不思議な縁(マッチングアプリ)

香蓮カレン蘭華ランカの部屋に訪れてから、1日が経った。


意味が分からないよ...

と自分が遭った話に思わず困惑してしまった香蓮。

あの【ラージャ】という謎の巨漢?...

鬼?...

日本滞在に必要なパスポートと在留カードまで持っているというのはもうツッコミしない...

というかこれ以上知ったら怖いから突っ込めない...

役所での手続きとかは蘭華に任せて、自分はラージャの住む部屋を探すことになった。

いや、自分は親友のために自ら志願して、手伝うことになった。

まあ...今はネットで簡単に検索できるから、そこまで苦労じゃないけど...

一人の男性用の...大男用の

正直4畳半の一部屋とかでもいいじゃない?

うん...サイズの問題はね...

鬼の生活はどんな感じか全然分からないけど...

と彼女は部屋のベッドでスマホを片手で画面とスクロールして、ふっと出てきたのは部屋探しのページではなく、

最近若者の間で流行ったと言われる【マッチングアプリ】のアプリアイコンだった。


うん...

いつにたっても恋人ができないと蘭華親友によく言われた悪意のない言葉にはやはり気にしている香蓮。

今の生活で恋人とか、まして結婚とか...

自分にとってはまだ早いじゃないかと他人事みたいに思ってしまった。

恋人もなんか自分にとっては非日常に近い存在と感じてしまった。


運命の人...

そういう類いの話は自分には信じない...

自分が自ら選んだ人ではなく、運命によって選ばれた人と結ばれるとかはもう社会人になってからすでにそのような夢を捨てた。

何より、今の苦しい日常にはそんなことを気にする暇なんて...

あ、逆に今の4年目の社会人歴としてはちょうどいいかもしれない

この苦しい日常から解き放たれた何かの新しい刺激が欲しい...

きっかけ...

きっかけだけでも!

うん...


せっかく登録したこのマッチングアプリを使わないともったいないしな。

女性の方が無料で利用できるというポイントのところは...

なんだろう...なんか理不尽じゃない?

逆に男性の視点からはそうじゃないかと考えてしまった。

ここでお金を払うまで入会する男性の方も...なんと言うだろう...必死?

まあ...そのためだからか...

それも失礼だ。

全員は全員じゃないけど...


ともかく、急にやろうとしてもやり方というか...

慣れない身だから、どう見れば良いのかな?

職場の同僚に勧められて、一応インストールして登録したものの、

登録した情報は...年齢と趣味しかないし

名前は本名じゃなくて、ハンドルネームで「NS Lotus」

安直...まあ、といったらなんだが...

どうせ誰にも興味を...


持...た...ない?


え?

なんか一人私のことにという通知が届いていることになっているけど!?

というか...これ!本名...なの?

これ...本名にも見えるし、ハンドルネームに見えなくもない。

...かな?

こっちの趣味は...科学的な証明!?

これ...趣味なの?

怪しいと言うより、変わった人だな...

でも、他の人とかと違って、めっちゃプロフィールに好きなタイプとか性格とか書かれたのが一般的に対して、逆に気になる。

どんな人だろう...

一度お会いしたいね...興味本位で

と思ったら、自分の指が間違えて、画面を押しちゃった!

マッチング成立!という文字が出てきた!

うかつな行動に慌ててきた香蓮。


ど!...どうするの?

これ...承認したってこと?

キャンセルできるよね?

と次の瞬間、メッセージが届いた。

相手からだ...

早っ!と内心に思った香蓮は相手のメッセージを読んだ。

ふむふむ...いたって真面目な挨拶だ。

性格が目に見えるほどの几帳面さ。

で?もし宜しければ一度お会いして、お茶でもいかがでしょうか?

え?もうデートへの誘い?

早すぎない?

いくらでも唐突すぎるでしょう!

でも...まあ、今のところは予定があるというわけではないし...

このようなアプリで出会う人はどんな人なのか一度確かめてみようか...

最悪の場合はもうアプリをやめるだけ...


と気づいたら、相手との約束の日になった。

指定された都内の少しオシャレなカフェで相手を待っている香蓮。

親友の蘭華と違って、流行りのファッションの頑張りすぎない程度のコーデの服装で来た彼女は、カフェの窓の外を見ながら、少しため息をついた。

何やっているんだろう...私...

とここでカフェのドアが開いた音が聞こえた。

その入り口には一人の男性が入ってきて、店の中を見渡した。

そして、待ち合わせ相手を見つかったかのように香蓮が座っている席まで歩いてきた。

眼鏡と普通の黄色シャツ...この人が?

と先に声を掛けたのは香蓮だった。

「もしかして...シ...ガラキさんですか?」

と言って、その相手はこう答えた。

「始めまして。設楽したらです。設備の「セツ」と楽しいの「ラク」と書いて、したらと読みます。」

「あ!ごめんなさい...読み間違えました。」と謝った香蓮に対して、設楽という男性は首を振った。

「いいえ。よく信楽焼の漢字と間違われましたので、気にしないでください。こちらに座ってもよろしいですか?」と香蓮の向かい側の席に目線を送りながら、許可を得ようとした。

「はい。どうぞ。」と返事した後、設楽という男性は座って、眼鏡の位置を直しながら、話し始めた。

最初の質問は「ちなみに...NSは何の略ですか?」という唐突すぎる話題だった。

「え!?」と驚きがもはや隠せなかった香蓮の目が大きくした。

気を取り直して、あの質問の回答を考えた。

「え...私のハンドルネームは本名から取って、香りの「香」で英語はNice Smellという意味から略してNSにしました。Lotusも蓮の英語でした。こんなの安直すぎますよね...ハハ。」

なんか初対面の人にこの話をするとは思わなかった。

しかし、目の前の男性はそれに笑ったというわけでも面白がるもなく、ただ淡々に述べた。

「そうですか...これでハッキリして、すっきりしました。では、これで失礼します。」


...

え!?!?!?!?!?!?


「ちょっと待ってください!それだけのために今日の約束をしたのですか?」

「はい。そうですが...それを証明するために来ました。」という回答に香蓮はポカーンとなった。


やはり...だ。


そこで追加説明のように設楽という男性は次のように話した。

「普段であれば、様々な情報を限られた文字数のプロフィールに凝縮のように巧みに書いて、相手といかにも相性が合うのか気が合いそうかというのは基本的なやり方ではないかと思われますが...あなたの場合は年齢と趣味のみで、さらに一番気になるのはこのNSというところで、これは証明できないと、気が進まないタイプの人間なんで、出会いを求める訳ではありません、安心してください。いや、逆にがっかりさせてしまったかと思うので、申し訳ございません。あと、アプリの料金のことも心配しないでください。料金を払ったのは僕の兄ですので、勝手に僕の恋人を探すとか言い出して、勝手に登録したので、特に三六という名前を使ったのは兄ですので、連絡があったら、信用しないでください。今日は来ていただき、ありがとうございました。コーヒー代は奢らせていただきます。」とかなり長めの一方的に話して、席から立ち去ろうとしたそのとき、

「待ってください!」と香蓮が言って、設楽は止まって、

「何か他に問題がありますか?」と不思議そうに香蓮を見た。

「いや...ここでまだコーヒーも頼んでいないのに、奢られるとはあまりにも...私、社会人ですので、せめて折半を...違うか...まずは少しでも話をしましょうか?」と香蓮は設楽という男性を引き止めた。

「少しなら、構いませんよ。」と座り直した設楽。

「あなたの趣味にも興味があります。なぜ...科学的な証明が趣味と書いてあるのですか?」と今度は香蓮の疑問は設楽に投げた。

「科学が証明できない何かのことを...毎日のように僕に付きまとっているような...呪いのような...不思議なことが今まで数え切れないほど体験したので、それが解明して、証明できればと思って、気づいたら趣味みたいなものになりました。」と真面目に答えた設楽という男性に対して、香蓮は自分の意見を述べた。

「そういうものは信じないですけど...あなたもなんか苦労人の匂い...失礼...同じ感覚を感じます。なんか軽いと思われるかもしれませんが、いろいろ大変だったですね。」というさりげなく同情した香蓮。

「このような展開って...運命というものでしょうか?科学的に証明できないのは嫌いです。ですが、あなたと共感できる何かを持っているかと僕もさっきから感じます。」と答えた設楽に香蓮は微笑んだ。

「それ...縁と言いますよ。運命じゃなくても。では、苦労人同士でもう少し...お話ししてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。」と表情が少し柔らかくなった設楽。


「改めて...はじめまして。香蓮です。古海うるみ・香蓮。」

「はじめまして。設楽・ラクです。



運命の歯車が別の歯車と噛み合って、思わぬ方向に動き出しました。

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