ブ○ボンのお菓子で、ブルボン朝っぽい王朝の王に成り上がる俺の異世界生活

藤原マキシ

プロローグ

 俺は、ブルボンのお菓子が大好きだ。


 ブルボンのお菓子がすべてのお菓子の中で最強だと思っている。

 旨さ、種類の豊富さ、安さ、入手性の良さ、どれをとってもブルボンのお菓子に敵うものはないと断言したい。

 さらに、ブルボンのお菓子には、他のお菓子にはない、田舎のばーちゃんちにいるような安心感がある点も指摘しておこうと思う。

 俺の記憶の中で、ばーちゃんちのコタツの上には、いつもみかんと一緒にブルボンのお菓子が入った菓子盆があった。

 ばーちゃんちの菓子盆は、常にブルボンのお菓子で満たされていた。

 俺や姉が食べてなくなると、ばーちゃんはすぐに戸棚からブルボンのお菓子を出して足してくれた。

 決してお菓子がなくなることがない菓子盆は、まるで魔法のお盆のようだった。


 ブルボンのお菓子を口にすると、そんな子供の頃の思い出が、昨日のことのように蘇る。

 まだ無邪気でいられたあの頃のことを思い出した。


 そんなわけで俺は、ブルボンのお菓子が大好きだ。

 心酔しんすいしていると言っていい。


 だからこそ俺は、PCの横に常にブルボンのお菓子を用意している。

 専用の棚に常時三種類から五種類のブルボン製品のストックがあった。

 ゲーム中に小腹が空くと、それらをポリポリ食べて腹を満たしている。


 そう、満たしている。

 満たしていた。

 満たして……


 って、あれ?

 やばい。


 棚を見ると、買いだめしてあったホワイトロリータが切れている。

 袋だけ残って中が空っぽになってた。


 そうか、イベントが始まって、気が付けば十二時間ぶっ通しでゲームをしてた。

 無意識にホワイトロリータを摘んでるうちに、食べ尽くしてしまったらしい。


 急にえた。


 このまま、ブルボンのお菓子なしでゲームを続けるのは不可能だ。

 糖分不足で頭が働かなくなる。

 プレミを乱発するに違いない。


 それは避けたかった。


 長時間のゲームで体がガチガチになってたし、俺は散歩がてらブルボンのお菓子を買いに行くことにした。

 パーカーを羽織って、財布とスマホだけ持って部屋を出る。


 考えてみればこれは、俺にとって五日ぶりの外出かもしれない。




 近所のコンビニに入ると、ワンオペのレジのお姉さんが「いらっしゃいませ」って、棒読みの挨拶をした。

 茶髪のお姉さんは発注用のタブレット端末みたいなのに夢中で、俺のことはろくに見ていない。


 昼下がりの中途半端な時間なせいか、店内に他の客は一人もいなかった。

 みんな、仕事をしてるか学校に行ってるんだろう。


 俺はお菓子売場に直行する。


 近所に数件あるコンビニの中で俺がよくここに通うのは、ブルボン製品の品ぞろえがいいからだ。

 ここはお菓子売り場の4分の1くらいのスペースをブルボン製品に割り振っている。

 ブルボンの現行製品ほとんどが揃う店なのだ。

 こんな品揃えにするここの店長とは、いい酒が飲めると思う。

 飲みながらブルボン製品の良さについて語り合えるに違いない。

 徹夜で語りあえる。


 でもまあ俺、酒はまったく飲めないんだけど……



 俺は目的のお菓子の棚に目を走らせた。

 この店の、普段通りのブルボン製品の充実度に納得する。

 品切れもなく、自由にブルボンのお菓子が選べた。


 さて、まず一番好きなホワイトロリータを三袋買うのは当然として、他は何にしよう。

 俺は棚の前で考え込む。


 ここはやっぱりルマンドだろうか?

 それとも、バームロールにするべきか?

 ルーベラも捨てがたい。

 それとも、チョコリエールかアルフォートで、チョコレート成分を入れるべきだろうか?


 俺は、しばらく棚の前で考える。


 潤沢じゅんたくなブルボン製品を前に、それを選ぶという至福の時間。

 最高の組み合わせを考える世界一幸せなパズル。

 俺はそれをしばらく味わったあと、気分的にルマンド選んだ。


 あの、パリパリの生地を思い浮かべるとうっとりする。

 それが何層にも重なり合っていて、噛むと歯の裏を心地よくくすぐるのだ。


 ホワイトロリータとルマンド。


 まさしく、ブルボンのお菓子のツートップとも言えるこの組み合わせ。

 俺の中での王道。

 覇道。

 至高。


 俺は、それらを持ってレジに向かった。


 俺が向かってくるのに気付いたレジのお姉さんが、面倒くさそうに端末から目を上げる。


 すると突然、


(そこのあなた)


 そんな声が聞こえた。

 それも、耳から聞こえたんじゃなくて、頭の中に直接響いてくる感じで。


(そこのあなたです)


 俺のことだろうか?


(そうです、あなたです)


 このコンビニには俺とレジのお姉さんしかいない。

 ってことは、この声はレジのお姉さんが出してるのか?

 このお姉さん、俺みたいなヤツが毎日(ファミチキください)とか電波を送ってるうちに、それを送受信するテレパシー能力を身に付けたのかもしれない。


 そんなことを考えてお姉さんを見てると、また、頭の中で声が響いた。


(いいえ、この声はそのお姉さんが出してるわけではありません)


 えっ? 違うの?


(はい、私は、こことは全く異なる世界、あなたから見て異世界で暮らす者で、神に仕える巫女みこであります)


 あ、このお姉さん、せっかくテレパシーが使える超能力者なのに、現実と妄想の区別がつかなくなってるヤベー人だ。


(いえ、ですから私はそのお姉さんではありません)


 えっ? そうなの?


(はい、人の話はちゃんと聞きましょう)


 いや、なんで自分のことを異世界の巫女とか言ってる異常者に説教されなきゃならないんだよ……


(ですから、私は本物の巫女です)


 ま、まあ、話が進まないからそういうことにしておこう。


(私はブルイヤール王国の王妃、ヨゼフィーテと申します。神に仕え、ブルイヤールの安寧あんねいを祈っておりましたが、この世界をその手に納めようと画策する魔王に襲われ、その手に落ちました。今はその城にて牢に閉じこめられています。囚われの身となっているのです)


 お、おう……


(今私は、最後の力を振り絞って異世界のあなたと交信しています。あなたの心に直接話しかけています。まもなくこの牢にも結界が張られ、外との交信はできなくなるでしょう)


 なんか、大変そうだな。


(はい、とても大変です)


 で、俺になんの用なの?


(単刀直入に言います。あなたに魔王を倒して頂きたいのです)


 は? 魔王ってあれ? 頭に角とかついてるヤツ?


(まあ、そんな感じです。強大な力を持ち、魔物の軍団を従えた、慈悲のかけらもない悪の権化ごんげです)


 はあ。


(その魔王を倒して頂きたいのです。故に、私は今から、あなたを私達の世界に転送します)


 え?


(あなたにこちらの世界に来て頂くのです)


 いや、なぜ俺?


(さあ、それは私にも分かりません。ですが、我らの神が選ばれたのがあなただったのです。あなたは我らの運命のお方です。巫女である私の祈りに応じて現れた神が、あなたと私を繋いでくださったのですから、間違いはありません)


 いや俺、魔王とか無理だって。


(はい、当然そのままでは無理でしょう。しかし、我らの神が、あなたに特別な能力を一つ授けてくださいます。どうか、その能力を使って魔王を倒してください)


 んっ? 俺に特別な力をくれるの?


(はい、神はあなたが望むいかなる能力でも与えてくださいます)


 俺が望む、って、どんなのでもいいの?


(ええ、無敵の剣の腕前、爆発的な攻撃魔法、民衆をまとめ無敵の軍隊を作り上げるカリスマ性、どんな女性も落とす魅力で、女騎士や魔法少女とのハーレムを作り、彼女達と魔王討伐を目指す、等々、なんでも可能です)


 マジで。


(はい、マジです)


 その能力を使って魔王を倒したら、こっちの世界に返してもらえるってこと?


(はい、この私が責任を持ってあなたをここに戻して差し上げます)


 でもさ、俺がそっちの世界を救ったって、俺にメリットないじゃん。こっちに返してくれるっていっても、無理矢理連れて行かれるんだから、プラマイゼロだし。


(はい、確かにその通りです。ですから、あなたには特典を用意してあります)


 特典?


(ええ。特典として、その、神から与えられた能力は、元の世界に戻っても引き継がれます)


 えっ?


(能力を持ったままそちらの世界へ戻って、あとはその能力をあなたの自由にできるのです)


 なにそれ、超お得な特典じゃん。


(はい、特典なしだと引き受けて頂けないと思ったので、神に掛け合って、精一杯がんばりました)


 なんだその、営業マンみたいな努力…………


(さらに、もう一つの特典として、こちらの世界にいらしたら、こちらの言葉が自然に理解できるよう、あなたに魔法をかけて差し上げます)


 至れり尽くせりじゃん。


(はい、特典の豪華さでは、どこの異世界にも負けません)


 だから、なんだよその営業マンみたいな努力…………


(では、受けて頂けるでしょうか?)


 まあ、受ける方向で。

 どうせ断っても無理矢理連れていかれそうだし。


(ありがとうございます。先ほども申したように、もうすぐここには結界が張られてしまいます。あなたの理解が早くて助かりました)


 いやいや、こちらこそ、いろいろ特典つけてもらっちゃって……

 って、俺、なんで卑屈ひくつになってるんだ?


(ではさっそく、どんな能力をお望みでしょう?)


 そうだな、魔王と戦うなら、やっぱ普通に考えて、無敵の剣の能力が良さそうだよな。

 バッサバッサと、かっこよく魔物を斬り裂くって感じで。


(そうですね。一番無難ですが、一番のお薦めです)


 でも、ちょっと待て。

 剣の能力だと、帰ってから使い道がないかもしれない。

 剣なんか持ってたら、こっちの世界では銃刀法違反ですぐにタイーホされちゃうし。


(それでは、攻撃魔法などいかがでしょう?)


 あっ、それいいな。

 魔法だったら魔王とカッコよく戦えるし、こっちの世界に戻っても万能だ。

 最悪、その能力を見世物にして、超能力者かマジシャンとして、YouTuberでやっていけるかもしれないし。


(では、攻撃魔法でいいですね?)


 うん、でも、さっきあんたが言ってたハーレム? とかもいいんだよな。

 どんな女性でも落とせるってやつ?

 仲間にした女騎士に、ビキニアーマーとか着てもらうこともできるよね?


(…………ま、まあ、できるとは思いますけれど…………では、どんな女性も魅了する能力でいいですね?)


 あっ、いや、ちょっと待って。


 俺、大事なこと忘れてた。


(はい?)


 そっちの世界って、ブルボンのお菓子あるの?


(ブルボ……いえ、ありませんが)


 じゃあ、ブルボンのお菓子が自由に手に入る能力が欲しい。


(はあっ?)


 ブルボンのお菓子が自由に手に入る能力をください!


(いえ、ですから、あなたはこれから魔王を倒しに行くんですよ。そのための力が必要でしょ? 魔王に立ち向かえるような、そういう能力にしましょう。剣の能力か攻撃魔法にしましょうよ)


 でも、ブルボンのお菓子がない生活なんて考えられないし、そっちの世界に行ったら耐えられないと思う。


(ですけど……)


 それに、その能力が引き継がれるなら、こっちに帰って来たとき、もう、一生ブルボンのお菓子で困ることはないじゃん。

 最強じゃん。


(ちょっと男子! 真面目に考えてください。もうすぐ、結界が張られちゃうんですよ。私と交信できなくなるんですよ! あなたを説得してる時間なんてないんですよ!)


 だから、真面目に考えてその能力が欲しい。


(だめだこいつ…………)


 おい、本音がダダ漏れになってるぞ。

 そういうのはミュートして言え。


(最後にもう一度訊きます。いいですか? もう一度訊きます。最後ですよ。本当に最後です。ファイナルラストです。ファイナルラストエンドです。どんな能力が欲しいですか? 攻撃まほ……)


 だから、ブルボンのお菓子が自由に手に入る能力をください!


(はぁぁぁぁ)


 おい、クソデカため息を吐くな。


(もう、どうにでもなぁれー!)


 次の瞬間、俺の目の前がまばゆい光に包まれた。

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