第45話 仲間
動画再生を止め、赤城医師を迎えに玄関に向かった。
もう俺は、緊張していた。
これから俺を殺すかもしれない男と、今から話をする。
緊張しないわけがなかった。
「こんばんは」
「優生君。こんばんは」
赤城医師は紺色のスーツ姿だ。いつもの落ち着いた声をしている。ただ、少しだけいつもより音程が高いかもしれない。
彼も緊張しているのかもしれない。
俺はチェーンを外さず彼の姿を見る。
何か分からないものの強い違和感を抱いた。おかしい……夢と何かが違う。一体何だ?
背広姿は珍しいものの、前も見たことがある。
相変わらず背が高くイケメンだ。
「えっと……」
「どうかしましたか? 優生君、君は話があると私にLINEを送ってきたね。実は、私も話があります。開けて貰えますか?」
その話というのは、俺を殺すということか?
だいたい、話があるならLINEでおくってくれればいいじゃないか、などと自分のことを棚に上げつつ思った。
怖がっていても、話が進まない。
俺は、チェーンロックを外し、赤城医師を家に入れた。
「やはり、来て下さったのですね。里桜さんのお兄さん、悟さんの件で、やっぱり、心当たりがあるということですよね。何も無いのなら、無視すれば良いのですから」
「…………そうだね」
「こちらへ」
俺は赤城医師をリビングに案内した。この部屋には本棚があり、俺の目線より少し高いところにスマホを仕掛けて室内を撮影している。
玄関に向かう前に仕掛けて置いたものだ。
「今日は誰もいらっしゃらないのですか?」
「俺だけですね。でも、それだと、赤城さんにとって都合悪いのですよね?」
俺はわざと挑発をするようにして話しかける。
どこかでボロを出して襲いかかってくれれば、俺の勝ちだ。
もちろん、抵抗させてもらうけど。
「都合……?」
「とぼけたってダメです。これなんだか分かりますか?」
俺は、二つのミサンガを手に持って見せた。
「それは……どこかで……。いや、下山さんが付けていたものに似ているのか?」
演技なのか?
ミサンガが目的で来たはずだ。にもかかわらず、赤城医師はさほど興味がなさそうにしている。
相当な役者かもしれない。
そんな芝居に付き合っている訳にはいかない。俺は苛立ちを隠せなくなっていた。
極度の緊張や、早く終わって欲しいという思いが冷静さを失わせる。
「とぼけても無駄ですよ。あなたはこれから俺を、いや、俺の家族もろとも殺すために来たのでしょう?」
「優生君? いったい何を?」
俺は立ち上がり、赤城医師の元に行き、ナイフを納めていそうな所を触れて探した。
その様子に、ぽかんとする赤城医師。
おかしい。ナイフを持っていない?
そうか、俺が抱いていた違和感はこれだ。
シュッとした細身の身体。スーツとはいえ、それなりの大きさのナイフを隠し持っていれば、その部分が膨らむなり、動くときに邪魔になったりするだろう。
夢の中では、灯油をまかれ家を燃やされていた。でも、赤城医師から灯油の臭いも感じないし、そんなものを持っていない。
俺たちを殺すのは、赤城医師じゃない?
「赤城さん、俺は……」
「しッ」
口に指を当てて黙るように指示する赤城医師。
バタン、ガチャリ。
耳を澄ましていると、ドアの閉まるような音、そして鍵をかけるような音が聞こえた。玄関からだ。
「誰か……来た?」
「そのようです」
ささやき声で、赤城医師と言葉を交わす。
赤城医師は、リビングの電気を消して、俺の元に戻ってくる。
「少し様子を見てきます。優生君は、ここを動かないように」
そう言って、赤城医師は部屋の入り口に向かった。
俺の頭はフル回転を始める。
もしかして、俺は、とんでもない間違いをしているんじゃないのか?
スマホで時間を確認すると、八時を指している。
丁度、俺が赤城医師を誘った時間だ。
「優生君、やはり誰か家の中に入ってきたようです。電気も付ける様子がなく、他の部屋の中を覗きながら、こちらに向かっています。ナイフのようなものを持っています」
リビングのドアから廊下を覗いていた赤城医師が戻って来た。
様子がおかしい。
俺を殺そうとするなら、いくらでもタイミングがあった。ミサンガを所持しているのが分かったのなら、あとは俺を殺して奪えば良いはずだ。
しかし、今の赤城医師は、むしろ侵入者から俺を守ろうとしているようにも感じる。
信じてもいいのだろうか?
もしかしてグル?
いや、どうせ俺を殺すのであれば、小細工は意味が無い。
——まさか、赤城医師は俺たちを刺した犯人ではない?
夢で見た赤城医師は、俺たちが刺された姿を見て動転していただけ……?
だとしたら、ナイフを持っているという、さっき部屋に入ってきたのが真犯人なのだろうか?
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