24.1K+1JK
結論から言うと、カノンが作った料理は普通に美味しかった。
けんちん汁も、子供の頃に食べていた祖母の味そっくりで、不覚にも懐かしい気持ちになってしまった。それほどいい思い出でもなかったはずなのに。
「どぉですかセンパイ? お口に合いますか?」
「ああ……美味いな」
「えっ、じゃあなんでそんな渋い顔を?」
「なんか悔しいというか、認めがたいところがあって」
「な、なにゆえっ……もう、美味しいなら素直に認めてくださいよぉ」
カノンはむーっと頬を膨らませていた。子供か。
……そういえば、誰かの手料理を食べるなんていつ振りだろう。誰かと一緒に食卓を囲むことも。
少なくとも一人暮らしを始めてからは一度もなかった。昔は当たり前だったことも今となっては新鮮で、たまにはいいかもしれないと思わないこともない。たまには、な。
――などと少しは感慨に浸っていた俺だったが。
「あ、そうですセンパイ。明日からもあたし、ここで一緒に食べますので。色々とよろしくお願いしますねっ」
「そうか、明日からも――は? なんだって?」
「だから、よろしくお願いしますって。今日の材料はあたし持ちでしたけど、明日からはセンパイも買い物とか。料理はあたしが頑張りますのでっ」
シュビッと敬礼ポーズを見せるカノン。
米兵か、という突っ込みはさておき……、
「待て待て待て! なんでそういう話になるんだ!」
「えっ、もしかしてセンパイが作りたい感じですか? うーん、でもあたしは部活で買い物行く暇なさそうですし……あっ、でもお休みの日に買い込むスタイルなら大丈夫かも。センパイと一緒に買い物ならデートにもなって一石二鳥ですしっ」
「勝手に話を膨らませるな! 役割分担のことじゃなくてそもそもの話に文句言ってんだよ!」
「そもそも?」
「だから、明日からもここで食べるってどういうことなんだって話だ。今日は昨日のお礼って話だったから許したが、明日からもなんて聞いてないぞ」
「それはそうですよ。今初めて話しましたし」
こいつ、俺をおちょくっているのか……それとも素で癪に障る言い方しているのか。
「センパイのおばあちゃんに言われたんですよぉ。もしセンパイのお世話になるなら、相応の見返りが必要だーって」
「見返りだと……?」
「はいっ。あたしは全力でセンパイのお世話になるつもりなので、あたしも全力でセンパイのお世話をしようと思いまして。それでできることと言ったら、これはもう通い妻になるしかないかと」
「そもそも全力でお世話になるって部分からおかしいだろ! 一人暮らしなんだから一人で頑張れよ!」
「えーっ、センパイは単身で田舎から出てきた女の子が助けを求めてるのに、見捨てちゃうような人なんですか? そんな男の子に育っちゃったんですかぁ?」
「なんだその分かりやす過ぎる煽りは……ていうか、それじゃあほぼルームシェアじゃねえか」
「あっ、センパイが良ければ越してきましょうか?」
「良くあるか!」
たまにのはずが、どうやら毎日こいつの飯を食べる羽目になったらしい。
……ここまで文句をつけておいてなんだが、正直なところ、惣菜を買うより食費が浮くのでは、なんて考える自分がいたことも否めない。
それに、まあ、カノンの料理もうま……口に合わないこともないし。
複雑な胸中の中、俺はまだ温かいけんちん汁を啜った。
……まさかとは思うが、これは毎日出たりしないよな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます