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 結論から言うと、カノンが作った料理は普通に美味しかった。

 けんちん汁も、子供の頃に食べていた祖母の味そっくりで、不覚にも懐かしい気持ちになってしまった。それほどいい思い出でもなかったはずなのに。


「どぉですかセンパイ? お口に合いますか?」

「ああ……美味いな」

「えっ、じゃあなんでそんな渋い顔を?」

「なんか悔しいというか、認めがたいところがあって」

「な、なにゆえっ……もう、美味しいなら素直に認めてくださいよぉ」


 カノンはむーっと頬を膨らませていた。子供か。

 ……そういえば、誰かの手料理を食べるなんていつ振りだろう。誰かと一緒に食卓を囲むことも。

 少なくとも一人暮らしを始めてからは一度もなかった。昔は当たり前だったことも今となっては新鮮で、たまにはいいかもしれないと思わないこともない。たまには、な。

 ――などと少しは感慨に浸っていた俺だったが。


「あ、そうですセンパイ。明日からもあたし、ここで一緒に食べますので。色々とよろしくお願いしますねっ」

「そうか、明日からも――は? なんだって?」

「だから、よろしくお願いしますって。今日の材料はあたし持ちでしたけど、明日からはセンパイも買い物とか。料理はあたしが頑張りますのでっ」


 シュビッと敬礼ポーズを見せるカノン。

 米兵か、という突っ込みはさておき……、


「待て待て待て! なんでそういう話になるんだ!」

「えっ、もしかしてセンパイが作りたい感じですか? うーん、でもあたしは部活で買い物行く暇なさそうですし……あっ、でもお休みの日に買い込むスタイルなら大丈夫かも。センパイと一緒に買い物ならデートにもなって一石二鳥ですしっ」

「勝手に話を膨らませるな! 役割分担のことじゃなくてそもそもの話に文句言ってんだよ!」

「そもそも?」

「だから、明日からもここで食べるってどういうことなんだって話だ。今日は昨日のお礼って話だったから許したが、明日からもなんて聞いてないぞ」

「それはそうですよ。今初めて話しましたし」


 こいつ、俺をおちょくっているのか……それとも素で癪に障る言い方しているのか。


「センパイのおばあちゃんに言われたんですよぉ。もしセンパイのお世話になるなら、相応の見返りが必要だーって」

「見返りだと……?」

「はいっ。あたしは全力でセンパイのお世話になるつもりなので、あたしも全力でセンパイのお世話をしようと思いまして。それでできることと言ったら、これはもう通い妻になるしかないかと」

「そもそも全力でお世話になるって部分からおかしいだろ! 一人暮らしなんだから一人で頑張れよ!」

「えーっ、センパイは単身で田舎から出てきた女の子が助けを求めてるのに、見捨てちゃうような人なんですか? そんな男の子に育っちゃったんですかぁ?」

「なんだその分かりやす過ぎる煽りは……ていうか、それじゃあほぼルームシェアじゃねえか」

「あっ、センパイが良ければ越してきましょうか?」

「良くあるか!」


 たまにのはずが、どうやら毎日こいつの飯を食べる羽目になったらしい。

 ……ここまで文句をつけておいてなんだが、正直なところ、惣菜を買うより食費が浮くのでは、なんて考える自分がいたことも否めない。

 それに、まあ、カノンの料理もうま……口に合わないこともないし。

 複雑な胸中の中、俺はまだ温かいけんちん汁を啜った。

 ……まさかとは思うが、これは毎日出たりしないよな?

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