35.基本中の基本




「率直に言えばいいじゃないですか。旧デジ研はただ、パソコン使って遊ぶだけの部だったって」


 俺の言葉に、柊先輩は「そうね」と微苦笑を浮かべた。

 対してカレンは目を丸くし、


「遊んでただけで部活動やれてたんですか? ちょっと羨ましいかも……」

「いやなんでだよ」

「だってせんぱい、いっつもあたしに言ってるじゃないですかぁ。真面目に活動する気がないならゲダウトヒアって」

「言ったことねえよ。なんで部分的に英語なんだよ」

「まあそこは冗談ですけど、大体似たようなことは言ってるじゃないですか。でも今の話なら、真面目に活動しなくても遊んでるだけでいいんですよね? じゃああたしもそっちの方向で部に貢献を……」


 参った。まさかこんな形でつけ上がらせることになるとは。

 しかし意外なことに、調子に乗るカレンは穏やかに微笑むばかりの柊先輩によって窘められる。


「デジタル研究部のような貢献はむしろ、カレンちゃんには難しいんじゃないかしら」

「え、なんでですか? パソコン使って遊んでるだけですよね?」

「確かにそうだけど、あえて付言すると、デジタル研究部の先輩方は遊ぶものを自分で作っていたの。それも活動内容の範疇だったから」

「自分で? 作る……?」

「要は、パソコンでゲーム作って自分たちで遊んでたってことだよ。で、お前にそんな技術があるのかって柊先輩は言ってるんだ」


 俺の補足に、カレンは笑顔を引きつらせて固まっていた。本当にただ遊んでるだけの部活があるわけないだろうが……。


「でも安心していいわ。文芸部としての活動の方なら、ゲーム作りみたいな難しい技術は必要としないから。カレンちゃんもきっと大丈夫よ」

「えっと、例えばどんなことですか……?」

「基本はまず読書ね。好きな本を好きなだけ読むの。簡単でしょう?」


 にこやかに笑う柊先輩、とは対極的に渋い面持ちのカレン。

 どう見ても簡単と捉えているような顔ではなかった。たぶんこいつ、読書とかほとんどやったことないな。


「読書……ううぅ、読書ですかぁ」

「先に言っておくが、漫画はダメだからな。まず学校への持ち込みが禁止されている」

「それくらい分かってますよぉ。だから悩んでるんじゃないですか。文字ばっかりの本って読むと疲れるんですっ」

「威張って言えることないだろ……」

「大体、読書なんかしてたらせんぱいのことからかえなくないですか? せんぱいをからかわないあたしなんて存在意義あります?」

「知るかっ。そもそも先輩をからかうこと自体が間違ってるだろ……」


 ほとほと呆れ返る。こいつはなにをしに部活へ来ていたのか。

 振り返ってみると、カレンがなぜわざわざデブ研に入ってきたのか、それは分からず仕舞いだったが……俺をからかうのが目的だったのだとすれば趣味が悪過ぎる。中学の時みたいに水泳に打ち込んでいた方が何倍も有意義だったろうに……。

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