第44話 侵入(2)——side待ちぼうけ組


「ねえ、あなたたち。こんなところで何をしているの?」


「誰!?」



 少女は、びくっとして振り向いた。

 アヤメを見ると、その少女は目をぱちくりとさせる。



「あ、アヤメ……い、いったいこんな所で何を?」


「それはこっちのセリフよ。もう……ティアったら風の大精霊シルフィードを踏み台にするなんて信じられない!」



 アヤメは大げさに両手のひらを空に向け、ふるふると首を振った。

 そこにリリアとキラナが駆け寄ってくる。



「アヤメさん、こちらの方は?」


「ああ、こちらはティア……魔法学園の同級生よ」



 アヤメはリリアとアヤメを、ティアという少女に紹介する。



「あら、皆様こんにちは。ティアと申します。ええと、アヤメ……それでこんな所で何やってるの?」


「そ、それは……お兄ちゃんがこの中にいるから、中が見えないかなって思って」


「へえ、お兄さんが……あれ? お兄さんって貴族じゃないわよね。アヤメはあまりお兄さんの話をしてくれないけ

 ど……どうして入れるの?」



 アヤメはティアの問いに、心底面倒くさそうに言った。



「どうでもいいでしょ。だいたい、ティア……あなたこそ何してるのよ。だいたい、あなたなら、こんなコソコソしなくても堂々と入ればいいじゃない? まあ、その格好はどうかと思うけど」



 ティアは、何やら怪しげな呪術師のような姿をしている。

 肌に何やら文字が描かれていて、服は露出度が高めだ。


 シルフィードはうんうんと頷いて言った。



「そうなんですよ、アヤメさん。私は格好を変えても意味がないって言うのですけど」


「そんなことはどうでも良いの! 私もアヤメと同じで、中を覗きたいの。何かよい案はない?」


「どうして中を覗きたいのよ?」


「そ、それは……私の憧れの人が参加者のリストにはいっていて……」


「へえ、それは誰?」


「フィ……い、言わない!」



 フィ……。フィーグお兄ちゃんのことじゃないよね?

 まさかと思いつつ、アヤメは空を見上げ周囲を見渡した。


 ここは、館の門の反対側で、周囲は薄暗く衛兵の目は届かない。

 周囲には人影もない。

 手っ取り早いのは、キラナに竜化してもらってひとっ飛びすればいいのだけど。


 そう考える


「やあ姉ちゃんたち、こんな所で何しているんだい?」


 見るからにチンピラといった風情の男が二人。

 ニヤニヤとして話しかけてきた。

 一人は刺青を見せびらかすように半裸で、もう一人は、これまた大きな剣を背負っている。



「こんな夜更けに女だけで何しているんだ? ってへえ、なかなか上玉じゃねーか」



 そう言っていやらしくリリアに視線を這わす男。



「マジか……ガキは放っておくとして、ふうん……お前は学生か? 二、三年したらさぞいい女になりそうだな。学生がこんな時間に何してるんだ?」


「キャッ!」



 もう一人の男は、アヤメの腕を掴む。

 それを見て抗議をするティア。



「何するのよ!」


「へんちくりんなカッコをした女もいるが……こいつもなかなか」


「離して!」



 アヤメが手を振り解こうとしたとき、男とはチッと舌打ちをして腕をギリギリと締め上げた。そして、どんと突き飛ばす。


「痛っ」



 アヤメは涙目で地面にしゃがみ込んだ。



「なあ、痛い目にあいたくなかったら、大人しくするんだ」


「アヤメママ……」



 涙目でアヤメに駆け寄るキラナ。その瞳には、こぼれそうなくらいに涙が浮かんでいた。



「アヤメママ……いじめた……」


「ん? おいガキ、何か文句でもあんのか?」



 刺青の男は十歳くらいにしか見えないキラナにさえ威嚇する。

 その様子に、途端に焦り始めるアヤメ。なんとかキラナの怒りを静めようとする。

 擦りむいた手のひらをキラナから隠した。


「大丈夫よ、キラナ……ちょっとビックリしただけだから。だからね……落ち着いて」


「アヤメママ……いじめた!!」



 キラナの怒りは収まらない。瞳にいっぱいの涙を溜めている。

 その瞳には、二人のチンピラが映っている。にっくき、アヤメを傷付けたチンピラの男たちが。


 これはマズい……。アヤメは咄嗟に後ろからキラナを抱き締める。



「大丈夫だから、ねっ、ほらあたしは大丈夫!」



 しかし……。



「すぅっ」



 キラナが息を大きく吸い込むのを聞いて、「あ、終わった……」と感じるアヤメ。

 もうこうなると誰にも止められない。

 フィーグが心配した「愚か者」が現れて、キラナの機嫌を損ねてしまった。


 アヤメは聖職者ではないが……つい、祈りを捧げてしまう。


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