43.意外な見返り




「でもセンパイ、せっかくセンパイの部屋に置いたWiiUをわざわざ持って帰るなんて、非効率的じゃないです?」


 などとのたまっているのはカノンの方。

 非効率的なんて言葉を用いてまるで理に適っている風だが、その実は戯れ言にほかならない。


「そもそもお前の私物を俺の部屋に置いていることの方がおかしいだろ。効率以前の問題だ」

「それは仕方ないです。あたしの部屋にはテレビがないですから」

「なんでテレビがないのにWiiUを持ってきたんだよ……」

「実家では居間にあるテレビに繋いで使ってたんです。でもそれを持ってくるわけにいかないじゃないですか」

「なら一人暮らし用の手頃なのをねだればよかっただろうが」

「ねだりましたけどダメだったんです。でもゲームは絶対に持っていきたかったので文句を言ったら、『じゃあお隣の萩原さんちの使わせてもらいなさい』って。それであたしも妥協しました」

「するなよ! まず俺の同意を取るのが先だろ!」


 古き悪しき田舎コミュニティの価値観恐るべし。近所なら助け合うのが当たり前だと思ってやがる。

 本当に困っているならばまだしも、当然のように入り浸ったり勝手に飯を作っていたり……少しは俺のプライバシーのことも考えてくれと言いたい。


「まあまあせんぱい、ここに置いてれば可愛い後輩二人がゲームを口実に遊びに来てくれるんですから。こんなに役得なこと、普通の男子高校生じゃ絶対に味わえないですよ?」


 なぜか媚びるような上目遣いで見上げてくるカレン。

 媚笑のつもりなのだろうが、こいつの本心が見え透いている俺からすればちっともドキリとしない。


「部屋を占領されて、いいように利用されているこの状況のどこが役得だ。俺にとってなにがメリットだって言うんだ」

「ほほうメリット……つまりせんぱいは、あたしたちが部屋を使う代わりの見返りを求めていると」

「み、見返り……なんだか妖しい響きです」


 二人して怪訝な眼差しで見つめてくる。

 ……おい、なんだこの空気は。なにを邪推しているんだこいつらは。


「まあ、やっぱりせんぱいも男の子ですし、そういう想像をするのも仕方ないって話ですよ」

「カレンちゃん、そういう想像というのはまさか……」

「そのまさかですよカノンちゃん。せんぱいはこう見えて、というかある意味見た目通りのハイパームッツリ男子ですから、見返りと称してあんなことやこんなことをあたしたちに……」

「あんなことやこんなこと……わわっ、わわわわっ」


 にたーっとした目つきのカレンと、あらぬ想像を膨らませて顔を紅潮させているカノン。

 なにかそこはかとなくまずい流れになっていた。


「待て待て待て! 一体全体どうやったらそんな発想に至るんだ! 俺はただ――」

「まあまあよしなによしなに。こう見えてもあたし、ちゃーんとせんぱいへの見返りも考えてあるんです」

「か、考えてだと……?」

「そうですっ――それもずばり! 恋バナです恋バナ! せんぱいの、恋のお・は・は・し」


 ……は?

 俺は呆気に取られた。傍で顔を赤くしていたカノンも同様だった。

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