第33話 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているようです

 キルスダンジョンは馬車で二週間ほどかかるらしい。

 イアーグの街から見て王都の方向にあり、その間に広がる大森林の奥にあるようだ。


 不人気なダンジョンのため馬車も出ていない。

 そこで、俺は家に帰り、神殿での勉強を終えて帰ってきたキラナに話しかけた。



「キラナ、ちょっと触れて良いか?」


「あんっ……もう、パパくすぐったいよぉ」


「あっ、ごめん!」


「ううん、良いよ……もっと触って」



 などと、俺のスキルを知らない者が聞くと誤解しそうな会話をしながら、【スキルメンテ:複製】を実行した。



「ふむ。【次元飛翔】実行!」


《【次元飛翔】 LV99 発動》


 通常空間の飛翔は初めてだ。

 だけど、あっさり身体が宙にうく。

 その様子を見て、キラナは瞳を輝かせた。


「パパすごい! 背中から光の羽が出てる!

 あたしもする!」


《【次元飛翔】 LV1 発動》


「おおーー」



 にょきっとキラナの背中の上部、肩の辺りから竜の羽が現れた。

 といっても小さくてちんまりしている。

 人間で言えば十歳くらいの容姿のキラナに相応の大きさだ。


 幸い、肩まで大きく開いているシャツを着ていたので、服が破れることはなかった。


 羽をパタパタと羽ばたかせると、キラナの身体がふわっと浮いた。



「おおおー! 浮いてるぅ」


「おっと!」



 キラナがふらっとしたので、慌てて抱える。

 安定して飛ぶことが難しいようだ。

 まだLV1だからこんなものなのかもしれない。



「もう少し練習しないとな。うまく飛べるようになったら、二人で一緒に飛んでみようか?」


「うん! 頑張る!」



 キラナは満面の笑顔で答えたのだった。

 なんらかの理由で封印されていたスキルだから、使えること自体が楽しいのかもしれない。


 ちなみにキラナのスキル【炎の息ファイアブレス】はLV90だ。

 家一軒程度なら簡単に丸焼きにしそうなので、練習は広いところでするようにと念を押しておいた。



 ☆☆☆☆☆☆ 



 俺とリリアはキルスダンジョンに向かっている。

 キラナから複製した【次元飛翔】を使用し、俺はリリアを腕に抱いて飛んでいた。



 パァン!


 飛行速度が音速を超え、俺の後ろで衝撃波が弾ける。



「きゃあああああ!!」


「リリア、下を見ない方が良い」



 どうやらリリアは高いところが苦手なようだ。

 隙の無いエルフ族だと思ったけど、意外と苦手なものがあるみたいだな。



「うう……。下を見ないなら、何を見たらいいのでしょう?」


「目をつぶっておくとか?」


「そ、その方が怖いかも。じゃあ……フィーグさんを見てます」


「え」


「ふふっ。安心できますね」



 ううう。すごく恥ずかしいのだけど。

 俺の腕に抱かれたリリアは、俺にぎゅっとだきつき、ニコニコとしていた。



 そういえば……。

 これから向かうキルスダンジョンについて、少し気がかりなことがある。


 俺が勇者パーティに所属していたときや、その前は、これほどスキルが暴走して困る人は多くなかったはず。

 それが、今ではギルドへの依頼が溢れるくらい、異常をきたす人が多くなっている。

 これには何か原因がありそうだ。

 そう考えると、このダンジョンの性質にヒントがあるのかもしれない。


 このクエストを引き受けたのも、心当たりがあったからなのだ。



 ☆☆☆☆☆☆



 森が急に開けたかと思うと、少し盛り上がった丘にダンジョンの入り口が見えた。

 入り口の近くには簡易な小屋が建っている。


 宿泊用の小屋だが、不人気なためか、誰もいなかった。


 リリアが珍しく休みたいと言ったので、しばらく休憩をした。

 休憩が終わるとやたら元気になったリリアに俺は引っ張られてダンジョンに足を踏み入れる。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆



 ダンジョンの第一階層は特にモンスター魔物に出会うこともなくあっさりクリアし第二階層に進んだ。


 歩くウチに通路の各所にこびりつく血のような染みがいくつか目に入る。

 大量ではないものの、ちょいちょい見かける。


 それを見て、怖いのか俺の後ろから服をつまんで歩くリリア。

 スキル【剣聖:風神】を扱う腕前なのにかわいいと思う。



 ……しばらく通路を歩くと、女性の声が奥の方から聞こえてきた。

 金属音や、聞き慣れない何者かの声も聞こえる。

 戦闘中だ!



「リリア!」


「はい!」



 俺たちは、女性の声がする方向に走り出した。


 少し広い部屋に入ると、数匹の緑色のオーガが見覚えのある少女を取り囲んでいる。

 紺色の神官着を身に付けている女性がどこかで見た殴打武器を持って、オーガに殴りかかっている。


 見た目は清楚で、神に仕える者といった佇まいが美しい。

 美しいんだけど……耳から入ってくる彼女の言葉は……なんというか……。


 荒々しかった。



「ぐえっ、こっ、このヤロウ!! 卑怯だぞ!

 この野郎、死ねええっ!!」



 隣にいるリリアが気付く。



「あの武器、レベッカさんのところで見た——!」



 特徴的な形の棍棒……釘バットを神官が振り回している。

 確かエリシスといったか。


 以前見かけた女生徒同一人物なのか、自信が無くなる。

 口調が随分違うからだ。


 レベッカの店で会ったときは、すごく丁寧でお嬢様という感じだった。

 それが……どうしてこうなった?



「うらああああああッ!

 クソッ倒れろよお前らァッ!」



 めちゃくちゃに釘バットを振り回すエリシス。

 ドカッ、どかっとオーガに命中するが、たいしたダメージを与えているように見えない。


 オーガは打撃を食らい、釘によって引っかかれた皮膚から血が出ている。

 しかしやつらは再生能力があるため、多少の傷はすぐに回復してしまう。


 でも、あの戦い方をゴリ押ししていたら倒せそうな気がしてくるが不思議だ。

 それくらい、迫力があった。


 リリアが目を丸くしている。正直引く。っていうか引いた。



「あの、フィーグさん……あの人すごいですね。軽く引きました……」


「全部、殴り倒しそうな勢いだな。あれでは撲殺神官だ」


「撲殺神官……」



 清楚な見た目や神官着、一方、釘バットと、あらくれ者のような発言。脳みその中で処理できない。


 エリシスをパーティに誘うかどうかは考えた方が良いのかもしれない。と思った。

 でも、次の瞬間にはちょっと面白そうという気持ちがむくむくと湧いてきたのだった。



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