ぶらり旅(宿泊③)

...

足が重い...

違うか...足が重いわけじゃない。

一歩一歩次に進むのに、なぜかいつもより時間がかかってしまう気がする。

外の気温も寒くもなくちょうどいい感じだし、急いで目的地に向かわなくてもいい。

でも、なんだろう...

自分らしくないと感じてしまった。

元気がなくなるわけじゃない。

ただ...できるだけこの状況を次の展開に進めるのを遅らせたい。

そう思って、いつもより遅めに歩いている椎谷しいたに蘭華ランカだった。


さっきも店が閉店するまで長居してしまったな。

もちろんそれは宿泊先の滞在時間をできるだけ短くするためだ。

今の時間を見て、伯父様の家があるところまで行く電車とフェリーの一番早い時間で考えると、早朝まで滞在して...あそこは2人一部屋の値段だから、安い部屋にすると案外普通のホテルよりは安い。

そのために時間をできるだけ入る時間を遅らせたい。

じゃないと、延長料金がかかるとか調べたサイトに書いてあるし...

でも...それだけじゃないよな。


上手く説明できないけど...

恥ずかしい...というかそんな気持ちじゃない。

この人?とこのような場所で一緒に一夜を過ごすこと自体は恥ずかしい?

いやいやいや!

南アジアに行ったときだって、たまには寝処がなく、知り合ったばかりの人んちに泊まらせてもらったときだって、部屋ところか家族何人一緒に川の字みたいに寝たことだってある。

まあ、そのときは子供と女の人もいたけどね。

そう言えば、探索した遺跡の近くに野宿したとき...

一つしかないテントの中で一緒に探索に来た男の探索団員何人かと寝る場所を分けずに一夜共にしたこともあるな。

特に何もなかったから...香蓮カレンちゃんにその話をしたら、ドン引きされたんだっけ。


「あんたって...そういう男女のドキドキを感じたことなさそうだね。

いや、それ以前の問題だ!自分は女の子だという自覚がなさすぎ!せめて警戒心を持て!

男はみんな狼とかそういう話じゃないよ。例え同じ女でもある程度警戒すべきだ!」

と言われたっけ...

まあ、それ以来は少し警戒をしたつもりだったけど、逆にこんな状況になると...その警戒心が仇となった。

でも、最近普通に部屋にいるときだってこんなに意識もしなかった。

たまに話しをかけたら返事をするデカい家具とかインテリアとかみたいだもん。

今夜だって、ただ場所が変わるだけだ。

じゃ、なんで今更こんな不思議な気持ちになっているの、私?

うん...と考え込んだランカは気が付くと、目的地にたどり着いた。


あ、着いた...

うん...やはり外見はすごい豪華だな。

城みたい...

昔はもっとこういうのいっぱいあると考えたら、凄い異国感だよね。

でも、さすがにその時代を生き残ったというか...歴史を感じるぐらいの古さ丸出しだ。

入って大丈夫なのかな?

と少しためらいつつ、中に入ることを決意したランカは隣にいる巨漢に話して一緒に入った。

まずは受付の窓口に一人のお婆ちゃんが静かに座っていて、そこでランカは話しかけた。

「朝の5時まででお願いします。部屋は一番安いやつで...」と言ったランカに対して、そのお婆ちゃんは何も言わずに一つのルームキーを渡した。

言葉を発することもないが、興味深そうな瞳でランカと少し離れた巨漢を見て、なんだかちょっといやらしい笑みを浮かべた。

ランカはそれには気になるが、まずは部屋に向かうことにした。

しかし、いざ部屋の前に到着すると、なぜかさっきの気持ちが蘇った。


これは恥ずかしい...?


何に対して恥ずかしいか分からないまま、体が少し熱くなったと感じた。

なんなんだろう...この気持ち...

でも、ここまで来たってもう入るしかないよね。

えー!

と鍵穴に鍵を差し込んでひねると、扉が開けられた。


うん...中は想像の通りかな。

よく話で聞いた典型的なハート形のベッドとピンク色の照明...

外見が古い割には中の部屋は意外とキレイだ。

テレビも大きい...

まあ、変なところに触らなければ特に問題がないはず。

...!?

その異変に気づいたランカはすぐさまに巨漢に一つお願いをした。

「...これから...水を浴びる...あちら...向いて...頼む」

その言葉の中には確かに恥ずかしさがこもっていた。

その理由は浴室にある。

なぜなら、その浴室には...入っている人が外から丸見えできるほどのがあるからだ。


これはさすがに...

でも、今の気持ちはどちらかというと...実家のお父さんに見られたくない?みたいな気持ちに近いかな。

こういうのって気にしないのつもりだったけど、

これは...なんかだな。

そう思ったランカは浴室に入ることにした。

そして、巨漢はその命令...お願いの通り、その丸見えのガラス窓から背を向けた。

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