第05話 故郷に帰ったらみんなから勧誘されました(1)


「俺はフィーグ。《スキルメンテ》の使い手だよ」



 俺は助けたドルイドの少女に名を告げた。

 少女はもう大丈夫、自信も付くだろう。



 馬車に戻ると、


「ありがとう。アンタのおかげで助かったよ。うちの近くに寄ったら、礼をしたいから是非訪ねてきてくれ」


「フィーグさんと言うのですね。あの、もしよかったら故郷にいる娘に会って貰えないでしょうか?」


「これは少ないが、我々の命を救ってくれたお礼だ。受け取ってくれ……いや、そう言わずに——」



 同じように皆が助かったと言ってくれた。

 俺の独断で行ったことだけど、うまくいって本当によかった。



 そして馬車は森の出口を超え、俺の故郷の街に向け動き出したのだった。



 ☆☆☆☆☆☆



 ちょうどお昼になる時間、実家に帰り着いた。

 空は晴れ渡り、太陽は少し傾いている。あと数刻もしたら夕方だ。


 この時間なら、俺の妹アヤメは魔法学院にいるはずだ。

 街の冒険者ギルドに行くのは明日にして、家の中でアヤメを待つことにした。



 と、思ったのだけど……。



「おかえり、お兄ちゃん!」



 実家のドアを開けるなり俺の二歳下、十四歳のアヤメが俺に抱きついてきた。

 短い髪の毛に銀色の髪、そして俺の胸くらいまでしかない低めの身長。


 そういえば、さっきも森の中でこうやって抱きつかれたな。

 あのドルイドもアヤメと同じくらいの年齢だったっけ。



「びっくりしたぞ、アヤメ。ただいま——久しぶりだな」


「うん。お兄ちゃん、あのね……いつもありがとう。本当に感謝してる」



 俺に抱きついたままのアヤメは、やや視線を下げてそう言った。

 負い目なんか感じなくて良いのだけど。


 というか、どうしよう?

 勇者パーティをクビになったので今は支払いのアテがない。



「魔法学院の学費のことか? ま、まあそれは気にするな。俺が何とかする」


「お兄ちゃん?

 ……どうしたの?」



 急に顔を曇らせ、俺の顔をのぞき込むアヤメ。

 ダメだな、俺は。


 妹に変な心配させてしまって。

 とりあえず話題を変えよう。



「あれ、そういえばお客さんか?」


「う、うん。街のギルドマスターのフレッドおじさん」



 いつのまにかアヤメの背後に、見覚えのある男性がいた。

 おじさんってのは……ちょっと言いすぎだと思うぞ、アヤメよ。



「久しぶりだな、フィーグ!」


「ど、どうも。お久しぶりですフレッドさん」



 そう言ってフレッドさんはアヤメの真似をして俺に抱きついてきた。

 フレッドさんは二十三歳だったはず。後ろに束ねた長めの髪を揺らすイケメンだ。実際モテるらしい。


 俺にとっては頼れるアニキ的存在でもある。

 そして、この街の冒険者ギルドマスターだ。



「本当に久しぶりだな。今は勇者パーティにいるんだよな? 休暇か?」


「ねえ、勇者様ってやっぱりカッコいいの? お兄ちゃん」



 二人が俺にくっついたまま矢継ぎ早に質問をしてくる。

 しまった。

 アヤメには帰るとしか伝えてなかった。



 ゆっくり話をしようと俺たちはダイニングに向かう。


 ん?

 テーブルの上には、たくさんの美味しそうな料理が並んでいる。



「わぁ……結構なご馳走だな」



 まるでパーティをするかのような状況だ。

 テーブルの上には、鳥の丸焼きなどお肉や、サラダなどが並んでいる。


 俺のために準備したのだろう。


 アヤメやフレッドさんに申し訳ない気分になる。

 俺は覚悟を決め、姿勢を正すと交互に視線を送って話し始めた。



「実は俺、勇者パーティをクビになって——」



 簡単に勇者パーティ追放の経緯を二人に説明する。



「えっフィーグ……マジか。そんな事情だったとは……すまん」


「ううん。お兄ちゃんが帰ってきたんだしこれでいいのよ、フレッドおじさん」



 俺がクビになったと言ったとき、一瞬眉をしかめたアヤメだったがフォローをしてくれた。



「ありがとう二人とも。ほっとするよ」


「あたしはお兄ちゃんが戻ってきてくれて……本当に嬉しいの」



 アヤメはそう言って目を伏せた。

 そうか、アヤメは寂しかったのかもしれないな。

 一人だけでこの家にずっといたのだ。


 んん?



「で、あの人は誰?」



 さりげなく椅子に座り、俺たちの様子をうかがっている人に気付く。

 金髪がさらっとして綺麗だと思った。


 でも、顔を包帯でぐるぐる巻きにしている。

 よく見ると服からスラッと伸びる腕にも包帯を巻いている。


 ——背格好から推定すると、多分女の子だ。


 ちらりと包帯からのぞく彼女の顔は赤く腫れている。

 血が滲んでいるところもある。

 包帯はそんな状態の肌を人目に晒したくないからだろう。



「誰?」



 アヤメは知らないようだ。

 フレッドさんは、溜息をついている。知っているのかな?


 その謎の人物は、視線が集まっていることに気づき勢いよく立ち上がった。



「あっ、ごめんなさい。フレッドさんに無理言って連れてきてもらいました。

 私は、リリアっていいます。フィーグさんが戻ってくると聞いて駆けつけました」



 凜とした声が響く。女性というか、女の子だ。

 歳はおそらく俺と同じ十六歳くらいだろう。



「は、はあ」


「是非、スキルメンテを扱えるフィーグさんに、私とパーティを組んでいただきたくて……あっ」



 リリアは俺の近くに駆け寄ると包帯に巻かれた手を差し伸べてくれた。

 彼女のスキルに俺の能力スキルメンテが反応している。

 しかし、



「……どうしてもというのなら、組んであげてもいいですわ?」



 リリアは急に口調を変えていった。

 何か思いだして、演じるような感じだけど……。若干使用方法を間違えているような。

 ツンデレのツンというのは最初はデレてはいけないと思う。


 ともあれ、リリアは俺とパーティを組んで欲しいようだ。

 


「ちょっと待った!

 フィーグは冒険者ギルドの職員……いや、役員としてウチに来てもらいたい。

 以前のように【スキルメンテ】の能力を存分に発揮して欲しいんだ。報酬ははずむぞ?」



 フレッドさんが男の割に綺麗な手を俺に差し出した。



「待って待って!

 お兄ちゃんはこの家にいてあたしを毎日魔法学院に迎えに来てくれることになってるのっ!」


「ええっ?」



 アヤメはよく分からないことを言い、手を差し出してくる。

 皆が「お願いします!」と言いそうな勢いで俺に迫ってきた。



「フィーグさん。私とパーティを組んでください! ……いいえ、組んで差し上げますわ!」


「オレのギルドに是非!」


「お兄ちゃんは誰にも渡さないの!」



 俺は三人から猛烈に勧誘のアピールをされてしまったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る