第31話 遊びに行こう
じりりじりりと鳴る目覚ましに起こされる。
すっきりするために朝日を浴びようとカーテンを開けたが、外は昨日と同じ、いや昨日よりも分厚く濃い曇に覆われている。
しばらくぼけっとその濃灰色の空を眺めていると、ぽつぽつと雨が降り始め、すぐに土砂降りになった。
「……ざけんな」
顔を洗って、歯を磨いて、朝ご飯を食べて、制服を着て、家を出る。
傘をさして歩いたものの、学校に着くころには靴下までぐっしょり濡れた。
「ほんと……ざけんな」
教室ではすぐに机に突っ伏し、寝たふりをしながら授業の開始を待つ。
「よう、彰。おはよ」
藤二の声が上から降ってくる。
いま、一番話しかけられたくない相手だった。
でもこのまま顔を上げなかったら、昨日瀬能さんと仲直りできなかったことを藤二は見抜いてしまうだろう。
「ああ。おはよ。藤二」
すっと顔を上げて笑ってみるも、すぐにうまく笑えなかったなと自覚した。
「おう。ってか朝から雨とかまじ最悪だよなぁ」
……ん?
「朝練で汗かいて、体育館から昇降口までで濡れて、まじふざけんなって感じだわ」
藤二は制服の裾をまくり上げて八分丈みたいにしている。
俺と同じように靴下は濡れてしまっているようだ。
「ほんと、雨はやだよなー」
窓の外を見ながら藤二はしみじみと呟いた。
その何気ないセリフすら映画のワンシーンみたいに絵になっている。
ああ、気づいたうえで、知らないふりをしてくれているんだと、俺は悟った。
やっぱすげぇ。
なんでもお見通しってわけか。
その優しさに、いまは甘えさせてくれ。
「だよなー。学校来るだけで靴下まで濡れたしさぁ」
俺は上履きを脱いで、湿っている靴下を見せびらかす。
「俺も俺も。ってか傘ってもっといい形状あるよな? 昔からずっとあの形じゃん」
「もうちょっと進歩してもいいよな。民間人が月に行く技術とか後回しでいいよ」
「あんな防御力低いのが人類の最高傑作なわけないもんな」
二人でけらけらと笑い合う。
俺の笑い声だけ、乾いた笑いに聞こえる。
「そうだ。彰。今日放課後、暇?」
「……まあ、暇っちゃ暇かな」
当然、瀬能さんと帰る予定もない。
「じゃあ遊びに行こうぜ」
「え?」
放課後に、友達に遊びに誘われる。
それは俺にとって初めての体験だった。
だって藤二はいつもバスケ部で忙しいから。
ああ、こんな感じでイケメンに流されて初体験を奪われちゃうわけですね!
イケメンまじやばなんですけど!
こんな笑顔見せられたらキュン死にですわ!
「いいの?」
「いいに決まってるだろ」
ああ、本当によかった。
本当に嬉しい……のか?
「でも、藤二部活は?」
「今日休みなんだ。顧問が来られないらしくて。彰はどこ行きたい?」
藤二の気遣いが本当に嬉しかった。
心にかかったモヤモヤを、藤二たちと遊ぶ楽しい時間で振り払えるかもしれない、お願いだから振り払わせてくれと、俺は神様に祈った。
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