理不尽と復讐心(ザ・ビギニング)

現在 再び大学構内の講義室内


「神々の化身アヴァターラ以外にも、神ではない存在が転生するもう一つの物語について話しましょう...これは神々の理不尽によって復讐心を抱いた一体の羅刹...日本で簡単に説明するときは【鬼】と呼びましょう...これはその鬼にまつわる話です。」


おおとり先生は先ほどの生徒の質問に対して、一回咳払いして、話を続けた。


「インド神話などの神々や天使の概念は諸君が想像したものとはたぶん違うと思う。」そう言って、鳳はホワイトボードマーカーを取り、素早く簡単な絵を描き始めた。それはいわゆるよく見かける背中から白い羽が生えて、頭の上に輪っかが浮いている【天使】の絵だった。


「たとえば...白い羽を纏い、頭の上に光の輪が浮かんでいる美男又は美女は皆さんの想像できる天使にしましょう。これはあくまでキリスト教の概念から伝わった使だ。ヒンドゥー教では唯一無二の存在の【神様】ではなく、神々が何柱存在する。そのため、天使も複数存在します...まあ、神に近い存在とも言える天使もいるし、その中の階級で分けられる上級とか下級の天国に住む【天人】と呼ぶことにしましょう。」と言いながら、ホワイトボードに線で説明した天国の何層か存在することを表す絵を書いて、続きを述べた。


「神々や天人たちが住む世界の他にも神獣や阿修羅魔族など様々な種族が天国...いや、失礼...天国と地獄のような概念は違うので、ここはと呼ぶことにします。様々な種族はこの天界に存在します。そして、やはり天界にも上と下の関係は私たちの世界と同じく...つまり人間の世界、下界と同様に、特に羅刹ラクシャーサ...鬼は天界に存在しても偉い立場というわけではありません。そこで一体の鬼がいます。この鬼はヒンドゥー教の三大神トリムールティの一柱であるの【シヴァ神】の下僕として毎日シヴァ神の謁見のために神殿に参上した天人たちの足を洗う役目を与えられ...毎日毎日その役目を務めてきた。しかし、天人たちは決して全員が良心を持っているわけでもなく、鬼は毎日毎日見下され、酷いいじめをされてきた。これは普通だ...当たり前だ...理不尽なんて...誰も思ってもいない世界でやっていけるのはその思考を保つしかできなかった。しかし、ある日...この鬼はこの理に対して、ある感情が芽生えてしまった。それは不満...のちに悲劇を引き起したに発展するという顛末になった。」


妙に静かになった講義室の中で鳳が語ったことをまとめようとした。


「これは...古代インドの叙事詩【ラーマーヤナ】のすべての始まりの物語...いわゆるゼロ話と呼べるでしょう。歪んだ復讐心が生み出され、その心はそのまま消えずに転生して、そして歪んだ愛に変わって、大戦争までなり果てた物語...そう...理不尽で切ない物語...」と話した後に目を講義室内に見渡すと、半分の生徒が興味を持っているような目で鳳を見つめている。半分は「早く終わらないかな...この話」みたいな目をした。


少しため息をついた鳳先生は

「では、物語の続きは次回の講義で話しましょう。もちろん通常の講義も引き続き...あとは今日の話題は...」と今回の話をこれでしめて、最後に生徒たちに課題を与えて、講義を終了させた。


生徒がほぼみんな部屋を出た後...一人の生徒が鳳のところに尋ねた。

「鳳先生。今日の講義はお疲れさまでした。」と真面目な顔で頭を下げてお礼をした後、顔を上げて鳳の目を見つめた。


「ああ...君はその質問をしたんだよね?どうかな?少し何か参考にもなったかい?」

「はい!大変参考になりました。ありがとうございました。」

「律儀で真面目だな、君は...これを参考に転生物語的な創作物を書いてみたいという感じにも見えないが、なぜこの話に興味があるか理由を聞かせてもらえないかな?」と鳳はもしかしてこの少年はこの物語のに惹かれているかまたは...そのまさかなと思い、少年に理由を求めた。


「はい!なんとなくですが...自分や身内に少し不思議なことはたまに起きたので...そこでその質問をしました。もし自分は誰か...またはの生まれ変わり...転生したものであれば、それに対して説明が成り立つではないかと。」


なこと...ね...」

もしかしてではなく、これは自分の勘が当たってしまったかもしれないと思った鳳は興味がわいてきそうな目をして、その少年を見た。


「ところで君は...?」

「あ、すみません...ご紹介を遅れました。僕は1年で別の学科ですが、今回の先生の講義は初めて出席しました設楽したらです。設備の「セツ」と楽しいの「ラク」で...設楽です。」

「設楽くんか...もしこの後時間があれば、一緒に昼ご飯を食べるのはどうかな?もちろん別の質問や話があればそれも歓迎するよ。」


突然の誘いにも関わらず、真面目感あふれる設楽という少年から答えはすでに出たようだ。


「はい!では、お昼を一緒にさせていただきます、鳳先生。」

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