ぶらり旅(地下鉄編)

地下に降りて、細い道を抜けると、驚いたことに...そこは奈落への入り口ではなく、広い空間が見わたせた。

その空間にはいくつかの石柱が均等な距離で床と天井を支えている。

人間共が何人か歩いて、すれ違っている。

入り口のようなところに出入りしている。

この構造物は...

地下にある【神殿】なのか?


その入り口に入ると、神様の石像が祀られて、神様に祈りを捧げるために訪れる場所。

そのように見えなくもないが、気のせいか人間共の表情から見て、そんな風に感じない。

どちらかというと、慌てた様子で急いでいる人間が多い。

そして、落ち込んだ表情...疲れた表情...

そう...神からの祝福をもらったばかりの喜びの気持ちが全く感じ取れない。

今の時代の人間は神に祈りを捧げてももらった祝福に喜ばないのか?

今の人間はその有り難みを感じないほど衰退してしまったのか...

それとも、神から祝福がもらえなかったのか...

ふむ...怒らせないだけでもそれで命拾いしたという信仰かもしれない。

その場合...この神殿に祀られる神様はどのような冷酷で、残酷な神なのか...


と考え込んだとき、そこでシーター愛する我が君は少し離れて遠くない場所に走って、しばらくすると戻ってきた。

そして、何かを渡された。

それは少し固めの小さな紙だった。

これは、と呼ばれて、これから行く場所のために必要な通行証のようなものらしい。

この中に入るための何らかの証か...

まあ、それはともあれこの地下神殿に入れるということならちょうど良い。

この中にいる神様の像を一度目にしたいものだ。

我が崇拝する神様より人間が怯えるほどの怖さを持つ神と言えば、あの女神か?

アスラ族でも恐れられるあの【近づき難い者】という名を持つあの女神...

それなら、納得できる。

余もその名前を思い出すだけで恐ろしさを感じてしまうほどだ。


さあ...いざ参るかと想ったら、その前に入り口にある小さな門?...もはやただの細長い鉄の箱、高さは余の腰さえも超えない。

歩き通そうとしたら、その間に突然ペラペラの板が入り口を塞いでしまった。

これ...門と呼んでもせいせい動物の侵入を防ぐぐらいしか門の役割がない。

なぜこんな役に立たなさそうな門が設置されたのか理解しがたいことだ。

余なら、何をしなくてもあの板を折る。

しかし、愛する我が君は余を止めた。

そして、どうやら入るときの正しい作法を教えてくれるらしい。

見せられたのは先ほど渡された紙だ。

どうやらそれを使うらしい。

そこで愛する我が君はあの紙を鉄箱の一つ、その箱の上にある細い隙間にその紙を入れた。

これは...通過料というものかと思ったら、あの紙がその隙間に吸い込まれて、そして、一瞬にして別の隙間から出た。それと同時に愛する我が君はあの細い門のような入り口を歩き通して、器用に片手で出てきた紙を取った。

見事な動きだ。この神殿への入り方にはもう慣れたと見受ける。

では、余も早速...


おお...問題なく通れた...あの板も邪魔に出ずに余も神殿に入れた。

見たか!愛する我が君!

余は初めてこの時代のからくりを一回の見真似でできたことを!

余のことに賞賛な言葉を!

...と愛する我が君を見たら、すでにある距離まで歩いて行った。

何という失態...

いや、失態ではなく愛する我が君からの賞賛の言葉を乞うなど身の程知らずだ!

その賞賛の言葉はにいただくことにしよう。

それまでにはお預りだ。


愛する我が君の後をついて、また興味深いものを見つけた。

なんとこの階段...動いている!

徐々にさらに地下に進んでいるこの自動の階段の仕組みについて余は考えている。

このからくりは...そうだ!人間共が何人か下で取っ手を回して、この自動階段を動かせることに違いない!

そう...ここは神殿!

神様の従者たちは参拝者のために馬車馬のごとくこき使われる。

あの残酷な女神の神殿である憶測の裏付けにもなって、もっと納得した。


そして、到着したさらなる地下層には幅がある道であるが、両方の端にはさらに深く掘られた。

その端をよく見ると、鉄でできた太い棒が線のように敷かれていて、見渡す限りここからあの暗くて大きい穴まで続いている。さらに二つの棒が平行に敷かれている。

これは...何のために作られたのか見当が付かない。

そこで、何かの音が聞こえた。楽器の演奏ではなく、何かの音が...どこから鳴ったか分からない...と音の発生源を見ようとしたとき、愛する我が君が余の腕を引っ張った。

「危険...車...来る」と言われたが、この地下で戦車が通る場所に見えないが...

!?

あの女神の兵隊か!余がここに訪れることに対して、不機嫌になって、兵を派遣したのか...

まあ、いい。戦うなら...ここで...!?


とそこで余が目にしたのは余が想像した戦車でもなく、兵隊もいない。

すごい早さで余の目の前に通ったのは地上で見かけた鉄箱より大きく、長い鉄箱の列だった。

その鉄箱の列が次第に少しずつ早さを落として、止まった。

そして、余の目の前にある鉄箱には扉が突然魔法のように開いた。

その前に誰かの声が聞こえたが...なるほど、それは扉を開ける呪文なのか...理解したぞ...

と思っている最中に愛する我が君が余の背中を押して、その箱の中に入るように促した。

「デンシャ...乗る...急ぎ...」

その箱に少ししゃがんで入ったそのとき、扉が閉じた。

その間もなく、鉄箱はまた再び動き出した。


そう...これは余が初めて体験したと呼ばれる乗り物だった。

このデンシャが余の心の居場所まで連れて行くのか...

それともあの恐ろしい女神のもとに連行するのか...

そのときの余は隣にいる愛する我が君の笑顔を見て、その不安はこの鉄箱が導いた先でも考えることにした。

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