第2部 V(erity)Tuberヴァイサー誕生

世界が変わった日

 そろそろ物語は動き出します。

 正統派(本作がそうであったかは不明だが)のVモノが読みたかった人はごめんね。

 でも、私はこれが書きたいのだよ。

 では、珍しき前書きを以て物語の次章を始めよう。


 ─────────────────────────────────────


 :マジかw

 :ユーリちゃんにもそんなポンコツエピがw

 :後でぶっ叩きますからね?! ≪ユーリ・ウルス≫


「おうおう主人に対してその口の利き方はねェだろ??」


 :うわーパワハラじゃん

 :ユーリちゃん俺たちのとこおいでよ

 :こんな悪魔のとこにいるよりマシだろー?


「それは困るな、おめーら。

 ユーリは俺の奴なんだ。いねぇと困るンだわ」


 :………… ≪ユーリ・ウルス≫

 :ほんっとこいつは

 :どうせ部下としてなんだろうけどさぁ

 :このクソ女誑し


 はぁ??

 なんでそんな反応になる?


「おめーらなんか勘違いしてねぇか?俺が言いてぇのは……なぁ……?!」


 違和感。

 そう違和感だ。

 何か危険なモノが近付いてきている。この世界に。


 :どした?

 :固まった?

 :いや、動いてんな

 :トラブルか?


「ちょっと待ておいおいおいおいマジか」



 :うわっ?!

 :ちょまw

 :めっちゃ揺れてる

 :地震か?

 :全国揺れてんのかこれ


 災禍がこの世界を包もうとしている。

 守らなければ。

 我の愛しき、美しきリスナー魂たちを。


 ◇◆◇◆


 世界の壁に穴が空く。

 そこから汚れた重苦しい空気がドロリと這い出てくる。


 確固とした形を持たぬは瞬く間にこの地球のコアと結びついてしまったらしい。

 そして、天変地異は起きた。


 ダンジョン。

 そう後に呼ばれる……いや、そう呼ぶのが相応しきモノであったが故のその構造物が世界各地にて現れた。



「とりあえず、みんなすまん。配信は切る。そして……」


 逃げろ──────悪魔はそう言って事態を、現状を把握するために動く。

 配信部屋を飛び出し、彼は有能な執事の元へ向かう。


 執務室へ辿り着き、着席しながらも尋ねる。


「現状を報告しろ。分かっている範囲で良い」


 そこに配信時のような彼の姿は無く、魔界の統治者、そして守護者としての姿がそこにはあった。

 そして、その彼に仕える者も真剣そのものであった。


「魔界においての被害はそれほどではありません。

 次元裂に巻き込まれた者が数名。しかし、我らの性質上復活は容易かと」


「分かった。

 他の界においての状況は?」


 執事は一呼吸置いて告げる。


「天界は我々と同じような状況であると考えられます。

 酷いのは……人間界です」


 彼女の顔が歪む。

 ここ数ヶ月で築かれた大切な関係が人間界そこにはあった。


「クソッ!やはり人間界か!」


 彼は怒りに任せて机を殴る。

 魔樹で出来た机とて彼の力には耐えきれず、木片へと姿を変える。


 外界からの侵略者が人間界を制圧しにかかる理由は単純だ。

 彼らは力を持たない。

 科学という力を持つが、その最高戦力たる水爆も奴らの命を尽く奪うまでには届かない。

 それを放てば弱小な怪物ならば屠れるだろうが……。

 尤もそれは周りの同種さえも巻き込んでしまう諸刃の剣である。


 が、人類がそれを知るのは実際に銃火器による大型の怪物の討伐に失敗した時であるが。


「こうしても居られねぇ。我が出向こう」


 執務室がざわめきに包まれる。

 声を上げたのは副官の者であった。

 名をナイトと言う。

 太古の時代より君臨する悪魔でありながらも自ら動くこと無く補佐に徹している変わり者だ。


「なりません。この度の危機は私が生きてきた時の中でも太古の戦争に匹敵するものです。そんな場所に当主様を向かわせる訳には」


 彼が言うのであればそうなのであろう。

 だが、それを素直に聞き入れられるほどの余裕を彼は持ち合わせていなかった。

 が、それを表面に出す彼でもない。


「ナイト。お前が出れば良いのではないか。そうなれば我も心強い」


 ナイト。

 それは太古より存在する悪魔であるが故に、今は禁忌タブーとされている生物の魂を利用した受肉を終えている。

 というより、そう


 つまり、何が言いたいかと言うと。


「申し訳ありませんヴァイサー様。

 我が創造主マスターからは今回の事案は私の方で対処する故貴様は手を出すな、と命令が下っておりますが故、あなた様の命とあれど従うことは出来ませぬ」


 太古の戦争の末期。

 とある人間に造られた彼は管理者たる彼女に代わって魔界からこの世界を管理する者の一人だ。

 その創造主がどこに居て何を考えているかは知らぬが、ヴァイサーは理解した。


 コイツに何を言っても突っぱねられると。


「ならばやはり我だけで行くしかないな」


 しかし、それを許す彼女ではなかった。


「なら私も行きます」


 悪魔は執事の顔を見た。

 彼女は主人の瞳を見つめる。


 その顔には確かに覚悟の表情が見て取れた。


「まぁ、我と共に行けるとしたらお前だろうな、ユーリ」


 ◇◆◇◆


 えぇ、

 貴方と共にけるのは私しか有り得ません。


 貴方が行くのならば私も行かねば。

 どこまでも。


 えぇ、

 死地へもお供します。


 ◇◆◇◆


 我の言葉にゆっくり頷くユーリ。

 ったく、仕様が無い部下で、同僚だ。

 とっくに覚悟を決めた顔をしてやがる。


「行くぞ、ユーリ」


「はい、行きましょう」


 我は人間界への門を開いた。

 あとはくぐり抜けるのみ。


「我らが人間界に姿を現したとして。確実にバレるよなぁ」


「あーまぁ、そうでしょうね?」


 一応心配事としてユーリに投げかけるが、それに答えるユーリはどこか楽しそうだ。

 そんなユーリを前にすればこちらの緊張も和らぐというもの。


「まぁ、いいか!」


「そうですね!」


 戦場へ向かう者とは思えない雰囲気で俺たちは語り合う。


たちの愛すべきリスナーを救ってやるか!」


「はいっ!」


 危険を感じるほどその防御反応として、それを感じなくなっているのだろう。



 散歩にでも出掛けるように俺たちは笑顔で門へ歩み出した。


 ◇◆◇◆


 新東都駅前。

 近代的なデザインが導入される先駆けとして建設された美しい町並みは今や見る影もない瓦礫の山と化していた。


 そこに溢れるは、炎、煙、血、人々の叫び声、車のクラクション、破壊音、子供の泣き声……。

 そして。


「GRRRRRRRRRRRR!!!」


 この世のモノならざる魔物である。

 ダンジョンから溢れてきたそれらは自由を得たとばかりに暴れ回っている。


 駅前のバスターミナルに鎮座するのは、体長15メートルほどの赤いドラゴンだ。

 逃げ惑う人間エサを眺め、そして目の前の腰の抜けて立てなくなった人々をどれから喰ってやろうかと言わんばかりに視線を動かしている。


 そのドラゴンの他にも小ぶりのドラゴンが新東都駅前の空を飛び交っていた。


 どうやら赤いドラゴンがこの群れを率いているボスらしい。

 次々に人間エサがそのドラゴンの元へ運ばれてくる。

 それも丁重に。生きたまま。



「お助けを……」

「かみさま」

「ごめんな、加奈子、美優……」

「ママぁぁぁぁ!!!」


 運ばれてきた者の反応は様々だが、浮かぶ表情は『絶望』。

 その一色である。


 ドラゴンがのそり、とその前肢を動かし、おもむろに特に理由も無い様子でその内の一人を爪で突き刺し、口へ運んだ。


 誰もが黙ってその光景を見ていた。


 爪と太い牙の隙間からは血が滴り、地面に血だまりを作った。


 誰だろうか。

 その光景に我慢できずに嘔吐してしまった。

 血と吐瀉物の匂いの混じった嫌な匂いが辺りを包む。


 まさに地獄だ。


 早く終わってくれ。


 誰もがそう願った。



 これは夢なんだ。

 悪い夢だ。

 あぁ、早く覚めてくれ。

 こんな夢見たくは無いんだ。



 だが、紛れもない現実であると脳の冷静な部分が教えてくれる。



 ならばせめて、こっちに都合の良い嘘のような現実が起こったって良いじゃ無いか。



 そう、誰かが願ったときであろうか。

 ドラゴンと人々の間に光り輝く門が現れた。


 そこから現れたのは、人間離れしたルックスを持つ青年と少女。

 二人に共通するのは頭から漆黒の角を生やしていることと、背中に翼を生やしていること。

 そして、絵画からそのまま抜け出してきたかのような容姿であった。


「あ、悪魔だ……」


 とある男はそう口に出した。



 その言葉に青年は応えた。


「ほう?俺を知ってくれているのだな?後は任せろ下僕ども!」



 男はただ見た目のことを言っただけであったが、どうやら味方に付いてくれるらしいと安堵した。

 何故か分からないが自信満々なその姿に、頼もしいな。そう感じた。

 そして意識を手放した。

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