雨の幽霊

卯月代

雨の日の咲く

第1話 雨の気配

 傘に強く雨粒が当たる。今日から梅雨入りしたらしい。靴が少しずつ濡れていくのが心地悪い。

 夕方の日が沈む前に、散歩をする。これは僕の日課だ。

 服の袖が緩やかに濡れていく。今日は土砂降りで憂鬱だ。あまり物事の続かない僕が、こんなことをずっと続けているのには一つ理由がある。


 もしかしたら彼女に会えるかもしれない。


 その一心で毎日懲りることなく、散歩に行くのだ。でも彼女に会ったのはもう一年も前のことだったように思う。もう半ば諦めていたが、ずっと続けてきたことを辞めてしまうのは少し惜しい気もした。


 僕が決まって歩く散歩のルートを、今日も淡い期待を胸に一歩ずつ歩く。

 もうあの橋が近い。

 少し遠くに川を跨いだ短い橋の頭が覗いている。前はあの橋の上で彼女と待ち合わせをして会っていた。

 しかし彼女は急に来なくなった。ずっと彼女のことが忘れられない。いつもここで、彼女の姿を探してしまう。


 今日も君の姿を探す。


 今日ももしかしたら、と、僕はその景色に目を疑う。



 橋の上に女性がいるのを見つけた。




 そのシルエットが僕の目を奪った。


 靴が大袈裟に濡れる。気づけば早足になっていた。近づくたびに僕の期待は膨らんだ。僕の靴はすっかりベタベタになっていた。そんなことも気にならないくらいに、意識は彼女から逸らすことが出来なくなった。

 橋の上まで来たところで、彼女はこちらに向き直して、僕に笑顔を見せた。


「久しぶり」


 彼女は雨の日に現れた。


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