2 文殊画レ子は、空想具現化によって、分身キャラクターを具現化する。

 ピピピピ、PPPPPP、PPPP。


 「ねえ。如何どうして君は、寝言ねごと小説しょうせつのネタをずっと一人ではっきりと喋っているんだい?。」


 文学の妖精ようせい


 ミーニャが視える様になったのは、物心ついた時、五歳の頃だったと記憶きおくしている。

 「私の事がえるの???。」


 床に耳をてると、人の足音や、床の呼吸、人の話し声が床に反芻はんすうしたものが聞える。如何どうして、空気中の音の聞こえ方と、壁や床に耳を付けた時とでは、こんなに聞こえ方が違うのだろう。不思議ふしぎだなー。


 そんな事を思っていた。


 お風呂場に、洗濯機せんたくきが置かれて居る。


 水がくだを通る音が聞こえる。


 蛇口じゃぐちひねると水が出る。


 とても綺麗きれいで、綺麗な水。


 シャンプーのにおいと泡。


 おけに水をんで、風呂場ふろばで遊ぶ。


 桶の中の空気に押されて水から上がってくる。


 「不思議だなー。」


 洗濯機の中に洗剤せんざいを入れる。


 「不思議だなー、汚れが此れで取れて、いい匂いに成るだ何て、不思議だなー。」


 海の匂いがした。


 しおの匂い、塩化ナトリウムの食塩だけじゃなくて、海特有のミネラルや、微生物びせいぶつの匂いのついた、海の潮の匂い。


 「帰って来てたの???。」


 海に友達と遊びに行っていた、鬼ちゃんが、帰って来た。洗面所に服を脱ぎて、風呂に入る。


 「レモンサワーを又飲んでいるの???。」


 「私は、レモン汁と蜂蜜はちみつと、オリーブオイルと食塩しょくえんびたい。」


「まーた、意味不明いみふめいな事を言い出したよこの子は・・・。」


 庭には、緋音あかねちゃんの好きなアネモネの花が咲いていた。


「緋音ちゃんってアネモネ好きだよね、如何して???。」


 「理由なんてどうだっていいじゃん!!!。なんか、良いんだよねこの花。綺麗で、いい匂いで、形かなー強いて言えば・・・。」


 「私は、花なんて大っ嫌いだよ!!!。」


 其の時、僕は、この二人の会話が、神話の、イライザと、ブラックフラワーの話に似ていると思った。


 「だって、花なんて直ぐに枯れちゃうじゃん。私は、れる事のない、宝石ほうせきやダイヤモンドの方がずっと好きだな。」


 メロンは、生き物が嫌いだった。宝石の様な、決して衰える事のないものに成ろうとしていた。


 「岩に成りたい。」


 「メロン、変わってるよね」


 「緋音に言われたら心外だよ。」


 けれど、あのアネモネや、秋桜こすもす水仙すいせんすみれ燕子花かきつばた、チューリップ、プリムラ、マーガレット、薔薇ばら、ヒヤシンス、海月草くらげそう、クリスマスローズ、ウミユリ草、梅木うめき、松の樹、躑躅つつじおおわれていた、にわはコンクリートで固められ、其の面影をとどめてさえいなかった。


 「何だか、さびしいわ。」


 メロンは言った。


 久しぶりに、緋音の家に遊びに行ったのに、小さな頃とはすっかり変わって終っていた。殺風景さっぷうけいなコンクリートで固められた庭を眺めていた。


 「まあ、こんなものよね。」


 「花は好きじゃなかったの???。」


 「親が、むしが来るからって、全部処理しちゃったのよ。其れから手入れが面倒だからってさ。」


 「まあ、そりゃ気の毒に。」


 「おばあちゃんが亡くなったんだってねえ。」


 緋音のおばあちゃん。よく小さい頃遊びに連れていってもらったっけな・・・。

 「私が上京してから色々あったのねえ。」


 メロンは、そういって、土産に御菓子と、アネモネのストラップをくれた。

 「ありがとう。おぼえていてくれてうれしいよ。」


 「緋音、饅頭まんじゅうと、アネモネの花好きだったなーって思ってさ。」


 メロンは、紅海月べにくらげ細胞さいぼう研究けんきゅうをしている。


 そして私は、洞窟どうくつや、地下にもぐって、石の研究をしている。


 近頃、誰にも言っていない秘密が或る。


 洞窟で見つけた、遠い宇宙の石。


 マリンライトと呼んでいる此の石。


 生きている。にわかには信じがたかったが、確かに、此の金属性の石は、生きていた。


 心拍しんぱくがあり、他の石を喰って、動いていた。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 石の振動が伝わってくる。


 石の進化によって生まれた、超生命体ちょうせきめいたいがかつて地球には居たと本で読んだ事が或る、何かの御伽噺おとぎばなしだとばかり思っていたが・・・。


 私は、其の石を持ち帰って、調べた。


 石が吸収できるのは、あくまでも金属、まりミネラルのみらしい。


 電気で動き、磁気じきを発していた。


 石は化合物かごうぶつに成っており、原子げんし構造こうぞうで回路が出来ており、其れが複雑ふくざつ遺伝子いでんしの様な物を作り出し、様々な種類しゅるいの石を創り出していた。


 石は、別の石の成分を交換する事で、新たな石を創る事が出来る。性別はない。どの石とでも、成分交換せいぶんこうかんをし、種を増やす事が出来た。


 石は、粉々に砕けたり、高温で熱せられ、状態変化し、気体に成ると、元に戻れなくなり、生き物ではなくなる。


 私は、これ等の生物を神話の石人 フライデーにならい、フライデーと名付けた。

 明日という言葉が嫌いだった。


 明日が来るのが、怖かった。


 夜の時間は長くなっていった。


 次の日の朝は、絶望的で、何の気力もなく、ベットに伏せて、眠る。


 昼頃に目を覚まし、だらだらと鬱々うつうつと、夢と現実の狭間はざまで三時間程、ウトウトと夢を見る。そして、夜に、完全に目をまし、気が付けば、病気の様に朝に起きられなくなっていた。


 「不安は或る。」

 妖精ようせいは、決して、僕を助けてはれない。


 妖精は、僕の話相手にしかなってくれない。 


 「一体、何が不安なんだい?。」


 不安、そんな物はない。只単純たんじゅんに、自分は特別だと、そうで無ければ不安なのだ。


 「僕が、此れから先やっていけるかは、きっと如何にか成る問題だ。問題は、そうでは無い。其れは、自分の限界以上の事を、望んでいることだ。」


 「欲張よくばりなんだね。」


 妖精は笑った。

 何事も程程ほどほどがいいと言うが、私は、極端きょくたんだった。


 何をするにしても極端。妥協だきょうを許せなかった。


 「僕は、何にだって成りたい。」


 科学者にだって、医者にだって、法律家ほうりつかにだって、スポーツ選手にだって、役者にだって、芸術家げいじゅつかにだって、音楽家にだって、yuotubeで人気に成る事だって、テレビに出演しゅつえんする事だって、全部を手に入れたい。


 そんな、不可能を願っていた。


 「人間できる事は限られているさ。」


 「本物に成りたけりゃ、何かを捨てて、一つの事に専念せんねんする事だね。」


 分かっているさ。


 そんな事・・・。其れなのに、決められない。


 如何しても、一つの事では、満足まんぞくできない。


 一つのことさえ満足にこなしていないのに、僕は、色々なものに手を出す。或る程度まで極めて、そういったものが複数或るだけで、一番にはなれて居ない。無様な有様だ。


 「かしこくなりたけりゃ、馬鹿なところからはなれるべきだね。」


 バカだってことにさえ気が付けない何て、不幸だね。


 幸せだと言っているこの人は何も知らないから幸せでいられるんだ。


 自分が未熟者みじゅくもので、世界にはもっと上がいて、努力どりょくしている人もたくさんいて、もっと御金持おかねもちがいて、贅沢ざいたくのレベルも違って、そうなろうと頑張っている人がいて、自分も其の人達に負けない様に頑張る。


 そうした活気かっきとは、裏腹うらはらに、自分に見切りをつけて、幸せな家庭を持って、何も知らないまま死んでいくのは、幸せだろうが、いい生き方といえるだろうか。



 チリン。チリン。チリン。


 摩訶不思議学校まかふしぎがっこうから、五百メートル程離れた処の、国道沿こくどうぞいにつこじんまりとした高級な店。魔法に関する道具や、飲食を提供している。


 創業そうぎょう五百二十三年の老舗しにせだ。


 元は、饅頭屋だったのが、次第に、姿を変え今の形になったという。


 鬼ヶ島 おにがしまおにと新宿メロン《しんじゅくめろん》は、私、文殊 画レもんじゅえれこの能力、空想具現化くうそうぐげんかによってつくられたこの世に存在しないはずの存在だ。



 想像そうぞうをより繊細せんさいに現実的に、そして姿を画によって与え、文章によって説明し、動画によって動かす事で、次第しだいと其の空想が、現実世界げんじつせかい実態じったいを持つ様になる。



 そして緋音は、私のもう一つの名前。


 新宿 緋音 想像上の私、其れはちょうどゲームの世界に創った理想の自分其れそのもの。


 私が被っている着ぐるみ。


 ミーニャが視える様になってから、数日、ずっと考えて居た、空想していた、架空のキャラクターが、目の前に現れて話し出した、其の時其のキャラクターに身体と成る、物を工作した。


 丁度フィギアを創る様にして、其の空間上に3Dとして、見えていた鬼ヶ島 鬼が小さなフィギアと成って、動きだしたので或る。


 それ以来、幾つかの幻想具現を心見たが、成功したのは、新宿メロンと新宿緋音だけであった。


 どうやら、具現化には相当な精神力せいしんりょくを使うらしい。想像力を常に働かせておかないと、彼等彼女等は死んで終う。


 想像力が鮮明せんめいであればあるほどに、其れは実態じったいを濃く持つ様になる。

 

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