2章 出会い①
かの『お友達大作戦』からあっという間に月日は流れ、気が付けば半年も
ここまで仲良くなれたのは、あの日思いきって『お友達大作戦』を決行したからだし、想像するよりずっと王子が
王子と仲良くなれた今、次の段階に進む時が来た。ずっと気になっていた、王子の側近についてである。
ダークブルーの
王宮では王子と仲良くなると王太子の
「ベル? ぼーっとしてどうしたの?」
考えごとに夢中になっていたせいか、王子が顔を
「俺と
「すみません、実は昨日よく
「
「大丈夫です。
「ならいいけど……」
それ以上聞くことをやめた王子は手元のカードに視線を
王子がより楽しく遊べるように
トランプなんて一通り遊べば
今日も今日とて王道のババ
「あの、
「え? なに、どうしたの?」
「殿下の、側近の方のことです」
「シュヴァルツのことかな。シュヴァルツがどうかした?」
どう切り出そうか思案したのは
「その、あまり殿下とお話しにならないので、どんな方なのだろうと思って」
「まさか、シュヴァルツが気になってるの?」
「違います!」
「ただ、主である殿下との関わりがあまりにも
歯切れの悪い私を、王子はじっと見る。真顔でこちらを見るものだから、
「……申し訳ありません、差し出がましいですよね」
言葉を
「なんで? シュヴァルツと上手くいっていないと思って、俺のこと心配してくれたんでしょ?」
ベルが俺のことを考えてくれたのが嬉しい、とはにかんだ王子に年相応の幼さを感じて、胸が切なくなった。シュヴァルツがどんな人物であろうと、私は王子の味方だ。
本格的にシュヴァルツの対策を始めようとひっそり心に決めた。
【画像】
天気の
ゆったりと
「どうしてここにシュヴァルツがいるのかなぁ?」
いつもであればこの空間にはいないはずの人物が、
「あの、私が呼びました!」
小さく挙手すると王子は私を
「ここは俺とベルの秘密基地じゃなかったの?」
「そ、それはそうなのですが……」
「ベルティーア様、せっかくのお
いつもなら、いるはずのない人物──王子の側近であるシュヴァルツは感情の分からない無表情のまま、立ち上がった。ここに来て、初めて彼の声を聞いたかもしれない。
シュヴァルツを探るためにはどうしても彼の人となりを理解するしかないのだが、どう見ても聞いたところで
王子が席を外した一瞬の
「別に、いなくなれって意味じゃないし」
「じゃあ、睨むのはやめてくれませんかね」
王子がぶっきらぼうにそう告げると、シュヴァルツは困ったように笑って
口も
もしかして、私が一人で
視線を泳がせながらも、せっかくだしと気持ちを
「ええっと、ここは王道のババ抜きで……」
「だいたい、ベルが悪いんだよ」
立ち去ろうとしたシュヴァルツを無理やり座らせた王子が、
【画像】
余計な世話を焼いた自覚があるだけに何も言い返すことができずしどろもどろだ。そんな私を見た王子は不機嫌オーラを
「俺がこの場所を気に入ってるの、ベルは知ってるはずだよね? 俺とベルだけの秘密の場所だって言ったのはベルだよ。俺を裏切るの?」
「え、ここってお二人の愛の巣的なあれですか」
「そういう意味じゃありません」
シュヴァルツが大変な誤解をしているようなので、
それに対して王子がますます
「あまり
そう言ったシュヴァルツは再び立ち上がって私たちに背を向けた。
私が誘ったため、はいそうですかと言うわけにもいかず、あわあわと
助けを求めるように王子を見ると、
「シュヴァルツ」
シュヴァルツにとってやっぱり王子は主なわけで。王子が名前を呼べばピタリと歩くのを止めた。主の話に耳を
「俺たちの秘密基地を知ってしまったのは仕方のないことだ。お前の意思じゃないしな」
ちらりと王子に横目で見られて思わず縮こまった。
「それに俺はお前には怒っていない。俺は、ベルに、怒っているんだ」
私の
「私が、軽率でした。ごめんなさい」
「何が悪かったか分かってる?」
「ええっと……シュヴァルツ様に秘密基地を教えたことですかね?」
首を傾げながらそう答えるも、王子の機嫌は良くならない。
「……シュヴァルツ様って名前呼びなのもむかつく」
機嫌の直らない王子を困った顔で見つめていたら、王子がふと目をそらして下を向く。
「ごめん……シュヴァルツもベルも悪くない。俺が勝手に
小さな声で、本当にか細い声で王子が言った。
嫉妬? え、嫉妬してるの?
王子は言いにくそうにこちらを
「だってベルは……俺の、親友、なんだろ……?」
そう言って赤くなった顔を隠すように自分の
「ディラン様、一体なにがあったんです?
「っ、うるさいなあ」
王子は顔を赤くしたまま悪態をつく。私はもうなんかいろいろとたまらなくなって、思い切り机から身を乗り出し大声で宣言した。自分の勘違いなんか頭の中からはすっとんでいて、王子が
「そうですよね! 私たち、親友、ですからね!」
私が思い切り微笑むと、王子は照れくさそうにそっぽを向きながらも小さく
そんな私たちのやり取りを
「……では、ディラン様の寛大なお心に甘えて、今日だけご一緒させてもらいます」
無表情のまま、シュヴァルツは王子を見る。
「ディラン様、ご安心ください、明日にはお二人の愛の巣に戻っていますから大丈夫です」
「愛の巣じゃありません!」
「へぇ、愛の巣か。いいこと言うね。ねぇベルはどんな家が欲しい? 俺はゆったりしたところでベルと住みたいなぁ」
いつもの調子を取り戻した王子にほっとしながらも、頰杖をつきながらうっとりと笑う様子にただならないものを感じて内心
「私たちは親友なのでは?」
「うん。親友であり
王子の言う「好き」に、友愛の意味しか
ヒロインが現れるまでの代役としては大変満足な解答だけれど、婚約やら
「あ、クリルヴェル領はどうですか? 王都の外れですが、自然が豊かでいいところですよ」
「うーん、確かにあそこはいいところだけど王都から遠いしね。仕事できないよ」
「あの、そろそろトランプしませんか?」
未来という私にとっては不確定すぎる話題を振り切るように会話を
「ベルはどこがいい?」
「まだ先の話ですから、よく分かりませんよ」
そっか残念、と微笑んだ王子は、だが食い下がるように言葉を重ねた。
「でもいつか一緒に住むことになるんだから、考えておくんだよ?」
「はい。分かりました」
「ベルは俺と結婚するんだから」
「本当に好きになった方と結婚された方がよろしいのでは?」
思わずそう
「俺はベルのことが好きだよ?」
「いや、そうではなく……」
「無駄ですよ。ディラン様は愛だとか
シュヴァルツは興味なさげに机の上に放置されたトランプをいじりながら口を開いた。その表情が
シュヴァルツとは対照的に王子は不自然なほど
これ以上この話を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます