45.振られる前提




「いや正直言うとですね、あたしだってせんぱいとカノンちゃんがくっついてくれれば万々歳なわけですよ。でもそうはならないですよね?」


 素朴な疑問を投げかけてくるカレン。

 同時にカノンも、懇願するような眼差しを向けてくる。その意図が理解できないわけではなかったが、俺はあえて気づかないふりをした。


「やっぱり、せんぱいはカノンちゃんの好意を受け止める気がない、と」

「そ、そんなのまだ分から――」

「まあ確かにないが」

「さらっと希望が絶たれました!?」


 ショックを露わにするカノン。ガーンという漫画的効果音が似合いそうな雰囲気だった。


「あれ、あれ? なんであたし、こんなあっさり振られてるんですか? まだちゃんと告白もしてないのに……」

「いや、もう耳タコになるくらい聞いてるし、その度に聞かなかったことにしてただろ、俺」

「いやいや、あれはセンパイなりのジョークというか、愛情の裏返しって思ってますから、あたし」

「ポジティブだな……」


 呆れる俺、と同じような顔をしたカレンが、ぽんとカノンの肩に手を置き、


「ドンマイ、カノンちゃん。でもきっと大丈夫。必ず最後に愛は勝つって言われてるから」

「えっ、なんであたし励まされてるの……?」

「ともかく、せんぱいも少しは見習うべきだと思うんですよ。カノンちゃんのこの蛮勇っぷりを」

「ばんゆうっぷり?」


 カノンが大きく首を傾げて俺を見てくる。

 似た者同士でも意外にあるボキャブラリーの差……と言うかこいつら、知れば知るほどあまり以心伝心していないような気がする。


「蛮勇は、向こう見ずの勇気って意味だな」

「えっ、それって見習うべきところ? あたし小馬鹿にされてないですか?」

「小馬鹿どころの話じゃないな。つまりカレンは俺に、玉砕覚悟で柊先輩にアタックしろとでも言いたいのか?」

「はいっ。で、せんぱいが元部長さんに振られてしまえば、自ずとカノンちゃんの鞘に収まります」

「な、なるほど……カレンちゃん、策士です。というわけでセンパイ、さっさとその元部長さんに振られてきてください」

「ふざけるな。そもそも元から俺とカノンはなんでもない関係だろうが。鞘に収まるもなにも」

「ええ? でもせんぱいとカノンちゃん、昔はいつも一緒ですごーく仲よかったじゃないです? それこそ恋人同士みたいに」

「小学生の、しかも低学年の頃の話だろ。そんなのはただの腐れ縁の幼馴染でしかない。恋人なんてそんな……」

「……~~っ」


 不意に、カノンから思い詰めたような目を向けられ、俺は押し黙るほかなくなった。

 ……なんなんだよ、一体。

 今更、そんな目を向けるくらいなら、どうしてお前は……。

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