第18話 撮影会
「おい、愛利奈、いつもこんなことしてるのか? 危ないヤツとかいないのか?」
「学校の友達とならありますわよ。
コスプレ好きな友達がいまして」
「学校なら、安心か。
でもこういう所で会うのはどんな人か分からないだろ?」
などと言っていると、警戒されていることを察したのか、その人は名刺のようなものを差し出してきた。
俺と愛利奈に一枚ずつ丁寧に。
それには、肩書きなどはなく、名前と連絡先、つぶやきサイトのアドレスやメールアドレスが記されている。
「すみません、突然声かけをしてしまいまして。
断っていただいても構いません。
その、写真を撮るのが趣味でして……風景をよく撮るのですが……そちらの女性が大変印象的で、もしよろしければと思いまして……」
とても穏やかな話し方をされる人だった。
名刺に貼り付けられているQRコードをスマホで読み取りチェックすると、つぶやきサイトではフォロワーも多く、風景画や人物の写真がいくつか貼られている。
中にはバズったものもあるようで、そこそこ有名人らしい。
つい少し前に投稿された写真もあった。
この電車の窓から見える景色のような写真がある。
いくつか評判を見てみても、悪評は見当たらなかった。
人物の写真は、顔出しがあったりなかったり。本人の希望に合わせているようだ。
「じゃあ、全部、顔は誰か分からないようにしてくれたらいいですよ」
俺はそう答える。断ってもいいんだけど、愛利奈がワクワクしているような顔をしているし、俺は別件で彼に聞きたいことがあった。
すると、
「お兄さまはいつからこんなに過保護になられたのですか?」
愛利奈からのクレームがきた。
ちょっと頬を膨らませつつも、それほど嫌そうな感じじゃない。
「色々あるだろう? 心配だからさ。
それに……」
「それに、何ですの?」
「その、なんというか……あまり色んな人に愛利奈を見られたくないというか」
そう言うと、妙に嬉しそうな顔をする。
愛利奈の前のめりになっていた姿勢が元に戻る。
「お兄さまがそう仰るなら」
結局よくわからないまま、愛利奈は納得したようだ。
俺はふう、と安心して息をつく。
すぐに、ちょっとした撮影会が始まった。
俺はフレームに入らないように愛利奈から離れる。
「いやー可愛いですね!」
向かいの席から、やけにごついカメラで撮影を続ける男性。
カシャ、カシャと電子的なシャッター音が聞こえる。
愛利奈はさも当たり前のように次々とポーズを繰り出した。
慣れているなあ。
校内でしかやってないとか、ホントなんだろうか……。
そんな俺をよそに撮影が終わり、撮った写真をチェックさせてもらった。
うん、どれも顔が分からないようになっている。
不自然さは少なく、一枚の写真として成立しているように見えた。
腕がいい、ということだろうか。
「じゃあ最後、彼氏さんと一緒にどうですか?」
いや、俺は兄なのだが……。
そう言う前に、愛利奈が俺の頬に頭を寄せてきて、
「これでお願いします!」
と言った。
ゴスロリ風のメイド服は一見ごつくて身体の線を少し隠している。
それだけに、愛利奈の肩などに触れると、その身体の柔らかさに俺はびっくりした。
そうだな。愛利奈もいつまでも子供って訳でも無いし。
来年は高校生だ。
あんまり過保護なのは良くないのかも知れないな。
「はい、いきますよー」
カシャ、と音がして撮影が終わる。
「じゃあ、お嬢様、メッセージアプリで送りますね」
「はい、ありがとうございますですわ」
カメラマンの男性は、いつの間にか愛利奈をお嬢様と呼んでいる。
ノリがいい人だ。
俺たち二人の写真だけは思いっきり愛利奈と俺の顔が写っているので、画像を送って貰ったあとは消して貰った。
愛利奈はそこまでしなくても、と言っていたけど念のためだ。
男性は快く応じてくれたのだった。
「で、あの……写真詳しいなら……これってどうやって撮影されているか分かりますか?」
俺は例のストーカーのアカウントを見てもらった。
愛利奈の撮影を許可したのも、このことを聞くことを念頭に置いてOKした。
俺のスマホを見ながら、うーん、と男性は唸っている。
「そうですね……これは……雑な撮り方ですねえ。
カメラはそれほど良いものではありません。
ですが……。ちょっと気になることがありますね」
男性は、何かに気付いた様子だ。
写真に秘密があるのか……?
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