第15話 ランク決め戦闘試験(2)

「では、用意——始めッ!」



 ギルド職員の声で、ランク決め模擬戦闘が始まった。

 勝てば、リリアが奪われた水晶球を取り戻すことが出来る。


 負ければリリアを奪われてしまう。

 俺にも何かするつもりだろう。


 奴らはA級パーティだ。

 一方、俺たちは昨日組んだばかりの即席のパーティ。ランクも定かではない。


 しかし、俺には確信があった。

 フレッドさんはダテにギルマスをしているわけじゃない。

 リリアもスキルの状況を見て確信。決して弱くない。



「ハッ。こんなに綺麗な顔だったとはな。戻って来たら可愛がってやるぜ」



 軽薄な挑発にリリアは屈しない。

 リリアはキッとギザを睨み、剣を抜き近づいていく。



 俺とリリアは、模擬戦闘の前に言葉を交わしていた——。



 ******



「フィーグさん。素晴らしいスキル【剣聖:風神】を授かったのに、

 あの人たちの顔を見たら急に怖くなって——」



 震えるリリアの手をそっと握る。

 すると、彼女はじっと俺と繫いだ手を見つめた。


 次第に震えが小さくなっていき、消えていく。


 リリアは昨日の出来事を思い出したようだ。

 俺にスキルを上書きされる感覚を。



「フィーグさん。私……」


「リリアは強いよ。もともと、この【剣聖:風神】はリリアのスキル【剣技】から生まれたもの。

 ずっと努力してきたんだよね?」


「……はい。

 フィーグさんを信じれば良いのは分かっているのです。

 でもフィーグさんのように【剣聖:風神】を使いこなせるか……私の努力は正しかったのか……」



 リリアは目を瞑りゆっくりと息をつき俺の胸に飛び込んできた。

 彼女の髪の毛から伝わる心地よい花の香りが、ふわっと俺を包む。



「大丈夫。

 リリア、スキルの力を信じて欲しい。俺と、リリアの協力で今のスキルがある」



 俺を見上げる彼女の瞳が潤む。



「フィーグさん……そうですね。二人の……」


「リリアを虐げてきたあいつらに、本当の力を見せてやろう」


「……分かりました。

 この授かったスキルと……私と、フィーグさんを信じています。

 私は、負けません」



 上目づかいに俺を見るリリアの瞳に強い光が灯っていた。

 作戦会議をする前のリリアとまるで別人だ。


 俺とリリアを見るフレッドさんの、とても生暖かい目がめっちゃ気になった。

 フレッドさんは俺たちを残し「俺の存在忘れてねえ?」とつぶやいてから、ボリボリと頭を掻いて部屋の外に出ていったのだった。



 ******



 戦闘が始まった。



 ギザがリリアに迫る。

 でも、きっとリリアは上手くやってくれるだろう。



「【剣聖:風神】発動!」



 リリアの力強くも澄んだ声が模擬戦闘場に響いた。

 悠々と剣を構えるギザに突っ込んでいくリリア。


 最初の一閃で、勝負の行方が分かる。


 ヒュッ。


 あっさりとギザの攻撃を躱し、距離を詰めるリリア。

 リリアが戦闘の主導権を握っていた。


 ガキッ。


 剣と剣が交差する。

 しかし、ギザの首元にリリアの剣が迫っていた。



「なななななっっ。お、お前本当にあのリリアか?」



 リリアは無言でギザに剣を振り下ろす。



「ひ、ひぃっ!」



 情けない声を出すギザ。

 俺とフレッドさんはその姿に安堵する。



「フィーグ、俺たちは俺たちの敵に目を向けようぜ」


「はい!」



 目の前まで近づいてきた敵は二人。



「フィーグ、頼む!」


「了解! フレッドさん、スキルメンテ行います。完了まで耐えてください」


「ああ、任せろ!」



 俺を隠すようにして前に立ったフレッドさん。

 彼はいつも、戦闘をするときは上半身裸だ。

 

 俺はフレッドさんのムキムキの背中に触れる。



「いつもながら、微妙な気分になるなコレ」



 フレッドさんのぼやきを無視して、俺は精神を集中した。

 


「【スキルメンテ:診断・複製・整備】【スキルメンテ:魔改造】を実行!!」



 俺の声に応えて、スキルが起動する。



 名前:フレッド

 職種スキル:

 【モンク:身体強化】:LV59

 【モンク:格闘】  :LV60 《【注意!】:暴走間近》



 スキルが暴走間近じゃないか!

 危ないところだった。


 俺は素早く【複製コピー】と【整備メンテ】を行い、続けて【魔改造】を実行した。



《【魔改造】を実行します——成功しました》



 フレッドさんのスキル、【モンク:身体強化】【モンク:格闘】が魔改造されたようだ。



《【モンク:身体強化】は【完全装備】を用いて魔改造され【モンク:金属筋肉メタルマッスル】に超進化しました》



 んんっ?

 リリアと同パーティだから、彼女のスキルを用いて魔改造した?

 メタルマッスルという言葉の響きがヤバそうだが……。


 今にも細身の剣士とスキンヘッド神官がフレッドさんに武器を振り下ろそうとしている。


 俺は、【スキルメンテ:上書き】を実行した。

 すると、ビクビクッとフレッドさんが震える。

 鼻の穴を広げ興奮している。



「ふっふがっ。こ……このスキルは……【モンク:金属筋肉メタルマッスル】起動ッ!」


『【モンク:金属筋肉メタルマッスル】:LV59 (絶好調)』


 フレッドさんの叫びと同時に、むき出しの上半身が光を反射し始める。

 さすがだ。一瞬にして理解、スキルを発動させている。


 フレッドさんの皮膚は金属のような銀色に輝き、剣士の剣と神官の戦棍メイスを軽々と受け止めた。


 キィィィィィン!


 銀色の肉にぶつかり大きな音を立て、火花と共に弾かれる剣と戦棍。



「「何ッ!!!!??? なっ何だ……その身体は!?」」



 痩せ剣士とスキンヘッド神官が驚く。


 モンクという職階級クラスは身体を強化、固くすることができるという。

 でも、これは聞いていた話以上だ。金属製の剣や戦棍をあっさり弾いた上、刃こぼれもさせている。



「コイツは——すげぇ! フィーグ、ありがとな!!!」



 硬化時は動けないがすぐに解除して戦っている。

 硬化解除時にスキが生まれるようだけど、それを突くだけの力は奴らに無さそうだ。


 喜々ととして剣士の懐に飛び込んでいくフレッドさん。

 彼の顔は、歓喜に満ちている。



 一方、二手に分かれスキンヘッド神官俺に突っ込んできた。ニヤリと舌なめずりをしている。

 さっきフレッドさんを殴った男だ。



「フィーグ、お前はボンクラと聞いている」


「聞いているって誰に?」


「チッ」



 こいつらは、何者かに命令され俺たちを襲っている。

 模擬戦闘にかこつけて俺たちをボコボコにするつもりだろう。



「あなたたちを倒して、依頼主を聞きたいですね」


「お前やリリアみたいなボンクラが俺たちを倒す?

 笑わせるな!」



 俺だってリリアとの付き合いは短い。

 でも、笑ったり泣いたりしている姿を見てきたら……そして、その能力の高さに気付いたら、とてもボンクラなどと言えないだろう。



「……リリアの何が分かる?」


「分かるさ。俺たちはA級冒険者だからな!

 お前みたいな底辺以上に分かるんだよ。

 いいだろう、オレがお前に指導レクチャーしてやる」


「そうですか。ありがとうございます」


「これは訓練じゃない。試験とはいえ戦闘だからな。何でもアリだ。

 卑怯とか言いっこなしだぜ」


「わかりました」



 俺は【スキルメンテ:試行】によりスキルを起動する。



《——【モンク:格闘】は【剣聖:風神】を用いて魔改造され【モンク:闘神】に超進化しました——》



 俺は大きく息を吸い、叫ぶようにスキルの名を呼んだ。



「スキル【モンク:闘神】起動ッ!!!!!」


「と、闘神……?」



『【モンク:闘神】:LV99 (絶好調)』


 スキンヘッド神官は額に汗をかき一歩下がった。

 威勢は完全に消えている。


 息を整えると俺は神官の懐に飛び込む。

 ……スキンヘッド神官の動きが、遊んでいるかのようにひどくゆっくりに見えた。

 


————————————————

*作者からのお願い*


★で称えていただいたり、フォローいただけると執筆のテンションが上がります!


振られた俺は、可愛いに憧れる女の子に接近され、ぎゅっ♥とされて……♥?

ジャンル:ラブコメ カクヨムコン参加作品

https://kakuyomu.jp/works/16816700429237953848

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る