7.禁物と自省したばかりなのに




 現在時刻、およそ午後七時。

 図書館で本を吟味していたら遅くなってしまったため、夕食は近所のスーパーで買った惣菜で済ませることにした。白飯だけはすでに炊き上がっているだろうから問題ない。

 ついでに特売だったバナナも買ってしまった。フィリピン産らしい。だからなんだ馬鹿野郎。


「……うん? なんだあれは」


 アパートの赤錆びた階段に差しかかったところで俺は首を傾げた。

 上の方でなにか倒れている……いや、あれはまさか人か?

 のぼって確かめてみると、やはり人だった。

 というか、うちの学校の制服を着た女子生徒で、なんとも滑稽な倒れ姿だった。

 傍らにあるリュックやエナメルバックのせいで後頭部だけ隠れているのに、セーラー服の上着やらスカートはめくれているせいであられもない肌が露わになっている。

 ……下着が見えていないだけマシだが、これはかなりヤバイ状態なのでは。


「なんたってこんなことになってんだよ……」


 俺は頭を抱えて立ち尽くしていた。

 女子生徒の体躯は小柄だが、それでも階段を数段分覆い尽くしている。

 おまけに後頭部付近に乗っかっているリュックやらバッグやらのせいで、大股で跨ぐのもぎりぎり難しいくらいに道を塞いでいる。

 つまりこいつをどけるか起こすかしない限り、俺がここを通るのはほぼ不可能……なのだが、


 ――触れづらいな、これは。


 こんな状態で倒れている女子生徒に触るなんて、普通に恥ずかしい。

 しかも赤の他人。おまけに脇腹やら太ももの裏側辺りがちらりと見えているあられもない姿。

 ……くそ、目のやり場が困難極まる。

 あまりじろじろ見るべきではない。そう分かっていても目線が吸い寄せられてしまう。

 人が倒れているという不可解な状況を前にしているのに、はだけた制服姿という要素があるだけで扇情的に見てしまう。たじろいでしまう。

 ……認めたくないものだな、思春期ゆえの典型的なきょどり方をしているだなんて。


 いや、きょどってる場合かよ。


 さっきからこの女子生徒はぴくりともしていない。

 もしかすると頭を打って重篤という可能性も、なきにしもあらず。

 そうなればこれは人命救助だ。触れることをためらっている場合ではない。


「おい、大丈夫か、意識は――」


 恐る恐る声をかけながら、女子生徒の後頭部を覆っているバッグなどをどかす。

 ――が、そうして発掘された鮮やかな金無垢の髪色・・・・・・を見て、目を疑いたくなった。

 この髪、そして華奢な体躯……まさか。

 あれほど触れるのを躊躇していた女子生徒の両肩を掴み、うつ伏せに倒れていた体を反転させてやる。

 まもなく、疑念は確信に変わった。

 辛そうに眉間を狭めながら意識を失っている、その嫌というほど見慣れた顔を目の当たりにして。


芥川・・……? どうして、こんなところに」

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