羅亜夢(天啓)
うん!...やっぱり
と一気に周りの空気を吸い込んで、感想を頭に浮かべた一人の青年。
現在からほぼ一か月に遡り、設楽
今回のネパールに訪れた目的はまさにここに来るためだった。いわゆる親戚の結婚式に参加するためだ。
しかし、到着が結婚式の前日のため、今はここに一緒に来た親戚のシンさんの家にお邪魔することにしていた。
カトマンズから車で8時間でかかるこの村では有名な観光地ではなく、これだと言った名物もなくごく普通な小さな村。ここでは緑の田んぼとキレイな空が広がる...ちょうど日が沈むときのこの景色には絶景とは言えないものの、ラームにとってはとても心が安らぐ景色である。
は...ずっとここにいたいな...とふっと思ったラーム。
日本生まれ日本育ちのラームにとってここはまるで異世界みたいで、憧れなスローライフそのものだ。
人混みもなく、街の喧騒もなく、ただ静かに響いた自然の音と子供たちがじゃれ合う声しか聞こえなかった。
そう...ここにいるとまるで別の自分になれたようだ。
何も縛られずに自由に人生が過ごせる。
そのような人生が送りたい。
ただそれだけだった。
ラームは一人で泊まっている親戚の家の前に立って、景色を眺めていた。
ここに来たのは何年ぶりだろう...そのときは
そう...父さんも...
...
今どこにいるだろう...父さん
ラームの父親は子供の時に突然いなくなった。今でも失踪扱いされている。
それで母親はひとり親としてラームとラクの2人兄弟を育ててきた。
その母親も病気で何年前に亡くなって、結局父との再会もできないままに他界した。
決して母は突然いなくなった父のことを憎んでいなかった。自分が何回でも...父のことを憎んでいないかと聞いたら、「あの人は自分がやるべき使命を果たすためにいなくなったんだ」と母はいつも大丈夫そうな笑顔をしてそう答えた。
使命か...
その使命のために家族から離れて、どこかに行ってしまうのか?
そもそも使命とか運命とかは本当に存在するのか?
運命については何なのか上手く説明できないが、一つの体験談から言うと、俺は運命の人とはまだ会っていないらしい。
今まで付き合っていた女性はみんな口をそろえて同じことを俺に言うんだ...別れるときに
「あなまには運命に結ばれる人がいる。それは私じゃない」だと...
いつもそうだ
なんで?
俺は別に運命の人を求めていないのに...
ただ一緒に幸せの時間が共有できる人だけでよかったのに...
運命の人なんて...要らない。
そのとき、ラームの頭の中に浮かんだのは最近出会ったばかりの女性だった。
あの人と会った時には確かに何か運命を感じたけど、今までと違う何かが...
でも、運命の人と言うのはまだ早いし、相手にとって失礼だ。
日本に戻ったら、また会えるかな...と思ったラームは自分のスマホを取り出して、蘭華が送ってきたメッセージの画面を見た。
「とりあえず無事にジャナクプルに着いたようでよかった。一人でバスに乗るなんて、現地の人でも避ける人がいるのにな...やれやれ、面白い人ですね。」と少し笑みを見せたラーム。
結局、自分が会ってきたことで言うと、運命は存在するとしてもいいだろう。
しかし、なんで俺なんだ?
俺はただスローライフを満喫する平凡な人になりたかっただけなのに...
俺は何者だ?
と自分の問いかけたとき、周りが物静かになった。
もともとは静かな場所だが、それとまた違う静寂だった。
何の音も声も聞こえなかった。
周りを確かめて見ると、ラームは違和感を感じた。
周りの全てが止まった。
急な出来事に少し不気味さを感じたラームだったが、とりあえず家の方に戻ろうとしたとき、物音がしていた。
その方向に振り向くと、さっきまで遊んでいた子供の一人が停止した姿勢から動き出して、ラームのところに歩いてきた。
そして、その子供は言葉を発した。
しかし...明らかに子供の声だと思えないエコーがかかる低音の声が子供の口から出てきた。
「汝の本当の姿...そして、汝がやり遂げなければならん使命を忘れるな」
それに驚いたラームは声の出所を探そうと思ったが、やはりこの子からだった。
さらにその声が続いてこう言った。
「汝の役目を忘れるな...本当の自分を...思い出せ」と響いた声にまだ適切な反応ができないラームに突然背中に誰かの手が触られた。
「!?」あまりの唐突さに声が出ずに大きく丸くなった目を触れられた方向に振り向くと、そこには親戚のシンさんが立っていた。
「どうしたの、ラーム?怖い顔をして...」と疑問が浮かぶ顔をしたシンさんに対して、ラームは周りを見渡して、さっき自分が体験したは幻のように周りが普通に動いている。
幻覚?幻聴?さっきは何なんだ...旅に疲れたせいなのか...そんなまさかと自分の考えをまとめたラームは心配した親戚に向かって、「ああ...大丈夫だ、
親戚のシンさんはラームの背中を追うように目線を配って、優しい微笑みをした。
しかし、彼が次に放った言葉は全く違う雰囲気となっていた。
「これで役者が揃った」
よく聞くと、彼の声ではないエコーがかかるあの低音の声がまた現れて、そして消えていた。
シンさんは何も知らずにただラームの後につくように歩き出した。
ラームもさっきの言葉が聞こえずにただ今の日常を楽しもうとしただけだった。
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