しいんだよ、だから君をボクだけのモノにする……返事は次の試験までに聞かせてくれれば良いからさ」


 去って行くグーシュヴァンド。


 俺はただ黙ってその背中を見ていることしか出来なかった。

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