第2話:仇
レオン=アレクサンダーの生死確認を
白い塩に覆われた大地であったが、今度は真っ白な布に墨汁をポタポタと垂らし続けているかのように黒が白を席巻していく。アンドレイ=ラプソティの背中に生える6枚羽から放射された銀色の鱗粉は地面に付着するや否や、真っ黒な
その
インディーズ帝国軍の兵士たちはまさに蜘蛛の子を散らすかのように逃げ惑うことになるが、一兵たりとも逃さぬとばかりに大量の
「さすがは『天界の十三司徒』のひとりデス。塩の大地に変えたかと思った次の瞬間には
アンドレイ=ラプソティの前方5ミャートルの地点で立っているアリス=アンジェラはうっとりとした表情でアンドレイ=ラプソティの
それもそうだろう。アリス=アンジェラが創造主:Y.O.N.Nから与えられた指令の中に、神聖マケドナルド帝国軍とインディーズ王国軍の兵士たちを護れという類のモノは一切なかったからだ。それゆえにアンドレイ=ラプソティが起こす奇跡の数々をただただ感嘆しながらその様子を見守るだけであった。
アンドレイ=ラプソティは背中に生える6枚羽から銀色の鱗粉をまき散らしながらも、一歩、また一歩、アリス=アンジェラに近づいていく。レオン=アレクサンダーの仇を討つべく、真に倒さなければならぬ存在を身体だけでなく、心も蹂躙してやろうと思ったのだ。
そんなアンドレイ=ラプソティに対し、アリス=アンジェラは身構えることすらもしない。憎しみの光を宿すアンドレイ=ラプソティの両目で睨みつけられながらも、アリス=アンジェラは動じる様子を一切見せない。その傲慢不遜な態度がアンドレイ=ラプソティの心をおおいにかき乱す。それゆえにアンドレイ=ラプソティは背中の6枚羽を大きく広げ、高圧的な態度で彼女に接することになる。
「レオン=アレクサンダーは私にとって、全てといっても良い存在だ。それに手をかけておきながら、何故、貴女はそう平然としていられる?」
「簡単なことデス。アンドレイ=ラプソティ様にこう言ってはなんですが、貴方ではボクに傷ひとつつけられないからデス」
アリス=アンジェラの余裕しゃくしゃくな態度の一因がわかった気がしたアンドレイ=ラプソティであった。『天界の十三司徒』と称される自分をもってしても、創造主:Y.O.N.Nが遣わしたこの存在に傷ひとつつけられないゆえだと。しかし、アンドレイ=ラプソティはそんなはずがないと思えた。100万の兵士たちを塩の柱に変え、さらには30万の兵士を
「試してみてはどうデスカ? そうすればアンドレイ=ラプソティ様も納得してもらえると思うのデス」
「ならば一切の手加減なぞ要らぬ。準備運動は終わった。そして、この地で気にする相手も居ない今、私は全力を出せるっ!」
アンドレイ=ラプソティは両腕でしっかりとレオン=アレクサンダーの
その鋭い
「変わり身の術デス。位相転換天使術を使わせてもらいまシタ。貴方が穿ったのはボクでは無く、レオン=アレクサンダーの死体デス」
「私を愚弄するかっ! 私の手でレオンを傷つけさせることが望みかっ!」
「いえ。ただ単に変わり身の術を発動させるための肉ある物質がそこに転がっていたレオン=アレクサンダーの死体だっただけデス。特に悪意はありまセン」
1000本を越える鋭い
アンドレイ=ラプソティはグッ! と唸りつつ、あとで丁重に亡骸の処置をさせてもらいますと心の中でレオン=アレクサンダーに詫びた後、そうなる原因を作ったアリス=アンジェラの声がする方向に身体を向ける。アリス=アンジェラはアンドレイ=ラプソティに向かってにっこりと微笑み、さも自分には攻撃が届かなったでしょ? と言いたげであった。
それがますますアンドレイ=ラプソティの心をかき乱すことになり、またもや位相転換天使術を使われる可能性があったにも関わらず、背中の6枚羽をおおいに羽ばたかせ、空中に赤色に変わりつつある羽根を散々にまき散らす。
アリス=アンジェラはアンドレイ=ラプソティの取った行動を見て、軽く嘆息する。そうした後、右手をアンドレイ=ラプソティのほうに突き出し、その右手の中指と親指を用いて、パチンッ! とひと際大きく音を鳴らしてみせる。アンドレイ=ラプソティは何故、アリス=アンジェラがそのような所作をしたのかがわからなかった。注意をその右手に集中させたいだけなのかと思ったアンドレイ=ラプソティであった。
「今のはアンドレイ=ラプソティ様が正気に戻ってほしいと思ったまでの所作デス」
「貴女は私を舐めているのか!?」
「いえ、舐めてはいまセン。でも、ボクたちが相争うことに意味など無いと理解してほしいだけなのデス。もう一度、指を鳴らしまショウカ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます