蘭華(ランカ)

時は1か月前に遡る


東京都内 某大学の食堂


「あんたね...前のネパールへの旅が終わって、無事に帰ってからまだ一週間も経っていないのに、次の旅先も決まったの!?」

と突然相手に呆れと怒りが混じった声で話しはじめた女子大学生らしき声が食堂に響いた。


「だ、大丈夫だよ、香蓮カレンちゃん。すぐに行くわけじゃないし...ただね...」とその話し相手は何かが胸に抑えきれない気持ちが爆発しそうでニヤニヤした顔を見せた。そして取り出したのはスマホだった。


「だって、ジャナクプール寺院はすごくきれいだよ!「ラーマーヤナ」に伝わったシーター妃の故郷だよ!もう私はそこからすぐインドに行きたくて行きたくて、でも観光ビザがないし、インドの国境はすぐそこなのに、もう!なんで好きなところには簡単に行けないのかな...」

と熱弁の後にため息をついた女子大学生らしきのもう一人


それでさっき香蓮と呼ばれた女子は相手に向かってあきれた顔で肩をすくめてみせた。

「さすがインドの神話とか叙事詩に詳しい南アジアオタクの名にふさわしいあんたの発言と情熱だよね...蘭華ランカ


「へへ、その名にふさわしいと思わないけど」と蘭華と呼ばれた女子は照れながら小さな笑顔で返事した。


「皮肉だったわよ、さっきは!まったく...明るいというか呑気な性格はおめでたいよね。」

「へへ、そこまで褒められなくもいいよ、香蓮ちゃん」

「これも皮肉だよ!ひ・に・く!もうあんた...今年で卒業できないと、もう留年のところじゃないわよ」

「うん...とりあえずはさっきまで教授に説教されて、それでネパールの旅でたまたま見つかったマイナーの遺跡についてレポートを出したら、「今回は許す」と言われた。」とその説明に対して、目をパチクリさせてからまたため息をついた香蓮だった。


「は...考古学の人って遺跡とか歴史とか目がない人ばっかりなの?今回はどんだけすごいレポートなのよ?」と香蓮が再びため息をついて蘭華に問いかけてみた途端、答えを待たずに気を取り直して蘭華の目をじっくり見て次の言葉を放った。


「いい?好きなことに没頭することは責めないけど、まずは自分の財力とかを考えて行動すること!いいわね?」

「うん。もちろんだよ!だからこれからコンビニのバイトに行って、そのあとはファミレスと居酒屋の連続バイトでガッツリお金をためて、これを1か月やれば次の目的地に行けるよ!」という蘭華の回答を聞いて、香蓮は何回か数え切れないため息をついた。

そして、またあきれた顔で蘭華を見た。


「あんたは卒業する気はないよね?分かったわ。もうあんたが好きに生きればいいわ。さようなら」と椅子から立ち、去ろうとしたときに腕が捕まえられた。


「か...香蓮ちゃんの心配は理解するつもりだよ。でも大丈夫...次の目的地に行ったら、良い論文のテーマが決まりそうなの!だから...今回こそはちゃんとした論文で教授を驚かせてそれで晴れて卒業できると思うの!」


蘭華のキラキラと輝いた目にはまぶしすぎて直視できない香蓮は遠いところを見ながら返事した。

「は...今回ね...これで何回目かわからないけど、私もすでに社会人4年目なんだから、たまたま今日は大学に用事があってきたから、あんたも相変わらずだし...もう心配する側になってみろっつうの。」とまた何回かため息を交じりながら、最後の質問を蘭華に投げてみた。


「で?次の目的地はどこなの?」

その問いかけに対して蘭華は今まで見たことのない輝いた目で香蓮に近づき、円満な微笑みでこう答えた。


「スリランカ...つまりだよ!」

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