雪の下、濡れた椿

村崎 紫

12月某日、季節は冬の真っ只中。駅の構内の人の気はまばらなのは、先ほどからやまない雪のせいだと脳内で自己完結させる。全く以て今いる場所は都会ではないというわけではないが、地下鉄の方が勝手がいいというのもまばらな待ち人量の原因ではないかとまた脳内で自己完結な予想を立てる。要するに、待ち時間にすることが無い。あすか、17歳高2。女子校通いというだけの特に代わり映えのしない茶のボブショートを提げた探せばどこにでも居そうなJKというやつだ、私は。

 不便なことに、珍しく駅には椅子がなく立ち待ちを強いられるのだがこれでは勉強がしづらく良くて単語帳とにらめっこするのが限度だ、あとはリスニングくらいか。雪が降りつもっている所為か多少の遅延が発生しているらしく、アナウンスが鳴るたびにわずかながら心の余裕を奪っていく。しばらくすると唇がカサリと乾いていた、たまたま持ってきていたリップクリームを出そうと鞄に手を伸ばす。

「あの……この生徒証、あなたのですよね?」

鞄へ伸ばした手を止め、声の方へと振り返る。

「よかった、聞こえてらしたのですね。ヘッドホンをつけてたので声が届くか心配で。」

「すみません。それとこれ、イヤーマフラーです。」

声の先には、同じ制服を着た女の子がいた。見た感じ、同年か一つ上で後輩では無いと直感的に察知出来るほどの容姿。背丈はしっかりとしてて、目はクリッとした二重、長い銀髪を携え私の目をしっかりと彼女の黒い目が直視している。

「それはともかく、拾っていただきありがとうございます。普段は定期券入れと一緒にしてるのですけども何かの拍子にすっぽ抜けたのかもしれないです。」

内心、知らない生徒に声をかけられ慌てつつも、慌ててないよう取り繕いながらお礼を言う、多分言えてる……はず。

「いえいえ、こちらこそ。それと、鞄から何か出そうとしてましたがなにかするつもりだったのでしょうか?お邪魔したのでしたらすみません。」

律儀か。いや律儀じゃないかもしれないが。

「いえ、ちょっと唇がカサカサしてきたのでリップクリームでも塗ろうかと。」

誤魔化し用はあったはずなのだが、うっかりそのままやろうとしてたことを伝えてしまってハッとなった。が、言って減るものでも無いし悪用される情報でも無いからいいだろう。

「良ければ、でいいですが。」

ん?

「クリームを塗っている所を見せていただけませんか?」

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