一方、【MML】は……
その日、【MML】社長室には電撃が走った。
「美春〜!た、大変!見てよこれ!」
私、
「どうしたの、朱音ちゃん。そんなに慌てちゃって」
私と朱音は共にこの会社を立ち上げた仲であるため、社長と社員という立場だけれど、お互い名前で呼んでいる。
そんな事は置いといて、今は朱音の事を。
普段割と冷静な朱音がここまで慌てるとなると何かあったに違いない。
それなりの覚悟を持って彼女の次の言葉を待つ。
朱音は息を整え、こう言った。
「美春、またやばいのが来た」
また……?
またってなんの事だろう……。
私がそう思っている事を汲み取ったのか、朱音が続ける。
「また1期生たちと同じような子がオーディション募集に来たの!」
それを聞いて私は驚きを露わにする。
そして、頭に駆け巡るのは早数ヶ月前のこと。
◇◆◇◆
それは【MML】第1期生のオーディション募集の時の事だった。
私と朱音の2人でVTuber事務所を立ち上げ、その記念すべき1期生を募っていた。
しかし、新参の弱小事務所なんかにはなかなか募集も来ず、来ても中々ビビっと来る人材は無く…。
そんなこんなで募集開始から数週間が過ぎた日のこと。
その日もさっきのみたいな様子で朱音が社長室に飛び込んできたのだ。
「美春!見て!見てよこれ!」
朱音が出したのは4枚の資料。
4枚の資料にはそれぞれVの立ち絵と活動名が書かれていた。
「朱音、いつの間にオーディションなんてしたのよ。しかも、私に許可なしで。一応あなたも社長と同じ様な立場だけれど、流石に相談無しなのは困るわ…」
そう小言をこぼしておく。
でも、記念すべき1期生を確保出来たのは僥倖だと、朱音を褒めようとした時、朱音が口を開いた。
「違うの、」
「え?何が?」
何が違うというのだろうか?
実は自分が捕まえてきた人材では無いとか?
でも、それはそれだ。
とにかく今は1期生を確保出来たことを喜ぶべきだろう。
「これ、私が捕まえてきたんじゃ無いの…」
やっぱりそうか……。
そう納得した私に朱音から衝撃の事実が告げられる。
「この人たち、この状態で応募してきたの」
「え……?つまり、立ち絵も活動名も自分で作った状態でオーディションに応募しきたと……?」
VTuber事務所を作ったばかりだからよく分からないが、これはきっと普通ではない。
普通、オーディションに受かってからこういうのは決めていくものなんじゃないの…?
朱音の言葉はまだ続く。
「うん、そういうこと。それに、活動名と立ち絵だけでなく、配信画面の背景、2Dデザインまで仕上げた上での応募なのよね」
「は…?」
私の思考は完全にストップしていた。
少しして思考を再開した私は色々と考えつつ、とりあえず結論を出した。
「朱音、この人たちをうちの記念すべき1期生として向かい入れましょう」
「そうだね!美春!」
こうして、私たちの会社の第1期生が誕生したのだ。
そして、彼女たちがみんな何かしらのモンスターの姿をしていたことから会社の名前を【Magic Monster Live】とし、この会社は1歩踏み出したのだ。
◇◆◇◆
私が回想を終え、一応朱音に聞く。
「その募集して来た人、というのはあの子たちと同じで全て仕上げた上で応募してきた。ということよね?」
「うん、そうだよ美春」
やはりか…。
今のV界隈ではこれが普通なのかな?
いや、違う。
この前他の事務所の人と話す機会があったのだけれど、その時1期生の話で驚かれたばかり……。
「うーん……朱音、その人の資料、見せてくれる?」
すると、朱音は2枚、資料を渡してきた。
「実は、1人だけじゃなくて…」
2枚、ということは今回もイレギュラーな存在が2人も…。
とりあえず、見てみようかな……。
ふむふむ…2人とも悪魔で、ユーリちゃんの方はヴァイサーくんの従者と。
キャラ設定まで完璧なのか…。
2人ともなんと顔の整ったことか…。
まぁ、立ち絵なんだけどね?
それにしてもママは誰なんだろう?
もしや、この子達も自分で?
「あー流石に立ち絵は自分じゃなかっ…え?」
ふっふっふっ。と私の反応を見て朱音が小悪党みたいに笑う。
「気づいた?美春」
「うん…これ、え?」
ちょっと理解が追いつかない。
何度見返してもそこにある2文字は変わらない。
立ち絵担当イラストレーターの所には『帆南』の文字。
フォロワー50万越えの人気イラストレーターで、最近ではライトノベルの表紙、挿絵だけでなく、VTuberの立ち絵を担当している今勢いのあるイラストレーターなのだ。
自分自身もVTuberとして活動しており、おっとりとした口調と性格で人気を博している。
そんな彼女が担当したVTuberが2人も。
欲を言うのなら今すぐこの2人を採用したい。
しかし、1期生のおかげである程度名が売れてきた今、あの時とは違って応募もちらほら来ているのである。
「ほんとはこの2人、即戦力だし取りたいんだけど……」
私がそう残念そうに言うと朱音が何か思いついたように告げる。
「じゃあさ、スカウトしたらいいんじゃない?」
「確かにその手もあるけど……」
結局、他の人との公平性が失われることには変わりはない。
しかし、事業を拡大し、より多くの人材を受け入れられるようになれば、より多くの人の夢を叶えられる。
それに、オーディションの応募だけでここまでの熱を持って出来る人ならばオーディションでも絶対と言っていいほど採用するだろう。
ならば、ここは朱音の提案に乗るのも良いのではないだろうか。
「えぇ、そうしましょう。早速記載されているアドレスにスカウトメールを送りましょう」
その後、朱音の提案により2人は『スカウト』という形で【MML】に入ることになったのだった。
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